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神経管閉鎖障害とは、母胎内で、脳や脊髄(せきずい)などの中枢神経系のもとになる神経管が閉鎖し、頭蓋骨(とうがいこつ)や大脳半球、脊椎骨(せきついこつ)が正しく発育できなくなる疾患。新生児の先天性疾患の1つです。
神経管のどの部分が閉鎖するかで障害の現れ方は異なり、主に二分脊椎と無脳症の2つがみられます。日本国内での発症率は、二分脊椎は1万人に5人から6人、無脳症は1万人に10人程度と見なされています。
二分脊椎は、先天的に脊椎骨(椎骨)が形成不全となって起きる神経管閉鎖障害の一つ。脊椎披裂とも呼ばれます。
母胎内で、神経管が作られる妊娠の4~5週ごろに、何らかの理由で神経管の下部に閉鎖障害が発生した場合に、脊椎骨が形成不全を起こします。
人間の脊椎は7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。脊椎を構成している一つひとつの骨である脊椎骨は、椎間板の付いている前方部分の椎体と、椎間関節の付いている後方部分の椎弓の2つからなっています。本来、後方部分の椎弓は発育の途中に左右から癒合しますが、完全に癒合せず左右に開いて分裂しているものが、二分脊椎に相当します。
神経組織である脊髄や脊髄膜が、分裂している椎弓からはみ出し、皮膚が腫瘤(しゅりゅう)、すなわちこぶのように突き出します。これを嚢胞(のうほう)性(開放性)二分脊椎といいます。
逆に、椎弓が分裂している部位がへこんでいることもあります。これを潜在性二分脊椎といいます。
二分脊椎は、仙骨、腰椎に多く発生し、胸椎、頸椎に発生することはまれです。
二分脊椎の発生には、複数の病因の関与が推定されます。環境要因としては、胎生早期におけるビタミンB群の一種である葉酸欠乏、ビタミンA過剰摂取、抗てんかん薬の服用、喫煙、放射線被爆(ひばく)、遺伝要因としては、人種、葉酸を代謝する酵素の遺伝子多型が知られています。
出生した新生児に嚢胞性二分脊椎が発生している場合、二分脊椎の発生部位から下の神経がまひして、両下肢の歩行障害や運動障害、感覚低下が起こるほか、膀胱(ぼうこう)や直腸などを動かす筋肉がまひして排尿・排便障害、性機能障害が起こることもあります。脊椎骨の奇形の程度が強く位置が高いほど、多彩な神経症状を示し、障害が重くなります。
多くは、脳脊髄液による脳の圧迫が脳機能に影響を与える水頭症(すいとうしょう)を合併しているほか、脳の奇形の一種であるキアリ奇形、嚥下(えんげ)障害、脊椎側湾、脊椎後湾、脊髄空洞症を合併することもあります。
出生した新生児に潜在性二分脊椎が発生している場合、無症状のケースと、脊髄神経の異常を伴っていて、幼児期はあまり症状がみられないものの、学童期や思春期になると下肢痛やしびれ感、排尿・排便障害などの症状を示すケースがあります。後者の場合、しばしば脊髄稽留(けいりゅう)症候群、神経腸嚢胞、脂肪腫、皮膚洞、類皮腫、割髄症などの合併がみられます。水頭症、キアリ奇形などの合併は、非常にまれです。
嚢胞性二分脊椎の治療には、脳神経外科、小児外科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、泌尿器科を含む包括的診療チームによる生涯にわたる治療が必要ですので、このような体制の整った病院を受診するとよいでしょう。
無脳症は、脳の先天的な発育不全により、頭蓋骨半球、大脳半球、小脳の欠如を伴う奇形症。無頭蓋症とも呼ばれます。
人間の脳は、脊髄の先端が膨らんで発達してきたものです。脊髄の上には、延髄、中脳、間脳があり、その上には両側に大脳半球が存在しています。延髄の後方には小脳があり、後頭部に位置しています。
脊髄や脳は、胎児の神経管から形成されます。無脳症の症状が現れた胎児である無脳児は、妊娠4週間程度までの超初期の段階で、神経管上部の閉鎖不全などが起こって神経管の発達が阻害されることで、後々の脊髄や脳の成長が妨げられます。妊娠4カ月ころまでは脳のある程度の発育がみられるものの、妊娠5カ月ころから一度は形成されたはずの大脳、小脳のほか、生命の維持に重要な役割を果たす延髄などの脳幹が突然退化したり、発育が止まったります。
原因については、詳しく解明されていません。人種によって発現の頻度に差があるため遺伝的な要因が関係すると考えられているほか、妊娠初期における母体の栄養摂取の不足との因果関係も指摘され、飲酒や喫煙、薬剤、放射能被曝、ダイオキシなどが関与しているとも考えられています。
無脳児が母胎内で死亡して流産となるケースは少なく、出産の時までは生命を維持します。しかし、脳幹も欠損して死産となる確率が約75パーセントで、残る新生児も出生直後に死亡し、ある程度脳が残存している場合は生後数日間生存します。部分的に大脳皮質が形成されて機能し脳波が測定される場合は、生後1週間~2週間程度生存するものの、まれです。海外では、奇跡的に1年以上生存しているケースもありますが、日本では、そのようなケースはありません。
無脳児では、大脳半球は通常欠如して全くないか、小さな塊に縮小しているため、頭で帽子をかぶる部分に相当する頭蓋骨や頭頂部が欠如し、頭蓋の基底面が露出するとともに、基底面に付着するように変性し、表面が薄い皮膜で覆われた脳の一部が露出しています。
顔貌(がんぼう)は特徴的で、前から見ると蛙(かえる)状です。そのほか、眼球の突出や欠如、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)を合併していることもあります。
延髄の下半分が存在していれば、嚥下や啼泣(ていきゅう)がみられ、音刺激、痛覚に反応を示します。正常な幼児が特有の刺激に応えて示す原始反射は、存在しており、腱(けん)反射は高進しています。
無脳症の胎児を身ごもった妊婦に関しては、妊娠中期までは母体に自覚症状があることはほとんどありませんが、妊娠後期に入ると羊水過多になる傾向があります。これは無脳症により脳幹にまで障害があり、嚥下運動ができなくなるためといわれています。
羊水は胎児にとって絶対に必要なものですが、多すぎると母体への負担が多くなります。ひどい場合は、腹が異常に膨らみ、呼吸器が圧迫されて呼吸困難にるケースもあります。妊娠後期の羊水過多症は早産の原因にもなるため、母体への負担を考えて、多くの場合で人工的に出産を誘発する措置が行われます。
脳神経外科、小児外科の医師による二分脊椎の診断では、嚢胞性二分脊椎の場合、妊娠4カ月以降の超音波診断や羊水検査でわかることが多く、遅くとも出生時には腰背部の腫瘤により病変は容易に明らかになります。脊椎部と頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査を行い、嚢胞の中の脊髄神経の有無、水頭症の有無を確認します。
また、自・他動運動検査、肢位、変形、感覚などの検査を行い、どの脊髄レベルまでが正常であるかを調べます。
潜在性二分脊椎の場合は、椎弓が分裂している部位の皮膚のへこみや色素沈着、多毛などの皮膚病変、あるいは皮膚のすぐ下に脂肪組織が蓄積して発生する脂肪腫の存在が発見の切っ掛けになりますが、気付くのが遅れることもよくあります。
脳神経外科、小児外科の医師による治療では、嚢胞性二分脊椎の場合、生後2、3日以内に背中に露出した形になっている脊髄や脊髄膜を感染から守るために、皮膚と脊髄神経の分離、皮膚の縫合など閉鎖手術を行います。
仙骨、腰椎、胸椎、頸椎などの奇形が発生した部位により、症状には重度から軽度まで個人差はありますが、下肢障害に対しては車いす、補装具などによる装具療法、理学療法、整形外科的手術による対処を行い、排尿・排便障害に対しては導尿、浣腸(かんちょう)、摘便(洗腸)、下剤、機能訓練による対処を行います。重症例では呼吸障害、嚥下障害による栄養障害への対処、知的障害への療育を行います。
潜在性二分脊椎の場合、出生時に症状が出ることはないので、治療の対象にはなりません。時に脊髄神経の異常を伴っていることがあるので、経過だけは観察し、ある程度成長した時点でX線(レントゲン)検査、MRI検査などを行い、脊髄神経の状態を調べます。無処置でよいケースもありますが、脂肪腫の切除、脊髄稽留の解除、皮膚洞の切除などの手術が必要なケースもあります。
産科、産婦人科の医師による無脳症の診断は通常、分娩(ぶんべん)の前に超音波断層法を用いて行われます。胎児の超音波検査により、妊娠4カ月以降であれば、出生前診断が可能となります。また、羊水または母体の血清から血清蛋白(たんぱく)α-フェトプロテインが検出されます。
胎児が無脳症と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはごくまれな状況となっています。
産科、産婦人科の医師による治療に関しては、残念ながら無脳児を母体の中で治療する方法はなく、自然治癒したケースもありません。
予防に関しては、原因に多因性があることと、遺伝子研究がその段階に至っていないことから、確実なものは発見されていません。
日本では、ビタミンB群の一種である葉酸が遺伝子の合成や細胞分裂に不可欠で、その摂取が無脳症や二分脊椎などの神経管閉鎖障害という先天性異常になるリスクを低減するとして、厚生労働省が2000年に、妊娠を希望している女性に対して、1日当たり0・4ミリグラム以上の摂取を推奨しています。ホウレン草などの緑黄色野菜、果物、レバー、卵黄、胚芽(はいが)、牛乳などに多く含まれる葉酸は、水溶性ビタミンで熱に弱く5割が調理でなくなってしまうので、サプリメントなどから摂取するのが効率的です。
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