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爪甲色素線条
爪甲色素線条(そうこうしきそせんじょう)とは、爪(つめ)の甲の根元から縦方向に、黒色や褐色の線状、または帯状の色素沈着が生じた状態。
爪は、爪の甲と、爪の根元の皮下にあって爪を作り出している爪母、爪の甲を下で支える爪床から成り立っています。このうち爪母や爪母付近に何らかの病変があると、まず爪の甲の根元の表面に爪甲色素線条が現れ、爪が伸びるのに伴って、その直線状の色素沈着が次第に爪先へと移行します。
爪母や爪母付近にある病変としては、メラニンという皮膚の色を濃くする色素が異常に増加したほくろや、あざなどの色素性母斑(ぼはん)があり、爪母に色素性母斑が生じた後に、爪に爪甲色素線条が現れます。
粘液嚢腫(のうしゅ)やグロムス腫瘍(しゅよう)などの良性の腫瘍、爪部悪性黒色腫(爪メラノーマ)や基底細胞がんやボーエン病など悪性の腫瘍が爪母に生じた後にも、爪に爪甲色素線条が現れます。
また、扁平苔癬(へんぺいたいせん)や線状苔癬のなど皮膚疾患、アジソン病やクッシング症候群などの内分泌異常、ポルフィリン症や栄養失調などの代謝異常、ポイツ・イエーガー症候群や妊娠などの全身疾患、細菌や真菌の感染症、抗がん剤などの薬剤の内服、手指への放射線治療や紫外線療法、靴あるいはギターの演奏などによる繰り返す外的刺激が、爪母や爪母付近に病変を及ぼした後にも、爪に爪甲色素線条が現れます。
一般に、爪の根元に現れた爪甲色素線条は横幅1ミリ程度で始まり、次第に拡大して、その色調も濃くなります。時には爪の甲全体に拡大するばかりか、爪の根元の皮膚を覆っている後爪廓(こうそうかく)の皮膚にも色素斑がみられることもあります。多くの爪に帯状の爪甲色素線条が現れた場合は、全身疾患や薬剤の内服が原因です。
手の爪に現れる爪甲色素線条は、親指に生じることが多く、次いで人差し指や薬指です。足の爪に現れる爪甲色素線条は、親指(第一趾)がほとんどです。
新生児や幼児に生じた色素線条は、一時的に広がったりすることもありますが、いずれ思春期ころまでに自然消失することが多いものです。
成人になってから生じた爪甲色素線条で、直線状の色素沈着が淡く、輪郭がぼんやりしていれば、ほくろや、あざなどの色素性母斑が原因の可能性が高く、そのまま放置してかまいません。
しかし、爪甲色素線条の横幅が6センチ以上で、黒褐色の色調に不規則な濃淡がみられるか真黒色、20歳以後、特に中高齢者になって発生したもの、色素線条が爪の表面を越えて皮膚の部分にまで及んでいる状態であれば、爪部悪性黒色腫(爪メラノーマ)かもしれません。
がん化したメラニン細胞が増えるにつれて、色素線条が増えるだけでなく太くなっていき、長さも伸びていきます。やがて、爪全体が黒くなります。進行すると、爪が変形したり破壊されてしまいます。
爪部悪性黒色腫は、がんの中でも繁殖しやすいタイプです。そのため、爪から全身に転移していくというデメリットもあります。短期間で転移してしまうため、爪の症状の変化に気付いたら、すぐに皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診することが勧められます。
皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、問診、視診、触診を行い、続いてダーモスコピー検査を行います。
ダーモスコピー検査は、病変部に超音波検査用のジェルを塗布してから、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を皮膚面に当て、皮膚に分布するメラニンや毛細血管の状態を調べ、デジタルカメラで記録するだけの簡単なもので、痛みは全くありません。
すべての指の爪に爪甲色素線条がみられた時は、原因となり得る疾患があるか否かを検査します。また、爪部悪性黒色腫(爪メラノーマ)が疑われる場合に生検を行います。通常は色の濃い増殖部分全体を切除し、顕微鏡で病理学的に調べます。もし爪部悪性黒色腫だった場合、がんが完全に切除されたかどうかを確認します。
一方、爪部悪性黒色腫の周囲組織を切り取ると、がん細胞が刺激されて転移を起こすことが考えられるため、生検をせずに視診と触診などで診断する医師もいます。
確定診断に至ったら、ほかの部位への転移の有無を調べるためのCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、PET(陽電子放射断層撮影)検査、X線(レントゲン)検査、超音波(エコー)検査などの画像検査や、心機能、肺機能、腎機能などを調べる検査を行います。
皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療は原則的に、爪部悪性黒色腫の部位を外科手術によって円形に切除します。手術が成功するかどうかは、皮膚のどの程度の深さにまで爪部悪性黒色腫が侵入しているかによって決まります。初期段階で最も浅い爪部悪性黒色腫であれば、ほぼ100パーセントは手術で治りますので、周囲の皮膚を腫瘍の縁から最低でも約1センチメートルは一緒に切除します。
皮膚の中に約0・8ミリメートル以上侵入している爪部悪性黒色腫の場合、リンパ管と血管を通じて転移する可能性が非常に高くなります。転移した爪部悪性黒色腫は致死的なものになることがしばしばあり、抗がん剤による化学療法を行いますが、治療の効果はあまりなく余命が9カ月を切る場合もあります。
とはいえ、このがんの進行の仕方には幅がありますし、発症者の体の免疫防御能によっても差がありますので、化学療法、インターフェロンによる免疫療法、および放射線療法などいろいろな手段を組み合わせた集学的治療を行い、たとえ爪部悪性黒色腫が転移しても健康を保って何年も生存する人もいます。
一度、爪部悪性黒色腫を発症した人は、再発するリスクが高くなります。そのため、発症者は毎年皮膚科、皮膚泌尿器科で検査を受けるべきです。
良性の腫瘍による爪甲色素線条の場合は、放置して経過を観察します。皮膚疾患、内分泌異常、代謝異常、全身疾患、細菌や真菌の感染症などによる爪甲色素線条の場合は、原因を除去すれば数年後には色素沈着が消失します。薬剤の内服による爪甲色素線条の場合は、内服を中止すると色素沈着は消失します。
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