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遅発性尺骨神経まひ



原因となった損傷があってから、かなり遅れて尺骨神経まひを起こす疾患

遅発性尺骨神経まひとは、肘(ちゅう)関節周辺の損傷などの原因となった損傷があってから、かなり遅れて尺骨(しゃくこつ)神経まひを起こす疾患。

骨折、関節炎、先天的奇形、職業上で繰り返す外傷や脱臼(だっきゅう)、腫瘍(しゅよう)などによる肘関節周辺の損傷や変形により、肘(ひじ)の皮膚の表面近くを通る尺骨神経が、肘の屈曲に際して引き伸ばされたり、圧迫されたり、摩擦されることによって、徐々にまひが起こり、手指のしびれや感覚障害、運動障害、筋力低下を生じます。

最も多い原因は骨折で半数以上を占め、しかもその4分の3が上腕骨の骨折、中でも手首を甲側に曲げる筋肉が付いている上腕骨外側上顆(がいそくじょうか)の骨折によることが多く見受けられます。

肘関節周辺の損傷後、遅発性尺骨神経まひを発症するまでの期間は、数カ月後、数年後から数十年後にもおよびます。幼児期、小児期に原因となる損傷を受け、中年期、老年期に至ってようやく発症することも少なからず見受けられます。

腕に走る大きな神経の1つである尺骨神経は、肘の内側にある上腕骨内側上顆(ないそくじょうか)という骨の出っ張りの後ろを通り、その先にある骨と靭帯(じんたい)などで形成された肘部管という狭いトンネルをくぐって、手に伸びていきます。トンネル内は狭くゆとりがないため、慢性的な引き伸ばしや圧迫などが加わると、容易に尺骨神経まひを生じます。一般に、まひは利き手側に起こり、両手に同時に発症することはめったにありません。

尺骨神経の働きは、手首の屈曲、小指と薬指の屈曲、親指を人差し指の根元にピッタリつける内転、親指以外の4本の指を外に開く外転、4本の指を互いにくっつける内転です。知覚神経は、小指、薬指の小指側半分、手のひらの小指側半分を支配します。

尺骨神経が引き伸ばされたり、圧迫されて遅発性尺骨神経まひを発症すると、ほとんどの場合は最初、小指と薬指の小指側半分のしびれや痛み、感覚障害が起こってきます。また、尺骨神経は手のひら側と甲側の両方を支配しているので、指全体がしびれるのが特徴です。寝て起きた際にしびれていることが、しばしばあります。肘周辺のだるさ、前腕内側の痛みやしびれが出現することもあります。

尺骨神経の障害が進むと、親指の付け根の母指球筋以外の手内筋が委縮して、やせてきます。特に、手の骨と骨との間の筋肉がやせるので、指を開いたり閉じたりする力が弱くなったり、親指の内転困難によって親指と人指し指で物をつまむ力が弱くなったり、はしが使いづらくなったりなど、細かい動きがうまくできない巧緻(こうち)運動障害が生じます。顔を洗うために手で水をすくったりする動作も、難しくなってきます。

そのほか、重症で慢性の尺骨神経まひでは、手の筋肉が固まって指が曲がったままになる鉤爪(かぎづめ)変形(鷲手〔わして〕変形)と呼ばれる独特の現象が起こることもあります。

小指や薬指にしびれや痛みがあり、肘の内側にある上腕骨内側上顆の後ろをたたくとしびれや痛みが走ったら、整形外科を受診して下さい。一般に、症状が軽いほど、早い回復が見込めます。手指の筋肉にやせ細りがあれば、急を要します。

遅発性尺骨神経まひの検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、損傷した神経の位置を特定するために、神経伝導試験を行います。親指の付け根の母指球筋以外の手内筋の筋委縮や鉤爪変形、両手の親指と人差し指で紙をつまみ、紙を引く時に親指の第1関節が曲がるフローマンサインがあれば、診断がつきます。

感覚の障害がある時は、皮膚の感覚障害が尺骨神経の支配に一致していて、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢(まっしょう)神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査などを必要に応じて行います。

変形性頸椎(けいつい)症、前斜角筋症候群などの筋委縮性疾患による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害などとの鑑別が必要で、問診で首の痛みや肩凝りがあるかなどを聞くこともあります。

整形外科の医師による治療は通常、筋肉の硬直を防ぐために理学療法で治療します。超音波治療、電気治療、ストレッチング、アイスマッサージ、アイシングを主に行い、夜間に肘が過度に曲がるのを避けるために添え木で固定したり、肘の負担を避ける肘用のパッドを着用したりします。

肘の圧迫や長時間の肘の屈曲など、明らかな誘因がある場合には、生活習慣の改善と局所の安静で軽快することが多い傾向にあります。ビタミン剤の内服も有効と考えられます。障害を受けている神経の周囲にブロック注射を行うこともあります。

小児期の骨折によって生じ、肘を伸展させると過剰に外側に反る外反肘など、肘関節周辺の骨折や腫瘍などにより肘関節に変形を起こしている場合や、筋委縮を起こしている場合では、手術が必要になります。手術方法には、腫瘍の切除、腱弓(けんきゅう、オズボーンバンド)の切開、内側上顆の切除、神経の前方移行術などがあります。

腱弓の切開は、尺骨神経を圧迫している膜状の組織を切る手術です。ほかの手術に比べて簡単ですが、再発する場合があります。手術後は、1週間ほど肘を固定します。

内側上顆の切除は、肘を曲げた時に内側上額で尺骨神経が引っ張られ、圧迫されないように、内側上顆を切除します。手術後は、1週間程度の肘の固定が必要です。

神経の前方移行術は、尺骨神経を内側上顆の後ろから前側に移す手術です。手術方法には、前側の皮膚の下に神経を移す皮下前方移行術と、指を握る筋肉の下に移す筋層下前方移行術があります。皮下前方移行術では3週間程度、筋層下前方移行術では1カ月程度、それぞれ肘を固定します。

神経の手術で回復の望みの少ないものは、ほかの筋肉で動かすようにする腱(けん)移行手術が行われます。

手術後は、神経の回復を促すために、ビタミンB12剤を服用したり、低周波療法などを行うこともあります。回復の早さは、神経の障害の程度によって異なります。

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