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腎(じん)不全

腎臓の機能が極端に低下した状態

腎(じん)不全とは、腎臓の機能が極端に低下して、正常な体の調節機能が働かなくなった状態をいいます。この腎不全がさらに進行して、消化器系や心臓血管系、あるいは神経系にいろいろな症状が出てくる状態を尿毒症といいます。

腎不全には、急激に尿毒症の症状を起こす急性腎不全と、何カ月、あるいは何年かの経過を経て、次第に腎不全となる慢性腎不全とがあります。

急性腎不全の原因は、腎前性、腎性、腎後性の3つに分けられます。

腎前性は、ショックや出血などで血圧が下がり、腎臓へ血液が流れなくなることから起こるものです。例えば、心臓や消化器、産婦人科の手術の後や、大きな外傷、やけどによる脱水などが原因となります。

腎性は、急性腎炎や急性腎盂(じんう)腎炎、あるいは腎毒性物質や薬物などで、腎臓の働き自体が一時的になくなることから起こるものです。近年では、病原性大腸菌による溶血性尿毒症症候群(HUS)が注目されています。

腎後性は、結石や腫瘍(しゅよう)、前立腺(せん)肥大など、尿路の通過障害から起こるものですが、今日では著しく減少しています。

急性腎不全の症状は、乏尿期と利尿期に分けられます。

乏尿期では、尿量が急激に減少して、1日の尿量が400ミリ以下となり、血液の中の尿素窒素、クレアチニン、尿酸などが蓄積して、尿毒症の症状が現れます。すなわち、食欲不振、吐き気などの消化器症状、心臓肥大、高血圧、呼吸困難などの心臓血管症状、頭痛、不安感などの神経症状などです。また、口臭がアンモニア臭を帯び、皮膚は乾燥して黒みがかってきます。そして、意識がもうろうとなって、昏睡(こんすい)状態に陥ります。

利尿期は、乏尿期が数日から数週間続いた後、幸いに尿が出るようになった時期をいいます。

慢性腎不全の原因として最も多いのは、慢性腎炎からくるものです。そのほか、慢性腎盂(じんう)腎炎、腎硬化症、嚢胞(のうほう)腎、腎結核、糖尿病など代謝障害による腎臓障害、全身性エリテマトーデスなど膠原(こうげん)病によるものもあります。これらの疾患では、長い期間をかけて悪化が進み、末期になると、腎不全を起こしてきます。

症状として、初めは薄い尿がたくさん出る傾向があります。悪化して末期になると、1日400ミリ以下となり、尿毒症の症状が現れます。尿毒症になると、心不全のような心臓血管系の合併症で死亡する場合もあります。

腎不全の検査と診断と治療

急性腎不全の治療法は、乏尿期と利尿期では多少違いますが、いずれの場合も入院治療が必要です。

乏尿期では、まず水分の管理が大切です。血液中のカリウムが増加しているので、この管理も重要です。乏尿期が長引くようであれば、早めに透析療法を行うほうが安全です。利尿期に入ると急激に尿量が増えますので、脱水にならないように注意が必要です。カリウムなどの電解質のバランスを保つことも重要です。

以前は重篤な症状を呈して死亡するケースもみられましたが、今日では人工透析療法が広く普及したため、著しい効果を上げています。急性腎不全そのものだけでは、死亡例はほとんどみられません。

慢性腎不全でも、血液中の尿素窒素の値が比較的低く、特に高血圧がなければ、対症療法だけで自覚症状なしに生活できます。

しかし、尿素窒素の量が増え、食事療法や薬物療法でも尿毒症の症状が解消されない時には、早めに透析療法を行うほうが安全です。透析を嫌がってタイミングを逃がすと、まれに死亡することもあります。

食事療法では、蛋白(たんぱく)質を厳重に制限し、糖質と脂肪で十分なエネルギーを摂取します。蛋白質を制限するのは、蛋白質の代謝産物である尿素窒素やクレアチニンなどが体内に蓄積されないようにするためです。具体的には、体重1キログラム当たり1日0・5グラムの蛋白質の量とします。1日の総エネルギーは、2000キロカロリーを目安とします。

食塩は1日8グラムぐらいとし、高血圧やむくみの程度が強ければ、3グラム以下とします。また、カリウムを多く含んだ果物、野菜、生ジュースなどは、控えるようにします。

人工透析療法で主流を占めるのが血液透析で、人工腎臓といわれる透析装置を用いて、血液を浄化する方法です。まず発症者の動脈から血液を体の外に導き出し、透析装置の中に送って、ここできれいにされた血液を静脈に戻します。

透析装置の原理は、小さな穴の開いている薄いセロハン膜を境として、一方から血液、他方から透析液が流されて、血液からは尿素窒素やクレアチニンなどの代謝物質やそのほかの有害物質が透析液に入り、逆に透析液からはブドウ糖や栄養物が血液に入って、発症者の血液が浄化されます。

血液透析を行うには、安定した体外循環を確保する必要があります。動脈と静脈を吻合(ふんごう)して、内シャントと呼ばれる処置を行う必要があります。普通は左手前腕にこれを作り、この部位に2本の穿刺(せんし)針を刺して透析を行います。人工血管を体外に留置する外シャントと呼ばれる処置を行う方法もあります。

血液透析は一般的に、1回3~5時間、週2~3回の透析時間を必要とします。透析を始めて間もなくは、吐き気、嘔吐(おうと)、頭痛、血圧変動などの不均衡症候群で悩まされることもあります。食事や水分の摂取の制限など、厳しい自己管理も要求されます。

通常は中心的なセンター病院と、入院設備を持たない地域透析施設のサテライトとで協力し合って、治療を行っています。安定した状態の時は、日常生活に便利なサテライトで治療が行えるシステムになっています。

近年は、連続携行式腹膜透析法(CAPD)も行われています。あらかじめ腹腔(ふくくう)内に腹膜透析用の管を入れて固定し、プラスチックバッグに入った透析液を、この管で腹腔内に注入して血液を浄化します。体外の装置ではなく、自身の腹膜を透析膜として利用する手法のため自宅でできますが、一般的には、1日3〜4回、透析液の注入、交換が必要です。

頻繁な通院から解放されるという利点がありますが、腹腔に異物を留置することから腹膜炎の原因になることがあります。このため、若年者が長期に渡って腹膜透析を用いることは、奨励されていません。また、腎不全のために人工透析を長期に渡って受けている人は、腎臓がんになるリスクが上がることが知られています。腎臓がんの定期検査を受けることが、推奨されています。

腎臓移植は、肉親などから2つある腎臓の1つをもらったり、死亡した人の腎臓をもらって、これを発症者に移植し、血管や尿管をつないで腎臓の代用にするものです。移植には、死後間もない腎臓ほど移植成績がよいことから、脳死を巡る論争や、脳死と臓器提供を巡る訴訟問題などが起こり、近年は移植例が減少してきています。

しかし、長期間に渡る透析を必要とする若い人の腎不全では、人工透析よりも腎臓移植が勧められます。

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