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日本住血吸虫症
日本住血吸虫症とは、吸盤を持った日本住血吸虫が門脈という血管の中に生息することによって、引き起こされる寄生虫病。
この日本住血吸虫という名前は、日本での研究が盛んだっことに由来していて、世界で唯一住血吸虫を撲滅した国でもあります。かつては甲府盆地、利根川流域、広島県片山地方、九州の筑後川流域などが流行地として知られていましたが、1978年以来新しい発症者は出ておらず、すでに絶滅したと考えられています。 しかし、中国やフィリピン、インドネシアなどの東南アジアでは、いまだ多くの発症者が出ています。
また、日本住血吸虫症を含む住血吸虫症になると、世界中で2億人が発症していると推定され、マラリアやフィラリアとともに世界の3大寄生虫病の1つとされています。
日本住血吸虫の成虫は、オスが1.2〜2.0センチ、メスが 1.5〜3.0センチの体長で、細長く、人間などの寄生する動物、すなわち宿主(しゅくしゅ)の小腸から肝臓へつながる静脈血管である門脈の中に生息して、 宿主の赤血球を食べています。 成虫の寿命は通常3~5年ですが、まれには30年の長きに渡ることもあります。
日本住血吸虫は一生のうち、何度も姿を変えます。成虫が寄生している門脈で産み落とされた虫卵は、糞便(ふんべん)とともに水中に流出すると、虫卵の中でミラシジウムが活発に動き、卵のからを破って水中に泳ぎ出します。ミラシジウムは中間宿主で、湖沼や低湿地に生息する巻貝の一種、ミヤイリガイの皮膚から侵入し、その体内で成長します。中間宿主とは普通、寄生虫の幼虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は無性生殖を行います。中間宿主がないと、寄生虫は生きていくことができません。
長さ5ミリほどのミヤイリガイに侵入したミラシジウムは、スポロシストという姿になり、貝の中で2世代を過ごします。2世代目のスポロシストは、セルカリアという姿に成熟します。セルカリアは2つに枝分かれした尾を持ち、貝から水中に出て泳ぎ回り、終宿主である人間などの動物が水中に入ってくると、蛋白(たんぱく)質を溶かす酵素を使って皮膚を溶かしながら体内に侵入します。終宿主とは普通、寄生虫の成虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は有性生殖を行います。
皮膚から侵入する時に尾を切り捨て、セルカリアは血液に乗って体内を移動します。心臓から肺に行き、それから再び心臓に戻り、大循環によって門脈に達した後、そこで成虫になるまで過ごします。セルカリアが人に侵入してから成虫になるまで、およそ40日ほどかかります。
成虫は門脈系の細い血管に行き、そこで産卵を行います。産卵された虫卵は、体内のさまざまな部位に運ばれます。腸管内に運ばれたものは、糞便と一緒に体外に排出されます。また、肝臓や脳に運ばれるものもあります。
日本住血吸虫症の症状としては、まずセルカリアが皮膚より侵入した時に、かゆみのある皮膚炎を起こします。侵入から5~10週の間、セルカリアが体内を移行することによって、せき、発熱、ぜんそく様発作、リンパ腺(せん)炎などが起こり、時に肝臓や脾(ひ)臓がはれることもあります。
侵入後10~12週で、虫体が成熟して産卵が始まると、発熱、腹痛、下痢などの症状が現れます。虫卵が肝臓に流入した場合には、虫卵が血管を詰まらせて炎症を起こし、最終的に肝硬変になることもあります。肝硬変になると、腹水がたまり、腹部がはれてきます。多くの虫卵が血管を通って脳に流入した場合には、てんかん様発作、頭痛、運動まひ、視力障害などのさまざまな症状が現れます。
日本住血吸虫症で一番恐ろしいのは、肝臓や脳に対する症状で、悪化すると死に至ることも少なくありません。
医師による確定診断は、肝生検あるいは直腸粘膜の生検によって、組織中に虫卵を確認することによってなされます。現在の日本の発症者の多くは、過去に感染していてもすでに炎症は消退し、古くなった虫卵は石灰化しています。超音波検査やCTでは、肝臓の表面は特徴的な亀甲(きっこう)状あるいは網目状の肝硬変像を示し、石灰化した虫卵と線維化がみられます。
治療においては、駆虫剤のプラジカンテルの内服が有効ですが、副作用があるので注意します。過去に感染している場合には、肝硬変や肝細胞がんの合併があり得るので、画像診断による経過観察が行われます。
予防法としては、セルカリアのいる水に接触することにより感染が成立するので、汚染された水に直接触れないことに尽きます。しかし、日本住血吸虫が撲滅されていない外国で漁業や農業をする人は、水に直接触れることを避けられないので、予防は大変困難です。
日本住血吸虫症を根本的に撲滅するためには、中間宿主であるミヤイリガイの数を減らす必要があります。日本では、さまざまな殺貝剤をまいたり、水路をコンクリートに変え、ミヤイリガイが繁殖しにくいような環境にすることによって、撲滅に成功しました。汚染地域が比較的限られていた日本と異なり、外国では汚染地域が広大であり、ミヤイリガイの撲滅は簡単ではありません。
なお、甲府盆地などではミヤイリガイがいまだ多数生息しており、これらは中国やフィリピンの日本住血吸虫にも感受性があるため、人間や動物の移動に伴って外国産の日本住血吸虫が侵入した場合、国内で寄生虫病が再興する可能性も否定することはできません。
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