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副腎腫瘍
副腎腫瘍(ふくじんしゅよう)とは、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器である副腎の一部が、2センチから3センチ程度、はれた状態。
副腎は皮質と髄質からできており、副腎皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。
副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモン活性のない非機能性腫瘍に分類されます。ほとんどは非機能性腫瘍で、皮質腺腫(せんしゅ)、骨髄脂肪腫、嚢腫(のうしゅ)、転移性腫瘍などがあります。
機能性腫瘍がホルモンを過剰に分泌する場合には、さまざまな疾患の原因となります。代表的なのは、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンが多く作られる原発性アルドステロン症という疾患です。高血圧患者の1割弱を占めるともいわれています。
また、クッシング症候群、褐色細胞腫という疾患も多くみられ、高血圧や糖尿病などを引き起こします。
原発性アルドステロン症は、副腎皮質から分泌されるホルモンのうち、アルドステロン(鉱質コルチコイド)の過剰分泌によって起こる疾患。報告者の名前にちなんで、コン症候群とも呼ばれます。
副腎皮質の片側の腫瘍、または両側の副腎皮質の肥大増殖が原因となって、起こります。腫瘍の場合は、ここからアルドステロンが多量に分泌されますが、肥大増殖の場合は副腎全体からアルドステロンが出てきます。
アルドステロンは腎臓に作用し、体の中にナトリウムと水分を蓄えるために高血圧になります。また、尿の中にカリウムを排出する作用を持つため、アルドステロンが過剰になると血液中のカリウムが減って、低カリウム血症となり、筋力の低下による四肢の脱力や、疲れやすいなどの症状が引き起こされます。
そのほか、低カリウム血症により尿量が多くなり、口の渇きがみられたり、発作的に数時間の間、手足が動かなくなる周期性四肢まひが起こったり、テタニー発作という痛みを伴う筋肉の硬直現象が起こることもあります。
高血圧に低カリウム血症を合併していたら、この原発性アルドステロン症が疑われます。治療しないでほうっておくと、高血圧が長く続くために体のいろいろな臓器に障害が起こってきますので、内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの専門医を受診することが勧められます。
クッシング症候群は、副腎皮質から分泌されるホルモンのうち、グルココルチコイド(糖質コルチコイド)の過剰分泌によって起こる疾患。アメリカの脳神経外科医ハーヴェイ・ウィリアムス・クッシングによって、初めて報告されました。
下垂体(脳下垂体)に腫瘍ができ、そこから副腎皮質刺激ホルモンがたくさん出るために起こる場合と、副腎皮質に腫瘍ができて起こる場合が主なものです。前者はクッシング病とも呼ばれます。
クッシング症候群の原因としては、クッシング病が約35パーセント、副腎腫瘍が約50パーセントを占めるほか、時には、肺や膵(すい)臓、消化管にできた腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが多量に分泌され、副腎に働いてグルココルチコイドが過剰に分泌される場合もあります。女性に多くみられます。
近年、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)がネフローゼや白血病などの治療に、大量に用いられるようになったために人工的な副腎皮質ホルモン過剰が起こり、同じ症状を起こすことがあります。
クッシング症候群の症状としては、顔が丸くなり、にきびができやすくなります。肥満してきますが、手足はあまり太くならず、胴体が太いのが特徴です。また。肩や尻(しり)、太ももの筋肉が薄くなり、階段の上りなどがつらくなります。
そして、腹や太ももなどに皮膚伸展線である赤紫色のすじがみられ、皮膚が薄くなって、ちょっとしたことで青あざができやすくなります。高血圧、糖尿病が起こることもあります。骨が薄くなって背骨の圧迫骨折を起こし、身長が低くなったり、背部痛が起こることもあります。
女性では、月経が不順になったり、無月経になったり、毛深くなります。
褐色細胞腫は、副腎の髄質にできた腫瘍によって、自律神経に働くアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が大量に分泌されて、高血圧を起こす疾患。若い人が、ひどい高血圧を起こすのは、この疾患が原因のことがあります。
腫瘍は主として副腎髄質の細胞から発生しますが、時には、ほかの交感神経系のクロム親和性細胞からも発生します。脊髄(せきずい)に沿ったクロム親和性細胞は、重クロム酸カリウムを含む液で固定すると、褐色に染まる細胞をいいます。
腫瘍の大部分は良性で、時に悪性の場合もあります。多くは明らかな原因もなく腫瘍が発生しますが、遺伝的に褐色細胞腫になりやすい家系もあります。
褐色細胞腫の症状としては、高血圧と糖尿病が起こります。高血圧は、発作的に起こる場合と持続的に血圧が高い場合とがあります。
発作的に起こる場合は、急に不安感、緊張感が起こり、強い動悸(どうき)やズキンズキンとした頭痛を感じ、脈が速くなり、手足が震え、瞳(ひとみ)が大きくなります。手足が冷たくなり、時には耳鳴り、吐き気、嘔吐(おうと)がみられます。
また、しばしば尿糖が出ます。発作は数分から1〜2時間、時には数日続くこともあります。まれに、心不全や出血の危険性が高まることもあります。
このようなはっきりした発作がなく、いつも血圧が高く、また糖尿病になっている場合もあります。
発作的な血圧上昇、動悸、頭痛などがしばしば起こる場合は、内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの専門医を受診することが勧められます。
内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、アルドステロンの過剰分泌を確かめるため、血液中、尿中のホルモンを測定します。アルドステロンは腎臓から分泌されるレニンというホルモンによって調節されていますが、原発性アルドステロン症のように、副腎から勝手にアルドステロンが出てくると、レニンはその働きを控えます。そこで、診断のためには血漿(けっしょう)レニン活性が抑制されていることを確認します。
腫瘍か肥大増殖か、また、左右どちらの副腎に腫瘍があるのかなどを判断するため、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、あるいは副腎シンチグラフィーを行います。腫瘍はしばしば小さく、また多発性のこともあり、これらの検査で診断できない場合があります。その場合は副腎の近くの血管にカテーテルを挿入して、そこから採血する副腎静脈血サンプリングという検査を行うこともあります。
腫瘍による場合、その腫瘍を手術で摘出します。何らかの理由で摘出手術ができない場合や、肥大増殖の場合は内服薬で治療を行います。アルドステロンの産生を制限する目的でトリロスタン(デソパン)、アルドステロンの作用を阻害する目的でスピロノラクトン(アルダクトン)などが用いられます。
原発性アルドステロン症が治れば、血圧は徐々に低下します。しかし、疾患の期間が長く高血圧が長く続いた場合は、血圧が下がりにくいこともあります。
内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による診断では、副腎からグルココルチコイドが過剰に分泌されていることを確認するために、血液検査や尿検査を行います。
下垂体の腫瘍や肺、膵臓などの腫瘍から副腎皮質刺激ホルモンが出て起こっている場合は、副腎皮質刺激ホルモンが増えています。一方、副腎の腫瘍からグルココルチコイドが出ている場合は、副腎皮質刺激ホルモンはかえって減っています。このどちらであるかを調べて、どこに原因があるかを明らかにします。
下垂体の腫瘍の場合は、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行います。副腎の腫瘍の場合は、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査などを行います。
医師による治療としては、腫瘍の場合は下垂体でも副腎でも、手術を行って過剰なホルモンを作っている腫瘍を摘出することが最もよい方法です。
下垂体の腫瘍の場合は、経蝶形骨洞的手術という、鼻の穴から下垂体に達し頭を開けずに、顕微鏡や内視鏡で見ながら腫瘍を摘出する方法によって、以前に比べ楽に手術できるようになっています。手術で摘出し切れない場合や、体力的に手術が困難な人の場合は、注射や内服薬による治療、放射線療法などが行われます。
副腎の腫瘍の場合は、大きくなくて適応できれば、開腹せずに腹部に小さい穴を3カ所くらい開けて内視鏡と手術の道具を通し、副腎を摘出する内視鏡手術が数多く行われています。内視鏡手術の適応ができない時は、開腹や背中を開けて副腎を摘出します。体力的に手術が困難な場合などは、グルココルチコイドを作る副腎の働きを抑える薬を内服します。
内科、内分泌代謝内科、循環器内科などの医師による診断では、血液および尿の中のアドレナリン、ノルアドレナリンを測定すると増加しているのがわかります。腫瘍を探すために、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、血管造影などの画像診断を行います。家族歴などから、遺伝的要因が関係した褐色細胞腫が疑われた場合は、遺伝子の検査が望まれる場合があります。
治療は、手術によって腫瘍を取り除くことです。高血圧によって、体のいろいろな器官が悪くならないうちに手術をすれば、完全に治ります。手術ができない場合には、血圧を下げる作用のある交感神経遮断薬(α〔アルファ〕受容体遮断薬)を使用します。
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