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大腿四頭筋拘縮症



乳幼児や小児の太腿の前面にある大腿四頭筋が硬くなって、本来の機能が損なわれ、歩行や正座が困難になる疾患

大腿四頭筋(だいたいしとうきん)拘縮症とは、乳幼児や小児の太腿(ふともも)の前面にある大腿四頭筋が硬く線維化して、本来の機能が損なわれ、歩行や正座が困難になる疾患。大腿四頭筋短縮症とも呼ばれます。

大腿四頭筋は大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋の4つの筋からなる筋肉で、骨盤および大腿骨から起こり、下のほうへ伸びていって膝蓋(しつがい)骨を包んで共同の膝蓋腱(けん)となり、脛(けい)骨粗面へ付着する強大な筋肉です。

大腿四頭筋拘縮症の多くは、小児期に明瞭となり、歩行開始から学童期ごろまでに発症します。通常は大腿四頭筋のすべてではなく、大腿直筋、外側広筋、中間広筋、内側広筋のうちの1つか、2つが障害されます。

すでに1946年に疾患が報告されていましたが、当時は先天的なものと考えられていました。しかし、1970年代に入って日本各地で多発し、社会問題となりました。そこで、日本医師会は1974年に検討委員会を設け、その原因として、まれにある先天的なものと、乳幼児や小児の大腿四頭筋への抗生剤や解熱剤の皮下注射や筋肉注射によるものとがあることを明らかにしました。

しかし、大腿四頭筋に注射を受ければ必ず筋肉の線維化が生じるわけではなく、むしろ一部に発生するものと思われます。注射薬の種類、濃度、量、回数などの各種の要素のほか、乳幼児や小児の体質といったものも関係しています。

大腿四頭筋拘縮症のほとんどは、足の不自由や歩行異常を来し、痛みなどを生じることはあまりありません。また、立位になると、出っ尻(ちり)の状態を示します。硬く線維化した筋肉と骨との成長の不均衡のために、骨の成長障害や変形をもたらすこともあり、左右の脚の長さが数センチ違ってしまうこともあります。

また、大腿四頭筋拘縮症は3つのタイプに分けられ、タイプによって症状に違いもあります。

大腿直筋が障害される直筋型では、尻(しり)上がり現象がみられます。尻上がり現象は、うつ伏せに寝て膝(ひざ)を曲げると、尻が浮き上がる現象をいいます。直筋型の場合、正座は程度の差はありますが、可能です。

大腿直筋と外側広筋が障害される混合型では、尻上がり現象がみられ、正座もできません。外側広筋と中間広筋が障害される広筋型では、尻上がり現象はみられませんが、正座ができません。

また、直筋型、混合型では、悪いほうの脚を外側へ振り回しながら歩くぶん回し歩行や、出っ尻歩行といった歩き方の異常がみられる場合があります。広筋型では、膝を突っ張って歩く棒足歩行といった歩き方の異常がみられる場合があります。

大腿四頭筋拘縮症の検査と診断と治療

整形外科、あるいは形成外科の医師による診断では、太腿への筋肉注射を受けたことがあって、そこに皮膚のくぼみや硬いしこりがあり、それに加えて足の不自由や歩行異常があれば、容易に判断できます。

関節の状態を判定するためにX線(レントゲン)検査を行ったり、筋肉の状態を把握するためにMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行う場合があります。

整形外科、形成外科の医師による治療では、年齢や、障害された筋肉や程度に応じて、方針を立てます。乳幼児である場合には、そのまま経過観察して筋力の増強を図ります。

小児の重症例に対しては、筋膜、靭帯(じんたい)、障害されている筋肉を切る筋切離術を行うのが一般的です。

手術を行うことにより、尻上がり現象の程度が軽くなったり、正座ができるようになったり、歩き方がよくなったりすることが期待できます。

しかし、手術前の状態によってもその成績は異なり、症状が再発したり、再手術が必要になることがあります。また、筋肉を切るために術後に筋力が低下する場合があります。

予防法としては、皮下注射、筋肉注射を問わず、注射の乳幼児や小児への乱用を慎むこと第一で、医者で治療を受ける時は保護者が十分な説明を受けることが大切です。

なお、注射による筋肉の拘縮は、大腿四頭筋のほか、殿(でん)筋、三角筋、上腕三頭筋などにもあり、注射部位として絶対安全なところはありません。

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