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習慣性便秘



主に生活習慣が原因となって大腸の働きに異常が生じ、数日以上も便通がない症状が起こる慢性便秘

習慣性便秘とは、主に生活習慣が原因となって大腸の働きに異常が生じ、大腸内に便がとどまり、数日以上も便通がない症状が日常的に起こる慢性便秘。常習性便秘とも、機能性便秘とも呼ばれます。

大腸がん、大腸ポリープ、大腸憩室(けいしつ)、子宮筋腫(きんしゅ)など大腸や婦人科の疾患が原因となって、腸の内径が狭くなり、便が通りにくくなるために起こる器質性便秘といわれる慢性便秘は、除外します。また、旅行などで食事や生活環境が急に変化して起こる一過性の便秘も、除外します。

習慣性便秘は一般に、結腸性便秘(弛緩〔しかん〕性便秘)、けいれん性便秘、直腸性便秘の3つのタイプに分類されます。

結腸の緊張が緩んで、蠕動運動が弱いために、便を十分に送り出せないことから起こる結腸性便秘

結腸性便秘は、大腸の大部分を占める結腸の緊張が緩んでいて、蠕動(ぜんどう)運動と呼ばれる消化管環状筋の伸び縮みが弱いために、便を十分に送り出せないことから起こる便秘。弛緩性便秘とも呼ばれます。

この結腸性便秘で、日本人の常習化した慢性便秘の約3分の2を占めるとされています。慢性便秘は症状が1〜3カ月以上続く便秘で、旅行や生活の変化に伴う数日間だけの一過性の便秘と区別されます。

また、結腸の緊張の緩みと腸管の蠕動運動の低下のために起こる結腸性便秘と、排便を我慢する習慣が便意を感じにくくさせるために起こる直腸性便秘とが重なって、慢性便秘が起こることもあります。

結腸性便秘になると、便が大腸を通過するのに時間がかかり、水分の吸収が必要以上に増加するために、出てくる便は太くて硬くて量が少なくなり、排便回数も少なくなります。

もともと排便に関与する腹筋が弱い女性に、結腸性便秘は多くみられます。腸が緩んで、便を送り出す力も便意を感じる力も弱まってしまうため、排便時に上手に腹圧をかけて息むことができなくなった結果、起こるものです。

高齢者、内臓下垂のある人、経産婦、長期臥床(がしょう)者、虚弱体質の人、体力が低下している人、運動不足の人などにも、結腸性便秘は多くみられます。高齢者では、入れ歯がかみ合わなかったり、歯の数が少なかったりして、食事量や食物繊維の摂取不足になる傾向から、大腸を刺激する力が弱まるとともに、腹筋などの筋力が弱まる結果、起こるものです。

また、下剤を使いすぎた場合も、薬の刺激で便意を催させるため、腸の機能が低下して結腸性便秘になることがあります。

結腸性便秘になると、腹痛などの強い症状を生じることは少ないものの、長く続くと、大腸に便が滞りガスがたまることによる腹部膨満感、腹部不快感、残便感、食欲の低下などの症状がみられます。頭痛や肩凝り、手足の冷え、倦怠(けんたい)感などの症状を伴うこともあります。

また、腸内細菌のバランスが崩れ、腐敗便がたまると、肌のトラブルや大腸がんの発生の引き金になることもあります。

腸の運動が活発になりすぎることで、腸がけいれん状態に陥って起こるけいれん性便秘

けいれん性便秘は、大腸が便を押し出す蠕動運動と呼ばれる消化管環状筋の伸び縮みが活発になりすぎ、腸がけいれん状態に陥っていることから起こる便秘。特に男性に多い便秘です。

排便があっても、便の量が少なく、うさぎの糞のように固い塊状の便、あるいは細い便となるのが、けいれん性便秘の特徴です。

けいれん性便秘は、精神的なストレスや、感情の高まり、生活習慣の乱れ、睡眠不足が原因となって、自律神経のアンバランス、特に副交感神経が緊張しすぎることにより便秘が起こるものです。大腸の蠕動運動が活発になりすぎて、下行結腸にけいれんを起こした部位が生じ、その部位が狭くなって、便の正常な通過が妨げられます。

けいれんを起こした部位の上部は腸の圧力が高くなるため、腹が張った感じがして、不快感や痛みを覚えます。

排便後には少しは気持ちがよくなりますが、十分に出切った感じがなく、すっきりしないなど、残便感を生じる人が多いようです。

便秘の後に、腸の狭くなった部位より上のほうで水分の量が増えるため、水様の下痢を伴うこともあり、便秘と下痢を交互に繰り返す場合もあります。頭痛、めまい、不眠、動悸(どうき)などの自律神経症状を伴う場合もあります。

けいれん性便秘をほうっておくことで、腹部の不快感や腹痛を伴って便秘や下痢が長く続く過敏性腸症候群という、さらに重く、日常生活にも支障を来す便秘になる場合もあります。

けいれん性便秘は男性に多い種類の便秘なのですが、近年では女性でもかかるケースが増えています。女性も社会に出て、精神的なストレスを感じる機会が多くなった反動といえるかもしれません。

ストレスを感じているような自覚がなかったとしても、けいれん性便秘に当てはまる症状が出ている場合は、肛門(こうもん)科、消化器科、婦人科、あるいは心療内科を受診することが勧められます。

主に、排便を我慢する習慣が便意を感じにくくさせるために起こる直腸性便秘

直腸性便秘は、主に排便を我慢する習慣が便意を感じにくくさせるために起こる便秘。単純性便秘とも呼ばれます。

直腸性便秘は、朝はぎりぎりまで寝ていて朝食抜き、トイレに行く時間もなく家を飛び出すような生活をしている人に多く、便意が起こっても、時間がないからと排便を我慢し続けた結果、便意を催さなくなるものです。あるいは、排便痛を伴うような肛門の疾患である痔(じ)のために、排便を我慢し続けた結果、便意を催さなくなるものです。

便が大腸の中で肛門に最も近い直腸の中に進入すると、直腸の壁が伸びる刺激で便意は起きますが、この便意は排尿感覚と違って、15分ぐらい我慢していると消えてしまうのが特徴。

排便を我慢することが度重なると、刺激に対する直腸の神経の感受性が低下して、直腸内に便が入っても便意が起こらなくなってしまい、大腸の蠕動運動も始まらないことから、直腸性便秘となります。そして、便が長いこと直腸にたまっていると、水分がどんどん吸収されて硬くなり、ますます出にくくなって、直腸性便秘が慢性化します。

便は太くて硬い、分割便となりやすいのが特徴で、その便が排出されると、その奥からむしろ軟らかい便が一挙に排出されることもあります。

直腸性便秘になると、便通不良で直腸の壁や肛門を傷付けたり、痔を悪化させるばかりでなく、腸内容物の腐敗などが進行して有害物質が生成され、下腹部不快感、膨満感、腹痛などの障害を来すこともあります。肌のトラブルや大腸がん発生の引き金になることもあります。

排便を我慢する習慣が直腸の神経の感受性を低下させて起こるほか、骨盤の底にあって下腹部の臓器を支えている骨盤底筋の機能の悪化で、直腸性便秘が起こることもあります。

骨盤底筋は排便時に緩むことで、直腸と肛門を真っすぐつなげる役割を持ち、その作用で便をスムーズに送り出すことが可能になっています。この骨盤底筋の機能が悪化して、排便時に緩まずに緊張した状態が続くと、便の通り道ができなくなり、便の排出が困難な状態になります。

しかも、便秘を治すために食物繊維や水分をいくら補給しても、通り道がなくては便は腸内にたまる一方で、便秘を逆に悪化させることになります。

さらに、女性だけにみられる症状で、度重なる出産や加齢などで直腸と膣(ちつ)の間にある直腸膣隔壁が弱って、排便しようと息んだ時に直腸の一部が膣側に膨らむ直腸瘤(りゅう)ができることで、便が直腸瘤に入り込んでうまく排出できずに、直腸性便秘が起こることもあります。直腸瘤に入り込んだ便は、どんどん水分を奪われて硬くなり、ますます排出しにくい状態になります。

それ以外に、手術で腸管を切除した場合や、下剤や浣腸(かんちょう)を多用した場合に、直腸の神経の感受性が低下して直腸性便秘が起こることもあります。

直腸性便秘に当てはまる症状が出ている場合は、肛門科、消化器科、婦人科を受診することが勧められます。

習慣性便秘の検査と診断と治療

肛門科、消化器科、婦人科、あるいは心療内科の医師による診断では、問診による病歴の聞き取り、腹部の触診、直腸の指診が重要です。

腹部の触診では、腹部腫瘍(しゅよう)の有無、腹筋の筋力をチェックします。けいれん性便秘では、特に左下腹部に圧痛を認めることが多く、時に圧痛のあるS状結腸を触知することがあります。

直腸の指診では、肛門部病変、肛門と直腸の狭窄(きゅうさく)あるいは腫瘍、直腸内の便の有無、便の潜血反応を調べます。けいれん性便秘では、直腸内に便を触れません。

通常の検査として、検便、検血、腹部X線(レントゲン)検査を行い、便秘が持続していたり腹痛がある場合には、肛門から腸の中に軟らかい造影剤を注入してX線撮影をする注腸造影、あるいは大腸内視鏡検査を行います。

腹部腫瘤、イレウス(腸閉塞〔へいそく〕)などが疑われる場合には、腹部超音波(エコー)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。

さらに、けいれん性便秘の場合は問診で、要因となる自律神経症状や精神神経症状の有無、精神的ストレスの関与を確認します。性格・心理テストを行って、診断の決め手とすることもあります。

肛門科などの医師による結腸性便秘の治療では、食事指導、生活指導、運動、緩下剤といった保存的治療法が主体となり、これらをうまく取り入れて便通をコントロールするようにします。

日常の食生活で不足しがちな食物繊維を補うためには、市販の食物繊維サプリメントであるオオバコ、小麦ふすまなどを活用するのもよい方法です。運動で腹筋を鍛え、蠕動運動を活性化するためには、ウオーキングやジョギングを行うのもよい方法です。

緩下剤は、腸への刺激がなく、水分を保持して便を軟らかくする酸化マグネシウムなどの塩類下剤を主体として使用します。センナ系、漢方などの速効性の刺激性下剤は、できるだけ常用しないように心掛けます。刺激性下剤を常用すると、次第に腸が下剤の刺激に慣れて効果が鈍くなり、ますます便秘が悪化することがあるためです。

肛門科などの医師によるけいれん性便秘の治療では、生活指導、食事指導、薬物療法、心身医学的治療が基本になります。精神的なストレス、不規則な生活、睡眠不足、慢性疲労の蓄積、睡眠不足など、けいれん性便秘を悪化させる要因が日常生活の中にあれば改善を試みます。

症状を悪化させる大量のアルコール、香辛料などの摂取は控え、便秘または下痢どちらのタイプにも有効な食物繊維は積極的に摂取することを勧めます。

薬物療法が必要な場合は、便の状態を調整する薬剤(ポリカルボフィルカルシウム)、腸管運動機能調節剤、漢方薬などをまず投与します。便秘に対して緩下剤、腹痛に対して鎮けい剤、下痢に対して整腸剤や乳酸菌、セロトニン受容体拮抗(きっこう)剤、止痢剤を投与することもあります。

緩下剤は、腸への刺激がなく、水分を保持して便を軟らかくする酸化マグネシウムなどの塩類下剤や、水分を吸収して便が膨張する膨張性下剤を主体として使用します。

自律神経失調症が認められる場合は自律神経調整剤、精神症状の強い場合は抗不安剤や抗うつ剤、睡眠剤などの併用を考慮します。心身医学的治療としては、精神療法、自律訓練法、認知行動療法などを行います。

肛門科などの医師による直腸性便秘の治療は、原因によって対処方法が変わります。

直腸の神経の感受性が低下したために起こる直腸性便秘の場合、生活習慣を改善することで治療の効果を期待できます。便意があれば我慢しないですぐにトイレに行くこと、そしてトイレに行く時間を生活リズムの中に組み込んで習慣化することで、便意を促すことができるからです。

また、便が硬いままだと便意が感じにくくなりますので、食生活も見直して、牛乳とバナナなどの果物だけの朝食でもよいので摂取を心掛け、水分補給と食物繊維を多く含む食品の摂取も心掛けます。腸を活動させるために、適度で定期的な運動をして血液の循環をよくするのも効果的。まず便秘を治せば、便意も正常に感じるように感覚が戻ってきます。あまりにもひどい場合には、座薬を適切に使うことでも症状の緩和がみられます。

骨盤底筋の機能が悪化したために起こる直腸性便秘の場合、排便時の姿勢や息み方を正して骨盤底筋を矯正する指導をしたり、座薬などを用いて治療します。

骨盤底筋を矯正する手順は、1)排便時には上体を前傾させて両ひじを太ももの上に置く(前傾姿勢になると直腸肛門角が開いて便がスムーズに直腸へ送られるため)、2)かかとをおよそ20度上げる(腹筋の力を腸にかけやすくなるため)、3)息む時は、腰に手を当ててせきをした時に動く筋肉である腹筋だけに力を入れる(肩や背中に力を入れて全身で踏ん張らないようにするため)。トイレに行った時に、この手順を繰り返すようにすることで、骨盤底筋を回復させることができます。

直腸瘤ができて排便が困難になる直腸性便秘の場合、軽度のケースでは、下剤や座薬で便通をコントロールする方法を取ります。指で会陰(えいん)や膣を押さえないと排便できなかったり、薬を飲んでも指でかき出さないと出ないほどひどい重度のケースでは、手術を考慮します。骨盤底筋の一部を縫い合わせて直腸瘤の前に堅い壁を作ることで、強く息んでも直腸が膣側に飛び出さないようにする手術です。

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