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知覚異常性大腿痛
知覚異常性大腿痛(だいたいつう)とは、大腿の前面と外側の感覚をつかさどる外側大腿皮(がいそくだいたいひ)神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ。外側大腿皮神経痛、大腿外側皮神経痛とも呼ばれます。
外側大腿皮神経は第2、第3腰椎(ようつい)から出て前方へ向かい、腰の部位で急激に曲がって鼠径(そけい)部の辺りから皮膚の下に出て、大腿の前面と外側の皮膚に分布します。そのため、腰椎部で神経が圧迫された時に、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあるほか、外側大腿皮神経が鼠径靭帯(じんたい)を貫通する骨盤の前上腸骨棘(こっきょく)部で筋肉や靭帯により圧迫された時にも、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあります。
前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時には、股(こ)関節の位置や格好で症状が生じたり、治まったりすることもあります。コルセットの着用、窮屈な下着やズボンの着用、べルトの締めすぎ、自動車のシートベルトの締めすぎなどにより、前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時にも、痛みや知覚異常が生じます。
また、肥満、妊娠により骨盤周囲の筋肉の緊張が強くなることで、外側大腿皮神経が障害されることもあります。妊婦においては胎児が正常な位置にいない場合に、知覚異常性大腿痛としてしびれが出ることもあります。鼠径ヘルニアの手術や股関節の手術の後に、一時的な外側大腿皮神経の圧迫により障害されることもあります。
症状は、大腿の前面から外側にかけて、ヒリヒリと痛んだり、しびれが出たり、知覚が鈍くなったりします。服が皮膚にこすれるのが苦痛になることもあります。しかし、外側大腿皮神経は感覚だけをつかさどる神経で運動をつかさどらないため、足がまひして上がらなくなったり、歩行に支障を来すことはありません。大腿の内側や膝(ひざ)より下に、症状が出ることもありません。
知覚異常性大腿痛の多くは、姿勢や動作によって症状に変化がみられます。
骨盤の前面を走る前上腸骨棘部で外側大腿皮神経を直接圧迫することによって、痛みが憎します。起立や歩行時は、外側大腿皮神経が牽引(けんいん)気味になり痛みが増します。
股関節の伸展は、外側大腿皮神経を牽引し痛みが増します。反対に、股関節を深く屈曲することでも、外側大腿皮神経自体を圧迫し痛みが増します。うつぶせに寝ている時は、外側大腿皮神経が軽く圧迫され、股関節が伸展されるので痛みが増強する傾向があります。仰向けに寝て軽く膝(ひざ)を曲げている時は、痛みが軽減します。
案外多い病態ですが、正確な診断を受けていないことが多いようです。もし、知覚異常性大腿痛の症状に思い当たることがあれば、整形外科、神経内科の医師を受診することが勧められます。
整形外科、神経内科の医師による診断は、特徴的な症状と、前上腸骨棘部の周囲で軽く皮膚の上をたたくと大腿の前面と外側に響くようなしびれと痛みが出るチネルサインで判断します。念のために、腰椎や骨盤のX線写真、MRI検査などで、変形性腰椎症や腰椎椎間板ヘルニアなどの疾患がないかどうかをチェックします。
坐骨(ざこつ)神経痛との鑑別が必要ですが、しびれなどの場所が坐骨神経痛と知覚異常性大腿痛では違いますので、鑑別は簡単です。坐骨神経痛では、尻(しり)から大腿の裏側、下腿などにしびれや痛みが出ます。
整形外科、神経内科の医師による治療は、外側大腿皮神経を圧追する原因を取り除くことが第一です。体重を減らすことや、骨盤部の矯正、窮屈な下着やズボンの着用の禁止などが、効果を発揮します。
また、消炎鎮痛剤の内服、外用を行い、痛みが強い場合は局所麻酔薬を注射して痛みを和らげる神経ブロックを行います。この場合、1 回の注射では一時的に症状が緩和しても、数時間から1日で元の症状に戻ったりしますので、何回か注射を繰り返すこともあります。局所麻酔薬と一緒に、ステロイドホルモン剤という炎症を抑える薬を注射することもあります。
腰椎部で神経が圧迫された時には、脊髄(せきずい)の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行います。
症状が治まらず、日常生活に支障を来す場合は、外側大腿皮神経を剥離(はくり)、または切離する手術を行うこともあります。炎症を起こした神経は周囲の靱帯や筋肉と癒着した状態にありますので、その癒着を手術で解き放つのを剥離、神経そのものを切除して痛みを感じなくするのを切離といいます。
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