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先天性トキソプラズマ症



動物の肉やネコの便を介して、原虫のトキソプラズマが妊婦に感染し、新生児に先天的な障害を招く疾患

先天性トキソプラズマ症とは、ほ乳類や鳥類に広く寄生するトキソプラズマが妊娠中の女性に感染して、胎盤を通じて胎児に移り、流産や死産、新生児の先天的な障害を招く疾患。トキソプラズマは単細胞の原虫の一種で、世界中に存在します。

トキソプラズマの妊娠中の女性への感染は、感染動物の肉を十分に加熱しないで食べたり、感染ネコのふんで汚染された土に触れ、その中に含まれるトキソプラズマが口に入ったりして起こります。

このトキソプラズマはさまざまな動物の組織で成長しますが、卵を産み付けるのはネコ科動物の腸の内皮細胞のみ。卵はネコなどの便に混じって排出され、土の中で最長18カ月間生き続けます。トキソプラズマの卵が入っている土に触った人が手を口に入れて感染する場合もあれば、卵がついている食べ物を介して感染する場合もあります。

時には、ブタなどの動物が土からトキソプラズマ症に感染することもあり、その感染した動物の肉を生や加熱調理が不十分な状態で人が食べて感染する場合もあります。冷凍するか、よく加熱すれば、トキソプラズマは死滅します。

女性が妊娠中に初めて感染した場合には、血液中に流入したトキソプラズマが胎盤を通して、胎児に感染することがあります。その結果、流産や死産の原因になるほか、生まれた新生児が水頭症や脳内石灰化、脈絡網膜炎といった視力障害、精神運動機能障害などを伴う先天性トキソプラズマ症になる可能性があります。特に妊娠初期は、胎児への感染率は比較的低いものの、障害の程度は重くなります。

先天性トキソプラズマ症の新生児は、重症で生後まもなく死亡することもあれば、何カ月もたってから症状が出ることもあります。場合によっては何年も症状が現れなかったり、一生発病しないこともあります。妊娠前に感染した場合は、寄生虫が胎児に感染することはありません。

先天性トキソプラズマ症は以前、日本ではまれな疾患と思われていました。しかし、日本小児感染症学会の調査により、全国の小児科施設で2006年から2008年の3年間に16人発生したことがわかりました。調査でのアンケート回収率が約45パーセントと低い上、流産や死産は含まれていないため、実際にはさらに多くの発生が存在するとみられます。

近年、レバ刺しやユッケといった肉の生食ブームなどを背景とした発生の増加も指摘されています。

免疫機能が低下している人、特にエイズやがんの人や、臓器移植を受けて拒絶反応を抑える薬剤を使用している人は、トキソプラズマ症を発症するリスクが高くなります。このような人たちの症状は、通常は過去に感染したトキソプラズマが再び活動を始めたことによるものです。

感染部位によってさまざまな症状が現れ、脳のトキソプラズマ症になると、半身の脱力感、言語障害、頭痛、錯乱、けいれん発作などが起こります。急性散在性トキソプラズマ症は、発疹(はっしん)、高熱、悪寒、呼吸困難、疲労を起こします。髄膜脳炎、肝炎、肺炎、心筋炎を起こす人もいます。治療しなければ、ほぼ100パーセント死亡します。

健康な人が後天的にトキソプラズマ症にかかった場合は、不顕性感染が多く、ほとんど症状は現れません。顕性感染となって症状が出ても普通は軽症で、痛みのないリンパ節のはれ、間欠性の微熱、はっきりしない体調の悪さなどです。脈絡網膜炎が単独で起こり、視力障害、目の痛み、光過敏性を伴うこともあります。

先天性トキソプラズマ症の検査と診断と治療

内科、小児科、産婦人科の医師による診断では通常、血液検査でトキソプラズマに対する抗体を調べます。ただし、エイズで免疫機能が低下している人は、血液検査で偽陰性が出ることがあるので、医師は脳のCT検査とMRI検査に基づいて診断します。まれに、トキソプラズマの感染部位の組織片を採取し、顕微鏡で調べて診断する生検を行うこともあります。

内科、小児科、産婦人科の医師による診断では、妊娠中の女性の感染が疑われた場合には、胎児への感染を防ぐ抗生物質のアセチルスピラマイシンを早期投与すると、重症の新生児を減らせます。

感染していても、症状がなくて免疫機能が正常な成人の場合には、治療の必要はありません。症状がある場合は、抗寄生虫薬のスルファジアジンとピリメタミンの併用で治療し、ピリメタミンの副作用から骨髄を保護するために抗がん薬の補助剤であるロイコボリンを追加します。脈絡網膜炎の治療には、抗生物質のクリンダマイシンと併用して、炎症を鎮めるためにプレドニゾロンなどのステロイド剤を使います。

エイズ患者の場合、トキソプラズマ症は再発する傾向があるので、投薬は期限を決めずに行うことが多くなります。トキソプラズマ症を予防するため、トリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST合剤)の予防投与を行うこともあります。

予防としては、ネコはしばしば庭や砂場をトイレにすることがあるため、妊娠中に庭いじりをしたり、土や砂に触れるような時には、手袋やマスクの着用します。土や砂に触れた後、食事や料理の前には、水とせっけんでよく手を洗い流します。また、ネコのトイレを屋内に設置している場合には、その掃除をするのはやめるか、掃除をする際には手袋やマスクを着けるなどの注意が必要です。

ブタ、ウシ、トリ、ヒツジなどの肉は、中心が67度になるまで十分に加熱調理したものだけを食べるようにします。とりわけ未感染の妊婦は、レバ刺しや馬刺し、ユッケ、レアステーキ、生ハムなど、加熱不十分の肉を口にしてはいけません。

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