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食道バレット上皮
食道バレット上皮とは、胃と接している食道の部分に炎症が起こり、食道の粘膜が胃や腸の粘膜に似た別の粘膜に変質した状態。バレット食道とも呼ばれます。
食道は、体表の皮膚に似た扁平上皮(へんぺいじょうひ)という粘膜で覆われています。一方、胃や腸は、円柱上皮(えんちゅうじょうひ)という別の粘膜で覆われています。その食道本来の扁平上皮の粘膜が、胃や腸の粘膜に似た円柱上皮の粘膜に置き換わった状態です。
さらに、置き換わった粘膜の80パーセントは、食道がんの発生に関係する腸上化生(ちょうじょうかせい)上皮を含んでいて、がんに対するリスクが高くなります。
欧米では、食道がんの約半数は食道バレット上皮から発生する腺(せん)がんであり、食道本来の扁平上皮から発生する扁平上皮がんと同程度となっています。日本では、食道がんの90パーセント以上は扁平上皮から発生するがんで、食道バレット上皮から発生する腺がんはまれです。しかし、ライフスタイルの欧米化、肥満の増加、高齢者の増加などとともに、将来的に食道バレット上皮から発生する腺がんの増加が危ぶまれています。
食道バレット上皮の原因については明らかではないものの、後天的なもので、食道への胃酸の逆流が関係するといわれています。例えば、食道へ胃液が逆流して胸焼けなどの症状が現れる逆流性食道炎、あるいは胃食道逆流症が長期的に続くことで、障害された食道の扁平上皮がなくなり、円柱上皮で覆われると考えられています。
この食道バレット上皮は、本来の食道壁と胃壁の境界部である食道胃接合部から食道側への円柱上皮のはい上がりが3センチ未満のショート食道バレット上皮と、円柱上皮のはい上がりが3セント以上のロング食道バレット上皮とに大きく分けられます。
欧米ではロング食道バレット上皮が多くなっていますが、日本ではほとんどがショート食道バレット上皮で、ロング食道バレット上皮まで進行するケースは少数です。その理由は、現在のところ明らかではないものの、一因としてヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の胃内での感染率の差が関係するといわれています。
つまり、日本ではヘリコバクター・ピロリの感染率が高いことが影響して、委縮性胃炎の頻度が高く、胃酸分泌領域が減少し食後の胃酸分泌量の絶対量も少なくなります。一方、欧米ではヘリコバクター・ピロリの感染率が低いことが影響して、委縮性胃炎のケースは少ない傾向にあります。
しかし、ヘリコバクター・ピロリを薬で除菌すると、胃酸分泌量が増えるために、逆流性食道炎を含む胃食道逆流症になりやすくなり、逆流性食道炎が長期的に続くと食道バレット上皮になリやすくなります。
食道バレット上皮の主な自覚症状は、胸がチリチリ焼けるように感じる胸焼けや、胸の痛み、口が酸っぱくなるように感じる呑酸(どんさん)感。全く無症状の場合も少なからずあり、胃の内視鏡検査でたまたま発見されるのが一般的です。
食道バレット上皮が出現した場合には、内科、あるいは気管食道科を年1〜2回、定期的に受診して内視鏡検査を受けることが勧められます。食道バレット上皮にも段階があり、定期的な検査を受けることで早期の治療が可能になります。
内科、気管食道科の医師による診断では、内視鏡検査で、食道と胃の接合部から口の方向へ向かって観察します。食道の扁平上皮に比べて、赤っぽい円柱上皮が発見されたら、組織を採取して腸上化生上皮を含んでいるかどうかを調べる必要があります。また、染色液を使って扁平上皮と円柱上皮の区別をして、病巣範囲を把握したり、食道がんに関連する腸上化生上皮の有無を調べることができます。
内科、気管食道科に医師による治療では、日本における腺がん発生の頻度が少ないことから、無治療、あるいは胃酸の逆流による食道粘膜の障害を減らすために、胃酸の分泌を抑える薬を使うだけで、経過をみます。
しかし、食道バレット上皮がなくなることはありません。欧米では、食道バレット上皮自体の治療として、変質した粘膜を内視鏡を使って焼き、食道本来の粘膜の再生を誘導するいくつかの方法が行われていますが、日本ではほとんど行われていません。
粘膜が変質した範囲が3センチ以上になるロング食道バレット上皮の場合、腺がんが発生するリスクが通常より高率に上昇するため、年1〜2回、定期的な内視鏡検査が必要です。一方、粘膜が変質した範囲が3センチ未満のショート食道バレット上皮の場合、リスクは低くなりますので、定期的な内視鏡検査の間隔を長めにできると考えられています。
食道バレット上皮に腺がんが発生した場合には、現在のところ食道の扁平上皮がんに対する対応と同じです。内視鏡治療、手術、放射線治療、化学療法を主に、レーザー療法、電気凝固療法、温熱療法、免疫療法など、いくつかの治療法を適切に組み合わせて行われます。
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