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∥大きな息を吐く∥
●心身の健康を保つには睡眠が第一
成し遂げようとする気力を練り上げる秘訣の一つは、夜は早く寝るという正しい睡眠法にある。意外に思う方もおられるかもしれないが、これから解説していけば、明確に理解いただけるはずである。
ともかく、いざという時に鼓舞することができるように自らの気力を練り、体調を整え、心身の健康を保つためには、夜は早く寝るということに理がある。
心身が健康であれば、夜の眠りは自然であり、自然な眠りによって健康も促進され、気力、気迫、気概、元気、精神の張りも出るというものである。
本来、夜は仕事をしないで体を休め、宇宙天地大自然に生かされているという自然の順序に任せて生きれば、誰でも、日が暮れたという宇宙の構造、仕組みからいって、眠気を催すのが当然である。眠気がきたら、その眠気がゆきすぎないうちに、その眠気に乗って眠る。これは、宇宙からのお誘いであると考えなければならない。
眠りの時間は、生かしてくれるほうの親船である宇宙全体生命の中に融け込めば、一切の精神的な悩みも、肉体的な疲れも、みなこの中でゼロにしてくれるという大変な時間なのである。
人間が自分の努力で精神的な悩みや苦しみ、つまらない気持ちを転換しようとしても、そう簡単に自分で自分の気分を転換することは不可能。しかし、その時に眠ることができたら、いっぺんに気分は転換する。
だから、眠れないという人は、一番気の毒である。おなかがすいていれば食べ物がうまいように、眠れない人は昼間、懸命に働くこと、運動をすることを勧めたい。疲れるまで体を使うことをぜひ勧めたい。
熟睡できないからといって、睡眠薬や寝酒に頼っては、自然な眠りは得られない。習慣化すれば、体にも悪い。要するに、眠りの質が問題なのだ。
現代社会は残念なことに、不眠症で悩む人が多いようである。そこで、不眠症に悩む人のために、いくつかの不眠症の克服法を紹介しよう。
食事の時間帯と量に、問題はないだろうか。就寝前に食べたり、食べすぎたりするのは、眠りの妨げになる。食事時間を早くするか、夕食を軽めにして朝食の量を増やす配慮をするように。
また、カルシウム不足は神経が高ぶりやすくなるので、小魚類を食べるようにする。逆に、あまり空腹でも眠れないので、その時は温かい牛乳を飲むといい。
牛乳には、神経の興奮を静めるカルシウムがあり、消化、吸収が高いという長所がある。牛乳中に含まれるトリプトファンというアミノ酸が、脳睡眠中枢を刺激して、自然に眠りを誘うという働きもある。
次には、テレビや刺激的な音楽、読書なども、就寝の二時間前には避けるようにすること。音楽は、静かでゆったりした曲で、心が安らぐなら効果的。
神経が高ぶり、どうしても眠れない場合は、無理に寝ようとせず起きる。労働が精神労働のほうに片寄っていて、肉体は眠くなく精神だけが疲労していると、眠いようで眠れないという現象が起こることもあるのである。
この時は、腹式呼吸、丹田呼吸が役立つ。息を腹から出すつもりで、ゆっくり、ゆっくり吐いていると眠れる。静かに瞑想するのも効果的である。
眠りの大切さがよくわかったら、何を置いても、どんなに忙しくても、夜は眠ることである。一カ月の三十日を幾日、理想的に眠れたかということで、その人の人生の勝負は決まる。その人間の気力や価値や幸福の度合いが決まる。これは、人生にとって最も基本的な重大問題である。
というのに、サラリーマンの場合は、明日からの仕事を考える精神的重圧のために、日曜日の夜は寝つけないという調査もある。これでは、すっかり疲労が回復して、すがすがしい気分で、気力を奮い起こして仕事に取り組むことはできない。
そして、日曜が休日であるサラリーマンの一週間の集中度調査によると、火曜日を最高に週末に向けて下がっていき、休みの前日になると少し元気を取り戻すという結果が出ている。体を休めたはずの翌日、月曜がそれほど高くなっていないのは、家庭と会社という環境の変化に、気持ちがついていっていない面もあるだろう。
ならば、大事な人に会う時のアポイントは、月曜よりも火曜に設定したほうがよいということになる。気力や元気が回復する週末に会う約束をするのもいい。
では、気力や元気が出ない日にはどうしたらいいのかというと、歩くという簡単なことを実行すればいい。朝や昼休みや仕事中、十五分ほど歩くというのは脳に刺激を与え、全身の細胞を活性化し、気持ちを新鮮にさせるもので、気力の出やすい肉体的環境を作るのに適している。
●昼休みのごろ寝で力の発動を待つ
昼寝も効果がある。近年、社員に昼寝を勧め、仮眠室を設けている会社があるように、十分程度でも、昼寝には際立ったリフレッシュ効果が認められる。
会社の昼休み風景でよく目にするところでは、忙しいということで昼食をとりながら、書類に目を通している人がいる。このような人は、気分を一新して効率を高める、せっかくのリフレッシュの機会をわざわざ放棄しているに等しい。貴重な昼休みの時間は、もっと気分転換に活用しなければ損であろう。
人間はとかく頭ばかりで物事を考えすぎて、どちらかというと寝ても覚めても、あくせくしているのが現状である。このあくせくは神経の緊張となり、エネルギーの消耗となり、生命力を減退させ、その結果は寿命を縮める。
反対に、くつろぎの姿からは、緊張が消え、緩和されて、エネルギーが回復するばかりでなく、刻々、全身に見えない世界からの生命力が充実されるのである。
一説によると、人間の注意力集中の最高限度は二十五分間だという。そうすると、二時間も三時間も続けて仕事をしなければならない場合には、時々、気分を転換し、肉体と精神のゆとりを持つことが必要となってくるだろう。
新鮮な気持ちで物事を始めれば、普通よりも上手に、時間もかからないでできることは、自明の理である。しかも、このような気分転換に必要な時間は、決して長い時間が必要なわけではなく、わずか五分か十分の時間を必要とするだけである。
そこで、会社などで昼間疲れた時に、くつろぎの姿で体を投げ出す、いわば、ごろ寝リラックス法といえるものの要領を簡単に説明しておきたい。
一日に何回でも、気が付いたら、実行すること。必要を感じたら努めて行うようにする。もし職場に適当な施設があれば、昼休みには十分ないし十五分、体を投げ出すこと。慣れれば執務中、椅子にかけたままでも略式には行える。
昼間疲れた時には、まず水を飲んで自然作用的に肉体機能を活発にし、できれば畳の上にゴロリと横になるのが理想的である。
サラリーマンなら昼食時の休憩時間に、しっかりと食事を味わった後、仰向けに寝られる場所、例えば会社などの屋上の日の当たるところで、ビニールでも敷いて、ちょっと寝るのがよい。
そのまま、息と呼吸をつないで、十分間ほどでも深呼吸をすれば、午前中の心と体の疲れ、緊張はみなとれてしまう。疲れをエネルギーに変換して、もう一度働く力とすることができる。
家庭の主婦ならば、「少し疲れたな」と感じた時など、いつでも仰向けの大の字に体を投げ出し、体の中の圧力を大きな息で吐き出せば、たちどころに活力がよみがえる。心・気は一転し、元気回復するだろう。
このごろ寝リラックス法は、体を投げ出して、そのまま眠ってもよい。昼食後、二、三十分眠れば、一日が二日の価値になる。
二十分から三十分くらいの時間の眠りは、睡眠生理学的にいっても体まで眠る深い眠りにはならず、大脳だけを休める睡眠だから、あまり夜の睡眠のじゃまにはならない。しかも、効率よく体の疲れをとることができ、自律神経の乱れを調整していくことができるのである。
昼寝は、決して罪悪ではない。奇妙なことのように聞こえるかもしれないが、昔から立派な仕事をした人々は、居眠りの名人が多いようである。「昼食後の三十分の昼寝は夜間の三時間の睡眠にも匹敵する」といっている人もいるが、居眠りも気分転換の特効薬といえよう。その上、脳の疲れをとってくれる大切な行為なわけである。
仕事をしている時は左脳を使うが、寝ている時には右脳の働きが相対的に活発になるもの。ウトウトしている状態などは、レム睡眠ではないのだが、夢と同じようなものを見る。ウトウトすると、右脳より先に左脳が休んでしまうからだ。こうして右脳を使うと、直観、ひらめきが出てくることもある。
考えあぐねて壁にぶつかった時は、意識的にウトウトして、右脳で発想の転換をするのも一つの方法である。寝た後は、いい企画が浮かびやすいから、もっと多くの企業が仮眠室を設けるべきではないだろうか。
果報を得んとする者は、まず体を投げ出して寝、自然にわいてくる力の発動を待て、ということである。
企業に勤める人ばかりでなく、誰もが眠気を催したら、昼間でもそこへゴロリと寝る癖をつけること。十分間、十五分間の眠りでもすっきり頭がさえ、はっきり体が澄んで元気になるから、気力も出る。勉強中でも家事中でも、居眠りするより寝るがよい。体には睡眠以上の妙薬はない。
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●呼吸法で過度の緊張は防げる
昼休みのごろ寝や深呼吸、居眠りで得られるリラックスは、生まれ変わることである。
その時まで身に着けていた心の垢(あか)を洗い流して、意識や感情のしこりやこだわりをほぐして、吐き出し、生まれた時のままの自然作用、自然感覚、自然機能を心身によみがえらせ、そこから再出発すること。これがリラックスの真意である。
人間が意識でばかり物を見ると、他力が働いてくれない。他力で生きることを知らない人は、自分の心が思うようにゆかないから、じりじり、いらいらする。
じりじり、いらいらするということは、意識から感情になってくることで、決して人間の本質から派生するものではない。しかし、そういうことを繰り返すと性格となるから、注意せねばならない。
じりじり、いらいらして頭に血が上った時には、息を吐くことをぜひ勧めたい。何か失敗して興奮した時にも、息を吐けばよい。
人間は、何か失敗をすると、必要以上に落ち込むか、気合が空回りして、一種の興奮状態になってしまう。もちろん、どちらの精神状態も次に何かをやろうという時に、障害になってくる。物事を成し遂げようとする気力の高さは、高すぎても低すぎても駄目で、適正レベルにある時が、最も力を発揮できるのである。
ここ一番という時になって過度の緊張状態に陥った際などは、能力が最大限に発揮される適正レベルにまで、興奮や緊張を下げてやらなければならない。そのための有効な方法が、呼吸法なのである。
人間誰もが日常的に経験しているが、緊張すると生理的に呼吸が浅くなる。これを解消するために、ほとんど無意識のうちに深呼吸をしているのであり、もっと意図的に行えば、精神の興奮度を調整できるようになってくるのである。
精神をリラックスさせる代表的な方法として、西洋には自律訓練法があり、東洋には丹田呼吸法があるが、両者とも、深く、ゆっくり呼吸する点で共通している。
東洋の丹田呼吸法というのは腹式呼吸法の一種で、坐禅の呼吸法の一つ。深く息を吸い込み、止める。少ししてから、ゆっくりと吐き出す。この際、息は胸からでなく腹からの排出であると、素直に錯覚できるようになると理想的。
排出する時、臍下(せいか)丹田に力がこもると快感を伴う。人体は炭酸ガスが多いところに苦痛を感じるようにできているため、丹田の力で下腹の血液が絞られて心臓にゆき、肺に送られて二酸化炭素を放出すると、一挙にガスが少なくなり、苦痛がなくなって、これが快感につながるのである。
西洋の自律訓練法は、目を閉じて深呼吸をしながら、「自分は気持ちが落ち着いている」といい聞かせることによって、自分をコントロールしていく方法である。
いずれの方法も、自律神経の活動が正常になり、過度の緊張がほぐれてくる。呼吸は自律機能なので、放っておいても必要なだけ自然に呼吸するが、他の自律機能と比べて、意識によって大幅に操作できるものでもある。
空手などの武道で、修行を始める前に正座して呼吸を整えるのも、それによって肉体や精神をコントロールするためである。
大事な場面では、自分でも気が付かないうちに呼吸に変化が起きている。過度の緊張から呼吸が速く、浅くなり、のどが詰まったような状態になる。この場合、出る息をポリエチレンの袋にとって量ってみると、一分間一リットルにも満たない。入る息も少ないのは当然である。
極端に浅い呼吸では、出る息、入る息とも少量だから、二酸化炭素の体外排除が少なく、同時に血中酸素も減少する。こうした血液の状態では、脳細胞の働きは低下し、考え方も不健全に陥りやすい。血中酸素の欠乏は、脳細胞にとっては危険でさえある。
そういう時には、深呼吸をする習慣をつけること。逆に呼吸をゆっくり、深く行うことで、緊張を解いていくのである。
深呼吸で何回も何回も大きな息を吐いて、心を平らかにすればよい。苦しい時や悲しい時に、大きくため息をすれば、気持ちが楽になる。それは、頭の圧力、胸の圧力、上半身の圧力をみな、呼吸とともに外に吐き出してしまって、心が落ち着くからでもある。
他力というものは、下半身から上半身に上ってくるものであるから、上半身を空虚にしておかねばならない。息を吐いて、吐いて、吐き抜けば、胸が真空になる。頭が軽くなる。心が落ち着く。
心を落ち着かせるためには、息を吐いて、体内の圧力をなくせばよいのである。吐いたり、吸ったり自由に息ができないと、気詰まりがするはず。
息を吐いて、肉体的体調を整え、楽に楽しく生きようではないか。
ただし、ここ一番という時、肉体的体調が整っていないから気力が出ないというのは、自分に対する甘え以外のなにものでもない。たとえ寝不足だろうが、体調が悪かろうが、やらなければならないことはたくさんある。
そのような時は、とにかく「自分は今、体調が万全なのだ」と思い込むこと。事実、睡眠時間の長短より、朝の目覚めの時の気持ちの持ち方次第で、体内のエネルギーを高めることが可能である。「調子がよい」と思うことで、脳内活性物質の分泌は盛んになり、生理的にも大きな影響をおよぼすのだ。
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