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薬剤性鼻炎
薬剤性鼻炎とは、治療のために使用している薬物によって、鼻粘膜がうっ血して膨張し、鼻詰まりを起こした状態。薬剤誘発性鼻炎とも呼ばれます。
この薬剤性鼻炎には、市販の血管収縮性点鼻薬によるものと、内服薬によるものとがあります。
鼻には、吸い込んだ空気を加温、加湿する役目があります。鼻の中には甲介骨(こうかいこつ)という数枚の骨が突き出しており、ちょうど暖房器の放熱板のように表面積を広くして、呼気を加温、加湿しやすくしています。とりわけ下鼻甲介骨の表面には、海綿状静脈洞という分厚い血管網が取り巻き、その表面をさらに粘膜が覆っていて、吸い込んだ呼気と温かい血液の間で熱交換することで呼気を温めます。
このように血管が豊富な鼻粘膜の組織が、さまざまな鼻疾患によって充血して病的に膨張すると、鼻の空気の通り道が狭くなって鼻詰まりが生じます。鼻詰まりに対して、市販の血管収縮性点鼻薬は即効性があり、海綿状静脈洞の血管を急激に収縮させてその場で鼻詰まりを取ります。最初は4時間程度効果が続きますが、長期間に渡って連用すると効果が少なくなり、さらには生理的な血管調節が障害され、鼻粘膜はかえってはれ上がります。
鼻炎が悪化すると、血管収縮性点鼻薬の効き目が切れる時の呼吸困難感は耐えられず、何度も血管収縮性点鼻薬を使用するという悪循環を繰り返します。使用をやめると、症状が以前よりも悪化することがあります。使用している人に、血管収縮性点鼻薬が鼻炎の悪化の原因になっているという自覚がないこともあります。
症状としては、鼻詰まりを主に、嗅覚(きゅうかく)障害、鼻漏(びろう)、前頭部の頭痛などがみられるほかに、鼻部の不快感や乾燥感、イライラ感、鼻出血なども生じることがあります。また、血管収縮性点鼻薬を常用する切っ掛けとなったアレルギー性鼻炎や、花粉症などのの症状を合併している場合もあります。
血管収縮性点鼻薬を大量に使用すると、心臓の血管が収縮し、心筋梗塞(しんきんこうそく)を起こした報告もあります。薬物依存を起こし、重大な副作用の原因にもなるので、薬局、薬店では買わず医療機関で相談してから使用するのが安全です。
一方、原疾患の治療のために使用している内服薬にも、長期間に渡って連用すると薬剤性鼻炎の原因となって、鼻詰まりなどの副作用を発現するものがあります。原因となる内服薬には、高血圧薬として使われる交感神経遮断性降圧剤やベータ受容体刺激性降圧剤、アスピリンやイブプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症鎮痛薬、点鼻用血管収縮薬、利尿剤、抗精神病薬、抗パーキンソン薬、気管支拡張剤、経口避妊薬、勃起(ぼっき)不全治療薬などがあります。
薬剤性鼻炎の症状を治すには、常用している血管収縮性点鼻薬などの中止が第一です。1〜2週間の完全中止で、血管収縮性点鼻薬の影響はおよそ消失するといわれます。
しかし、鼻詰まりの症状を苦にして血管収縮性点鼻薬を常用するようになったのであり、使用を中止すれば、少なくとも一時的には鼻詰まりが強くなることが多いため、急に中止することが困難なこともしばしばあります。この際は、まず副腎(ふくじん)皮質ステロイドの入った抗アレルギー用の点鼻薬を併用して、血管収縮性点鼻薬の使用は就寝前などに制限して減量していき、1ないし3週間かけて完全に中止します。
また、血管収縮性点鼻薬を常用する切っ掛けとなった原疾患が存在するならば、その治療を行わなければ、たとえいったん血管収縮性点鼻薬を中止できても、問題を解決したとはいえません。
症状がひどいケースでは、耳鼻咽喉(いんこう)科の医師によるアレルギー性鼻炎などの原疾患に対する手術も行われます。はれ上がった下鼻甲介骨粘膜を電気やレーザーで焼いて取り除いたり、アルゴンガスの中に特殊な高周波電流を流すことで生じるプラズマで焼いて取り除いたりして、鼻詰まりを取ります。
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