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膣炎



女性生殖器系の器官である腟に、主に細菌が感染して炎症が起こる疾患

膣炎(ちつえん)とは、女性生殖器系の器官である腟に、主に細菌が感染して炎症が起こる疾患。

腟は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。腟の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。腟壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この腟の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、腟には自浄作用という働きがあります。腟壁上皮は卵巣から分泌される女性ホルモンであるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、腟内の乳酸桿菌(かんきん)によって乳酸菌に換えられます。これにより腟内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

しかし、いろいろの原因で自浄作用の働きが低下すると、主に細菌が感染して膣に炎症が起こり膣炎となります。

症状は、膣炎の原因や程度により異なります。一般には、白色、黄色、膿性(のうせい)、血性などの下り物がみられます。膣入口部の灼熱(しゃくねつ)感、掻痒(そうよう)感なども起こります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血、掻痒感などの症状が現れることもあります。

原因によって、細菌性膣炎、カンジダ膣炎、トリコモナス膣炎、委縮性膣炎(老人性膣炎)などに分類されます。時には、異物、例えば生理用タンポンの取り忘れなどが、原因になることもあります。

細菌性膣炎は、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、ガードネレラ菌、B群溶連菌などの一般細菌の増殖によって起こります。灰色または黄色の水っぽい下り物があり、魚のような生臭い悪臭を伴うこともあります。しかし、約半数の人は症状を感じません。

妊娠している場合に細菌性膣炎を見過ごしていると、流産や早産の原因になることがあり注意が必要です。特に、早産の原因の大部分は細菌性膣炎だとも見なされ、細菌性膣炎があると絨毛(じゅうもう)膜羊膜炎が起こり、その結果早産になるとされています。

カンジダ膣炎は、カンジダと呼ばれる真菌(かび)の一種の増殖によって起こります、下り物は白色または黄色で、クリーム状または粉チーズのものが増えます。外陰部の炎症を伴い、強いかゆみがあります。糖尿病患者や妊婦によく起こり、抗生物質を服用した後になることもあります。

トリコモナス膣炎は、トリコモナス原虫という単細胞生物の増殖が原因で起こります。トリコモナスはガスを産生するため、悪臭を伴った泡沫(ほうまつ)状、緑黄色の下り物が増えます。外陰部のかゆみを伴うこともあります。普通は性交で感染しますが、風呂やサウナなどでも移ることがあります。

委縮性膣炎は、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが閉経後に低下し、それとともに自浄作用も低下して細菌が繁殖するために、膣壁が委縮して起こります。通常は加齢に伴って発症するもので、生理が止まった閉経後の女性の多くが委縮性膣炎を生じている状態にあります。また、出産から最初の月経までの期間の産婦や、悪性腫瘍(しゅよう)で卵巣を摘出する手術をした女性にも発症することがあります。

下り物が黄色っぽくなる、血が混じる、悪臭を伴うなどの症状が、現れることがあります。腟壁の痛みや灼熱感などの不快感、腟入口の乾燥感、掻痒感、違和感などの症状が、現れることもあります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血などの症状が、現れることもあります。

下り物の増加は子宮がんのような悪性腫瘍でも起こるので、色の付いた下り物がある時は、婦人科、産婦人科を受診することが勧められます。

膣炎の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、腟の分泌物を顕微鏡で観察し、炎症反応やその原因となった病原体を検出したり、時には培養したりして特定します。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、まず膣炎の原因を探し、これを取り除きます。

細菌性膣炎は、膣錠が使っての治療が一般的です。薬が効けば通常、2~3日で症状は消えます。しかし、いろいろな細菌が原因となって起こるため、薬を投与しても増えている菌によっては効果がないこともあり、なかなか治らないような場合には、さまざまな薬を試していくこともあります。

最初の治療の前には、膣洗浄を行って増えた細菌を洗い流して症状を抑えます。この膣洗浄を行うのは、普通は初回の治療だけで、治療のたびに膣洗浄を行うと、せっかく増えた乳酸桿菌が消えてしまうためです。

カンジダ膣炎は、膣洗浄と、カンジダを殺す働きのある薬が入った膣錠を用います。外陰部のかゆみに対しては、カンジダに効く軟こうも併用します。多くは4、5日で症状がとれますが、自己判断で治療を中止すると再発しますので、根気よくきちんと治療を継続し、治療後の検査が欠かせません。

特に、妊娠時には徹底的に治しておかないと、出産に際して、腟内のカンジダが新生児の口の中に感染し、口腔カンジダ症の原因となります。性のパートナーに感染することがあり、かゆみを伴った小斑点(はんてん)状の発赤が陰部にみられることがあります。この場合は、カンジダに効く軟こうで治療します。

トリコモナス膣炎は、顕微鏡で小さい原虫であるトリコモナスが発見されたら、膣洗浄とメトロニダゾールの膣錠を用い、同時にメトロニダゾールの経口剤も用います。

メトロニダゾールは、アルコールと一緒に服用すると、悪酔いや吐き気、肌の紅潮を引き起こします。内服治療中は、アルコールは飲めません。性のパートナー間で感染するので、治療は2人で行ったほうが再発する頻度が少なくなります。

委縮性腟炎は、女性ホルモンの膣錠、エストロゲンの経口剤や貼付剤、女性ホルモンの補充療法などで、症状の改善を図ります。軽度の炎症であれば、膣洗浄によって細菌を流し、症状を改善させることもあります。細菌感染がひどい場合は、抗生物質が入った腟錠を併用することもあります。性交痛などに対して、潤滑ゼリーを勧めることもあります。

異物として時々みられるのが、生理用タンポンの取り忘れです。悪臭のある下り物が持続しますが、これを除けばすぐに治ります。

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