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ジフテリア
ジフテリアとは、 ジフテリア菌の感染によって生じる急性の上気道粘膜疾患。主に喉頭(こうとう)、扁桃(へんとう)、咽頭(いんとう)の呼吸路が侵されるほか、心臓、腎臓(じんぞう)、神経系が侵されることもしばしばあります。
このジフテリアは現在、ワクチンの予防接種が広く普及しているため、多くの地域ではまれな疾患になりました。日本ではトキソイドワクチンの予防接種により発症者は激減し、年間数例が散発的に報告されるだけとなっています。しかし、1990年以来、予防接種率が低かったことが原因で、流行が旧ソビエト連邦のロシア共和国、ウクライナ共和国、中央アジア共和国などで多発し、欧州各地を巻き込んだ国際的な問題となりました。
ジフテリアは国際的に予防対策が必要かつ可能な疾患として扱われ、世界保健機関(WHO)では拡大予防接種事業(EPI:Expanded program on Immunization )の対象疾患の1つとしてワクチン接種を奨励しています。
ジフテリア毒素を出すジフテリア菌(Corynebacterium diphteriae )が病原体で、人が感染源となり、発症者や保菌者のせきなどにより、飛沫(ひまつ)を介して感染します。
また、コリネバクテリウム・ウルセランス菌(Corynebacterium ulcerans)というウシやヒツジの常在菌で、ジフテリア菌 (Corynebacterium diphtheriae) の近縁菌が、ジフテリア毒素を作り、ジフテリア類似の症状を引き起こす病原体となることがあります。近年、イギリスなどの欧米諸国で注目され、日本においても問題となりつつあります。
2~5日程度の潜伏期間を経て、気道系のジフテリアでは気分不快、咽頭痛、嚥下(えんか)痛、食欲不振、発熱などで始まります。喉頭部に炎症がおよぶと声がかすれるようになります。2~3日後には扁桃、咽頭周辺に偽膜という灰白色の厚い膜が形成されます。この偽膜を無理にはがそうとすると、出血します。
症状が重い場合、首のリンパ節や組織がはれることがあります。偽膜がさらに進展すると、気道の障害のため命にかかわる状況になります。ジフテリアの毒素による合併症として、心筋炎や末梢(まっしょう)神経炎が生じることもあります。
心筋炎では生命の危険が高く、突然死の危険性があります。末梢神経炎は合併症の頻度として高いものの、予後は比較的良好です。ジフテリアが皮膚や鼻を侵す場合は局所の感染にとどまり、毒素による影響はまれです。
気道系のジフテリアの死亡率は、5~10パーセントとされています。
ジフテリアは感染症法で2類感染症に指定されており、発症者は原則として2類感染症指定医療機関に入院となりますが、無症状者は入院の対象とはなりません。
医師による診断は、症状や所見からジフテリアを疑い、偽膜、咽頭などの病変部位から材料を採取し、ジフテリア菌の検出、ジフテリア毒素遺伝子の検出を行うことで確定します。ジフテリアもしくは病原体保有者であると診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出ます。
予防としては、世界各国とも拡大予防接種事業(EPI)ワクチンの一つとして、DPTワクチンの普及を進めています。DPTワクチンは、ジフテリア(D:Diphtheria)、百日ぜき(P:Pertussis)、破傷風(T:Tetanus)の3つの病原体に対するワクチンを同時に接種する混合ワクチンの代表で、三種混合ワクチンとも呼ばれます。
日本では、1948年にジフテリア単独トキソイドワクチン、1958年にジフテリア・破傷風混合ワクチン、1968年以降にDPTワクチンとなり、さらに1981年から現行のDPTワクチン(百日ぜきワクチンが無細胞ワクチン)となっています。予防接種の普及により、現在年間1名程度の発症が報告されているにすぎませんが、今後ワクチン接種者が減少した場合や、海外からの持ち込みにより国内で流行する可能性も否定することはできません。
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