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肺高血圧症



心臓から肺に向かう肺動脈の血圧が高くなる疾患

肺高血圧症とは、心臓から肺に向かう肺動脈の血圧が高くなる疾患。比較的まれな疾患ですが、年齢に関係なく起こり得る複雑な疾患です。

酸素の少ない血液が右側の心臓の右心房へ戻ってきて、右心室を通って肺へ送られ、肺で酸素をもらって血液は左側の心臓の左心房へ進み、左心室を通って全身へ送られます。これが人間の血液循環の仕組みです。左側の心臓から全身へ血液を送る動脈の血圧が上昇するのがいわゆる一般的な高血圧であり、右側の心臓から肺へ血液を送る肺動脈の高血圧が肺高血圧症です。

 平均肺動脈圧が安静時25mmHg(ミリエイチジー)、運動時30mmHg以上となるものを肺高血圧症と呼びます。

肺動脈の血圧が高くなるのは、右側の心臓から肺へ血液を送る肺動脈の血管の内腔(ないくう)が狭くなったり、あるいは肺動脈の末梢(まっしょう)の小動脈の内腔が何カ所か狭くなって、血液が通りにくくなるためです。

何らかの原因で肺動脈の血管の内腔が狭くなると、肺を通過する血液の循環が不十分になります。この時、心臓が血液を十分に送ろうとするため、肺動脈の圧力が高くなります。肺動脈に血液を送る右心室は、より大きな力が必要なために心臓の筋肉を太くして対応しようとします。しかし、もともと右心室は高い圧力に耐えられるようにできていないため、この状態が続くと右心室の壁は厚くなって拡張し、右心室の機能が低下して肺性心(はいせいしん)という状態になります。さらに病状が進行すると、右心不全という通常の生活を送るのに必要な血液を送り出せない状態に陥ります。

肺高血圧症の初期は、無症状です。しかし、肺動脈の血圧が上昇し疾患が進行してくると、体を動かした時に息切れを感じるようになります。また、胸痛、全身倦怠(けんたい)感、呼吸困難、立ちくらみ、めまい、失神などを認めることもあります。肺性心となり右心不全を合併すると、顔や足のむくみや食欲低下などの症状も出現します。

肺高血圧症を起こす原因は、たくさんあります。国際分類(2003年ヴェニス分類)では、肺高血圧症は原因によって、肺動脈性肺高血圧症、通常の心臓病による肺高血圧症、肺の疾患や低酸素血症による肺高血圧症、慢性血栓や塞栓(そくせん)による肺高血圧症、その他の肺高血圧症の5種類に分けられます。

肺動脈性肺高血圧症は、さらに細かく特発性肺動脈性肺高血圧症、膠原(こうげん)病性肺動脈性肺高血圧症、先天性心疾患などの他の疾患に続発して起こる肺動脈性肺高血圧症、薬剤性肺動脈性肺高血圧症などに分けられます。いずれの場合も、その原因は解明されておらず、1998年から国より、いわゆる難病、特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。

肺動脈性肺高血圧症の中では、特発性肺動脈性肺高血圧症は最も頻度が高く、以前は原発性肺高血圧症と呼ばれていた疾患とほぼ同義であり、原因不明の慢性かつ進行性の難病です。従来の治療では5年間の生存率が30パーセントといわれていました。長い間の研究で、さまざまな治療薬が試みられていましたが、最近、肺血管を拡張させる薬が開発され、治療効果も上がってきています。

膠原病性肺動脈性肺高血圧症は、全身性エリテマトーデス、強皮症、混合性結合組織病などの自己免疫が原因で発症するものであり、比較的病状の進行が速いのが特徴で、特発性肺動脈性肺高血圧症より生存期間が短い傾向があります。

慢性血栓や塞栓による肺高血圧症では、急性肺血栓塞栓症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症が頻度が高い疾患です。急性肺血栓塞栓症は、足や骨盤などの静脈でできた血の塊が肺の血管を詰まらせる血栓症で、エコノミークラス症候群とも呼ばれます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、血栓が数年かけて血管と一体化して肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併したもので、国より、いわゆる難病、特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。

肺高血圧症の早期発見は、非常に重要です。早期発見と早期治療によって、生存率が上昇するからです。

肺高血圧症の検査と診断と治療

循環器内科の医師による診断では、右心カテーテル検査や、肺動脈造影検査、心臓超音波(エコー)検査、経食道エコー検査、心臓MRI、呼吸機能検査、肺シンチグラム、CT検査、血液検査などが行われます。

さまざまな検査のうち、右心カテーテル検査は、肺高血圧症の診断および治療がどの程度有効かを見極める上で最も大切な検査です。肺動脈の圧力が実際にいくつなのか、また肺動脈の血管がどの程度流れにくくなっているのかを正確に判定することができる唯一の検査方法です。

首もしくは脚の付け根からカテーテルという細い管を挿入し、静脈を通して肺動脈まで血流に乗って通過させ、肺動脈の圧力を直接測定します。肺高血圧症の原因によっては、肺動脈造影検査を行ったり、カテーテルを通して心臓や血管のさまざまな部位から採血を行うことを追加の検査として行います。

循環器内科の医師による治療では、肺動脈性肺高血圧症の場合は従来、血管内で血栓が生じるのを予防する抗凝固薬、循環血漿(けっしょう)量を減少させて心臓の負担を減らす利尿薬、血管を縮める作用のあるカルシウムを抑制することで血管を広げるカルシウム拮抗(きっこう)薬、通常の空気より高い濃度の酸素を吸うことで心臓の機能が低下して全身への酸素供給能力が低下しているのを補う酸素吸入によって治療されていましたが、予後改善効果は大きくありませんでした。

近年では、肺の血管を拡げて血流の流れを改善させる肺血管拡張療法が効果を上げています。肺血管を拡げるプロスタサイクリン製剤のフローランのポンプを用いた持続静注や、プロスタサイクリン製剤の誘導体であるベラプロスト製剤の内服、肺血管を収縮させるエンドセリンが血管平滑筋に結合することを防ぐエンドセリン受容体拮抗薬のトラクリアやヴォリブリスの内服、血管平滑筋の収縮を緩めるサイクリックGMPという物質を増加させるホスホジエステラーゼ5(PDE5)の作用を阻害するPDE5阻害薬のレバチオやアドシルカの内服などにより、次第に予後が改善されてきています。

一方、原因の明らかな2次性肺高血圧症の場合、原疾患の治療により肺高血圧の改善が期待できます。

急性肺血栓塞栓症の場合、血栓の遊離による肺塞栓を予防するため、下肢のむくみや痛みが軽減するまで安静を保ち、下肢を高く上げておくことが必要です。痛みに対しては非ステロイド抗炎症薬を使い、血栓の治療と予防には抗凝固薬や血栓溶解薬を使います。下肢のチアノーゼがひどい場合や、症状が重く急を要する場合には、カテーテル治療や血栓摘除術によって直接血栓を除去します。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の場合、原則として血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法が行われます。手術的に摘除可能なら、肺血栓内膜摘除術が行われます。2000年代後半から、一部の医療機関では、詰まった血管を広げるバルーン(風船)によるカテーテル治療が行われ始めています。

現在使用可能な治療法を継続しても右心不全が進行する場合、肺移植を行うこともあります。

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