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∥早起きをする∥

 

●朝の過ごし方が一日を大きく左右する

 その日一日が気力の充実したものになるかどうかは、当日の朝、いかに過ごすかで決まるということも、ぜひ知ってもらいたい。

 ビジネスマンなら大事な商談相手と会うとか、学生なら試験や試合があるといった日には、朝から気を入れすぎてはいけないが、気力の出やすいコンディションを作っておくことは、重要である。

 私たち人間というものは、朝のうちから物事がうまくいかないと、その日一日、調子が悪いように思えてしまい、いざとなって、気力もなかなか出しにくいからだ。

 例えば、朝寝坊したため電車に乗り遅れ、何かの事情で次の電車もスムーズにこなかったりした時、「さあ、やるぞ」という元気もなくなってしまいがちなもの。

 反対に、運よくぎりぎりで電車に間に合い、しかも自分の前の席がすぐに空いて座れたりすると、人間とは不思議なもので、急に気分は肯定的になり、「今日は何をやってもうまくいきそうだな」などと感じて、気力、元気も出やすくなる。

 朝一番の気分や行動は、その日一日を大きく支配する。そこで、「今日は頑張らなければならない」という特別な日は、朝から思い切って、意識して積極的に動いてみるのもよい。精神が活性化して、気力も出やすくなることを請け合う。

 積極的に動くといっても、むずかしいものではない。ちょっと勢いよく、体を動かすだけでいいのである。起き抜けに雨戸やカーテンをサッと、元気よく開ける。駅の階段を駆け足で上ってみる。

 このようないつもと違う意欲的な体の動かし方をするだけで、精神は確実に活性化するだろう。

 また、人間の頭脳は朝起きてから、二、三時間後くらいに活発に働き出すのが一般的だといわれるが、これには個人差もある。「特別な日だから、気力の出やすいコンディションでいよう」と思うなら、起きてから何時間たてば、人の話を聞いたり、書類を見た時に正確に反応するかくらいは、自分で確かめておいたほうがいいだろう。

 会社によっては毎朝のように、朝礼があるところもあり、起き抜けで参加するのと、自分が一番いい状態で参加するのとでは、当然ながら、話を消化する量に大変な差が出てしまう。

 どうしても頭が働かないようなら、朝早く起きてひと運動してから会社に出るとか、夜は絶対に十二時前に寝るなど、自分のライフスタイルを変えていく必要がある。

 すなわち、気力の出やすい体調を維持する方策として、私が万人に勧めたいのは、毎日、早寝早起きを実行することなのである。「早起きは三文の得、長寝は三百の損」という道理は、多くの人が子供の頃から聞かされてきたはず。

 知ってはいても、現代の日本人で早寝早起きを実行、実践している人が、果たしてどれほどいるであろうか。あるいは、まれに早寝早起きをしたとしても、それが嫌々ながら行ったのではあまり意味がないようにも思われる。

 ここが大切な点である。嫌な気持ちで起きるのと、いい気持ちでサッと寝床から離れるのとでは、その心境に天と地ほどの差があるのだ。いい気持ちで、同時に「ありがとうございます」という世の中に対する感謝の気持ちで起きなければ、早起きの意義は半減するといってもいいくらいである。

 なぜなら、いい気持ち、感謝の気持ちで早起きをする時に、その心は宇宙の心、神仏の心に結びつくからである。利己を捨てて利他の気持ちになれれば、宇宙天地大自然的な精神、神仏の精神につながるのである。

 極論すれば、早寝早起きは宇宙的法則にのっとった人間の最も根源的行為で、神様に一歩近付くことでもある。早寝早起きをしていると、心身が宇宙天地大自然のリズムに等しくなり、気力も呼び起こされて、ふだんは表に出ない能力まで、発揮することができる。それこそ、早寝早起きの持つパワーの源なのである。

 早寝早起きをしていると、自然に「幸せだ。ありがたい」という気持ちになり、物事を明るく前向きに考えるようになるのも、そのためだ。積極的な気持ちになると、気力も、元気も、幸運も、ビジネスチャンスも、自然に舞い込んでくるものである。

●前向きに考えられる朝のメリット

 人間の肉体の生理面から考えても、早寝早起きが気力に満ちた、明るく、前向きな気分にしてくれることが納得できる。

 人間の体温は、午後二時頃にピークに達する。反対に、夜中の二時から四時頃に最低になる。体温が低いというのは、いい睡眠をとるためには非常に大切な要素である。そして、最低になった頃から体温は徐々に上昇し始める。

 この体温が上昇するということは、とりもなおさず睡眠と逆、体が覚醒(かくせい)してゆくための条件である。体が生理的に順調に目覚めていくタイミングに合わせて、午前五時頃に起床すれば、心身が気持ちよく目覚めていくのは、当然の理なのである。

 だから、さっぱりと快い早起きは、追い詰められた気持ち、焦燥感、いら立ちなど、心身の病気の原因になる心の傾向をなくすことができる。同時に、人間の頭を柔らかくして、先入観や固定観念などを取り除き、頭の自由自在な働きを可能にするのである。

 それも早朝という時間が、体や心の働き始める一日のリズムに一致した、理想的時間であることを証明しているといえよう。

 禅僧などの黙想が心を自由自在に解き放ち、素晴らしいアイデア、ひらめきを獲得することができることは、よく知られている。そうした坐禅による黙想も、午前三時、四時といった早朝の修行である。この事実も、早寝早起きがいかに自由で、しかも強靭(きょうじん)な心身を作るかを暗示しているといえよう。

 人間の五官や感性を養う上でも、早寝早起き生活が大いに役に立つ。

 発生学的に大脳と最も近い関係にある皮膚感覚を、早朝のフレッシュな空気に触れさせ、刺激を与えると、目、耳、口、鼻といった感覚器官を敏感にし、大脳の感情をつかさどる部分を豊かに発達させ、感覚を磨き、感性を豊かにすることにつながるのだ。

 この点、大脳生理学の専門家によれば、人間が誰でも年を取ると自然に早起きになるのは、肉体的にも精神的にも衰えてきたことから生じる、身体の自己防衛作用の働きによるものだという。

 それならば、若い人たちが朝早く起きることで大脳に少し刺激を与えてやれば、大脳は人間に備わった自然治癒力、自然浄化力をより活性化させることになる。すなわち、生命のリズムもまた、夜は早く寝て、朝は早く起きることで、その活動を活発化させることができるということなのだ。

 さらに、早起き生活で貴重なことの一つは、時間がたっぷりあるから余裕を持てるということで、人間の精神に奥深い落ち着きを与えてくれる効果がある。

 世の中で駄目な人間といわれるのは、その場限りで物を考えたり、行ったりするタイプである。朝ぎりぎりで起きて学校に出掛けたり、会社に出勤したりという行動パターンでは、どうしても先のことを見ていないということにならざるを得ない。

 遅寝遅起きの人間にありがちな失敗というのは、余裕のなさが大きな原因である。精神の落ち着きや先を見る先見性など、持てるわけがないのである。

 早寝早起きをする人間は、その点がまるで違う。優れた企業の経営者などは、事業の先の先まで読み取る重要な時間として、早朝の時間を活用している。

 壮大でかつ綿密な先見性を身に着けるには、真の余裕というものを持つことのできる早朝が最適だからだ。すでに述べた通り、何よりも朝というのは前を見る、前向きに考えるようにできている。

 目覚めて気合よく起きれば、気持ちは昨日という後ろを向くことはない。気力も出て、集中的に前を向くようにできている。だから、早起き生活を持続していれば、おのずから先見力も磨かれてくるのである。

●精神に刺激を与える自己演出を

 最近では、夜型人間から朝型人間へ、生活パターンを切り替える人も少なくない。早めに就寝、起床するのも、習慣になってしまえば苦にならないし、いったん切り替えた人は、決して夜型の生活に戻そうと思わないはずである。

 早寝早起きすることにより、一日にリズムと張りが生まれて気力に満ち、しかも快適である上に、自分の時間が持てるからである。朝の時間は、真に無駄が少ない。同じ一時間であっても深夜の場合は、案外無意味にダラダラと過ごしていることが多いものである。

 この早寝早起きを積み重ねることの効果は、とても大きい。早起きが毎日のこととなれば、朝型人間と夜更かし型人間とでは気力の出方がまるで違うから、何カ月、何年後には、心身面のみならず仕事や学業においても、明らかに大差がつくのである。

 朝型人間ならば毎朝、早く家を出て、すいた電車の中でゆっくりと本を読んだりして会社に着けば、始業までなおたっぷり時間の余裕があるので、一仕事も二仕事もすることができる。普通の仕事には使わず、創造的な思考の時間に当てるのも一案である。

 また、自家用車で通勤している人も、家を一時間早く出ることを習慣として実行したら、その時間帯だと道路もすいているから早く会社に着けるし、電話がいっぱいかかってくる勤務時間中に比べて、勤務時間前は二倍の能率で仕事を進められるものである。

 このように私が早い出勤を勧めるのは、ビジネスマンで会社に遅くくる人は、それだけで失格だからでもある。

 時間や仕事に追われた人間が、気力を鼓舞し、いい仕事をできるはずがない。優良企業のトップなどは、七時半か八時には出社して仕事をしている。「一日は早朝の時間で決まってしまう」と、彼らは考えているからである。

 一般的にいって、ビジネスマン時代に夜型の生活を続け、一日中時間に追われるままの毎日を送っていると、定年を迎えた時に目標や生きがいがなくなり、精神も肉体もなえてしまうといわれている。

 そんな状態を防ぐには、現役時代から時間に対して、常に前向き、積極的に対応する必要がある。朝遅くまで寝ていてぎりぎりに出社すれば、すでに時間に追われていることになる。

 早くきている人間の場合は、心に余裕があるから、気力を鼓舞して仕事を追える。仕事を追っかければ、結果として視野も広くなって、次にやるべきことに気付くものだ。

 反対に、仕事に追っかけられる人間は対処するだけで精いっぱいだから、仕事に対しても必然的に消極的になろう。

 早寝早起きとは、消極的な人を積極的で気力に満ちた人にする好機であり、日中忙しく時間に追われる人を追う人に変える転機の時なのである。「時間がない。忙しい」といっている人間は、案外こういった朝の時間を捨てていないか、ここで改めて、自分の生活態度を見詰め直すとよいだろう。

 夜型の人間で、「朝はどうにも眠くてすっきりしない」というのならば、思い切って朝風呂に入ってみたらどうだろう。朝食をきちんととっていないという人間ならば、早起きして、少々無理してでもしっかり食べるのもよい。また、ラジオ体操程度の運動をしてみるのもいいだろう。

 とにかく、今まで早起きしていなかった人間には、一日のスタートのイメージをいつもの朝と違ったものにして、精神に刺激を与える自己演出を心掛けることを勧めたい。

 ふだんとは違ったスタートを切ると、その日一日をいつもと一味も二味も違った、新鮮な気分で送ることができるようになる。いつも通う駅までの道も、会社までの道も、今までと違って見えるはずである。

 こういう活性化した精神状態の時は、気合も入りやすく、気力も出やすい。寝不足の目をこすりながら、疲れた体を引きずるように通勤、通学していたのでは、せっかく出した気力も、出るべき気力も満足に生かされない。気力を出すためには、心身の準備運動が何より大切なのである。

 

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