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常染色体トリソミー
常染色体トリソミーとは、ある常染色体が1本多い、3本あること、また、それが原因で引き起こされる重度の先天性障害のこと。
人間の体は、父親と母親からもらった遺伝子情報に基づいて作られます。遺伝子情報は、染色体という生体物質が担っています。一般の細胞の核には、1番から22番までの一対の常染色体が44本、それにXまたはYの性染色体の2本が加わって、合計46本の染色体がセットになって存在します。半数の23本ずつを父親と母親から継承しています。
合計46本の染色体のうち、ある常染色体が過剰に存在し、3本ある状態がトリソミーです。卵子や精子が作られる過程で染色体が分離しますが、分離がうまくいかないことがトリソミーを引き起こします。
常染色体トリソミーには、21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、13トリソミー(パトー症候群)があります。トリソミーが起きると、その染色体が担当する物質産生などが通常の1・5倍になって致命的な影響を及ぼし、新生児が生きて生まれた場合でも知的障害や奇形など多くの先天性障害を持つことになります。染色体のサイズが大きいほうから染色体番号は割り振られているので、染色体番号が若いほど先天性障害が重症になります。
3種類以外の常染色体トリソミーは、ごくまれにしか存在しません。この理由は、ほかの染色体にはより重要な遺伝情報が多いため、トリソミーは致死的となり早期に流産するためです。
21トリソミーは、21番目の染色体が1本多い、3本あることが原因で引き起こされる重度の先天性障害。ダウン症候群、ダウン症、21トリソミー症候群とも呼ばれます。
新生児で最もよくみられる常染色体トリソミーであり、卵子や精子が作られる過程で染色体の分離がうまくいかないことが21トリソミーを引き起こします。まれに、21染色体と別の染色体が互いに切断されて結合している転座型や、受精後の初期細胞分裂の際に染色体の不分離が起こるモザイク型によって、21トリソミーが起こることもあります。
1866年に英国の眼科医ジョン・ラングドン・ハイドン・ダウンが初めてその存在を報告し、以来、本症例にみられる異常所見が多く報告され、現在の21トリソミーとしての症状を導いてきています。しかし、1959年にフランス人のジェローム・レジューンによって、21番染色体がトリソミーを形成していることが初めて証明されるまでは、その原因は不明でした。
日本では現在、新生児1000人に1人の割合で21トリソミーがみられます。母親が高齢、特に35歳以上の場合は、若い母親よりも過剰な染色体が生じる原因となるため、21トリソミーの新生児を産む確率が高くなります。しかし、過剰な染色体が生じる原因は、父親にあることもあります。
21トリソミーの子供では、精神と体の発達が遅れます。知能指数(IQ)には幅がありますが、正常な子供の知能指数が平均100であるのに対し、平均でおよそ50。聞くために必要な能力より、絵を描くなどの視覚動作能力が優れている傾向があるため、典型的には言語能力の発達が遅くなります。
身体的な特徴として、特異な顔貌(がんぼう)と多発奇形が挙げられます。頭が小さく、顔は広く偏平で、斜めにつり上がった目と低い鼻を持つ傾向があります。舌は大きく、耳は小さくて頭の低い位置についています。手は短くて幅が広く、手のひらを横切るしわが1本しかありません。指は短く、第5指の関節は3つではなく2つしかないことが多く、内側に曲がっています。足指の第1指と第2指の間が、明らかに広くなっています。
乳児期には体の筋力が弱く、軟らかいのも特徴で、身長、体重の増えもよくないことがあります。運動の発達も遅れ、歩行開始の平均年齢も2歳くらいになります。
多くの合併症が知られていて、これらの程度が生命的な予後に大きく関係しています。約40パーセントに先天性の心臓疾患がみられ、多くに甲状腺(こうじょうせん)疾患が起こります。耳の感染症を繰り返し、内耳に液体がたまりやすいため、聴覚に障害が起こりやすい傾向があります。角膜と水晶体に問題があるため、視覚障害も起こしやすい傾向があります。そのほか、十二指腸閉鎖や鎖肛(さこう)といった消化管の奇形、頸椎(けいつい)の異常、白血病がみられることもあります。
40歳以降には、アルツハイマー病でみられるような記憶喪失、知能低下の進行、人格の変化などの認知症の症状が高確率で起こります。
18トリソミーは、18番目の染色体が1本多い、3本あることが原因で引き起こされる重度の先天性障害。エドワーズ症候群、エドワード症候群、18トリソミー症候群とも呼ばれます。
イギリスのジョン・エドワーズらのグループにより、1960年に初めて報告されました。
日本では現在、新生児約5000人から8000人に1人の頻度で18トリソミーが発生するといわれ、男児は流産する場合が多いため、女児に多くみられます。
18トリソミーのうち、約80パーセントが染色体が3本独立している標準型トリソミー、約10パーセントが正常細胞とトリソミーの細胞が混在しているモザイク型、約5パーセントが多い1本が他の染色体についている転座型、約5パーセントが詳細不明と見なされています。一部の転座型を除き、そのほとんどは細胞分裂時に起こる突然変異だと考えられており、遺伝的な背景は否定されています。
早産ではなくて満期産、過熟産で生まれることが多いものの、出生時の体重は2200グラム以下と低体重であり、死産になることも多くなっています。また、明らかな全身の発育不全で生まれ、精神発達遅滞のほか、後頭部の突出、両眼開離、口唇裂、口蓋(こうがい)裂、小顎(しょうがく)、耳介の低位、指の屈曲、多指、先天性心疾患、腹直筋ヘルニアなどの消化管の奇形、揺り椅子(いす)状の足といった多くの異常がみられます。
先天性心疾患はほぼ必発で、心室中隔欠損症、心内膜床欠損症などのほか、単心室、総肺静脈還流異常症、ファロー症候群など、極めて重篤なことも少なくありません。
誕生後の予後は一般的に悪く、生後2カ月以内に約半数、1年以内に90パーセント以上が死亡します。先天性心疾患の重症度が、特に生命予後に重要な影響を及ぼします。
モザイク型では、正常細胞とトリソミーの細胞の混在する割合や症状により、生命予後、成長発達に恵まれる場合もあり、中学生になるまで成長したケースも報告されています。
13トリソミーは、13番目の染色体が1本多い、3本あることが原因で引き起こされる重度の先天性障害。パトー症候群、13トリソミー症候群とも呼ばれます。
パトー博士らのグループにより、1960年に初めて確認されました。
日本では現在、新生児約5000人に1人の頻度で13トリソミーが発生するといわれ、男児は流産する場合が多いため、女児に多くみられます。
13トリソミーのうち、約80パーセントが染色体が3本独立している標準型トリソミー、約15~19パーセントが多い1本が他の染色体についている転座型、約1~5パーセントが正常細胞とトリソミーの細胞が混在しているモザイク型と見なされています。一部の転座型を除き、そのほとんどは細胞分裂時に起こる突然変異だと考えられており、遺伝的な背景は否定されています。
13トリソミーの新生児は明らかな全身の発育不全で生まれ、精神発達遅滞のほか、前頭部の発育不良、無眼球症または小眼球症、虹彩(こうさい)欠損、両眼開離、口唇裂、口蓋裂、耳介の低位、多指、先天性心臓形態異常、臍帯(さいたい)ヘルニアなどの消化管の奇形、揺り椅子状の足、生殖器の異常、難聴、無呼吸発作、けいれんといった多彩な異常がみられます。
誕生後の予後は一般的に悪く、生後1カ月以内に約半数、1年以内に90パーセント以上が死亡し、平均寿命は3~4カ月となっています。モザイク型では、正常細胞とトリソミーの細胞の混在する割合や症状により、 生命予後、成長発達に恵まれる場合もあり、最高齢は日本では19歳、欧米では30歳代となっています。
21トリソミー(ダウン症候群)は、生まれる前に診断することも可能です。妊娠15〜16週ごろに、産婦人科病院で行う羊水染色体検査が相当しますが、妊婦は自ら医療側に進言しないと正式には行ってもらえません。
21トリソミーの乳児には、診断を促す特徴的な外見があります。小児科の医師による確定診断には、乳児の染色体を検査して21トリソミー、あるいは21番染色体のそのほかの疾患を調べます。診断がついたら、超音波検査や血液検査などを行って、21トリソミーに関連する異常がないか調べます。
根本的な治療法はなく、症状に応じて治療を行います。検査で発見した異常を治療すると、それにより健康が損なわれることを防止できます。21トリソミーの子供の死因の多くは心臓の疾患と白血病ですが、心臓の異常はしばしば、薬剤や手術で治療できます。
重い合併症のない21トリソミーの子供は、元来健康で、温厚、陽気な性格であることが多く、訓練や教育により日常生活は可能となります。最近は、早期からの集団保育、集団教育が望ましいといわれています。家族の会などから情報を得ることも役立ちます。遺伝カウンセリングを受けることも重要で、特に転座型では親の片方が均衡転座保因者である場合もあり、次の子供の再発率を知るためには両親の染色体検査が必須です。
21トリソミーの子供の大半は、死亡することなく成人になり、平均寿命は約50歳といわれています。数十年前までは平均寿命が20歳前後でしたが、当時は循環器合併症の外科的治療ができなかったためであり、合併症と奇形を治療すれば健康状態は改善することができます。
産婦人科の医師による出生前の診断では、超音波検査異常または母体血清スクリーニングの異常所見から、18トリソミー(エドワーズ症候群)と確定します。
小児科の医師による出生後の診断では、特徴的な外見から疑われ、染色体検査で確定します。
小児科の医師による治療では、根本的な治療法がなく予後の改善は見込めないため、さまざまな症状に対する対症療法を行います。症状が安定している場合は、口唇裂、多指、腹直筋ヘルニアなどの手術に踏み切ることもあります。
産婦人科の医師による出生前の診断では、超音波検査異常または母体血清スクリーニングの異常所見から、13トリソミー(パトー症候群)と確定します。
小児科の医師による出生後の診断では、特徴的な外見から疑われ、染色体検査で確定します。
小児科の医師による治療では、根本的な治療法がなく予後の改善は見込めないため、さまざまな症状に対する対症療法を行います。症状が安定している場合は、口唇裂、多指、臍帯ヘルニアなどの手術に踏み切ることもあります。
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