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後天性陰茎湾曲症
後天性陰茎湾曲症とは、生まれてから生じた異常によって、男性の陰茎が勃起(ぼっき)した時に根元から、あるいは途中から湾曲する状態。
上下に曲がる場合や左右に曲がる場合、両方が混在した場合などがあり、陰茎の中ほどから下方向にへの字型に折れ曲がる場合が一番多くみられます。
勃起していない時はほとんど目立たない場合が多いのですが、勃起すると明らかな曲がりが確認できます。湾曲が強いと勃起自体に陰茎の痛みが伴うことがあるものの、勃起していない状態では陰茎の痛みはありません。
陰茎の湾曲のほか、勃起弱化が起こることもあります。
ほとんどの男性の陰茎はどこかの方向に曲がっているものの、大半は真っすぐといえる範囲に収まっています。陰茎湾曲症でも軽度の湾曲は問題ないものの、陰茎の湾曲が強ければ、性行為の際にペニスを挿入しにくかったり、挿入後にすぐに抜けてしまったり、パートナーの女性が痛がったり、男性自身も亀頭部の摩擦が多くて痛みを生じるなどという問題が生じやすくなります。
変形によるコンプレックスや、勃起に伴う陰茎の痛みに対する不安など、精神的なストレスから勃起不全(インポテンツ)に陥ることもあります。
後天性陰茎湾曲症は、陰茎形成性硬結症(ペロニー病)や、外傷による陰茎折症(陰茎折傷)によって生じます。
陰茎形成性硬結症は陰茎の皮膚の下に硬いしこりができる疾患
陰茎形成性硬結症は、陰茎の皮膚の下に硬いしこりができる疾患。疾患名は1743年に最初に報告したフランスの医師フランソワ・ジゴ・ラ・ペロニーにちなみ、ペロニー病、パイロニー病、ペイロニー病、陰茎硬化症などとも呼ばれます。
30~70歳代の男性に多く、陰茎海綿体を包む白膜(はくまく)という結合組織に、線維性のしこり(硬結)ができます。白膜は伸び縮みする弾性線維と硬い膠原(こうげん)線維の組み合せでできていて、ある程度伸びると止まる構造になっていますが、膠原線維が増えてしこりになります。しこりは陰茎の陰嚢(いんのう)と反対側の面にできることが多く、すじ状のものから板状で骨のようなものまで、さまざまな形があります。
勃起すると陰茎がしこりのある方向に曲がり、疼痛(とうつう)が起こることもあります。曲がり具合にもよりますが、十分な勃起が得られず、性交に支障を来すこともあります。
平常時は痛くもかゆくもなく、しこりそのものは無害と考えられ、自然によくなることもあります。逆に、徐々に進行することもあります。
詳細な原因は、まだよくわかっていません。慢性陰茎海綿体炎、糖尿病、痛風、外傷などとの関連が疑われています。手の小指や薬指の内側の腱(けん)が引きつって内側に曲がったり、手のひらや足の裏が短縮したりするデュプイトラン拘縮という疾患と一緒に現れることもあります。デュプイトラン拘縮は中年以降の男性に多くみられ、長期にわたるアルコール摂取が危険因子の一つと見なされ、糖尿病に合併することもあります。
陰茎形成性硬結症らしいと思い当たり、性生活に支障を来すようであったり、ほかの疾患、例えば陰茎がんなどとの見極めが困難な場合は、泌尿器科などの医師に相談することが勧められます。
陰茎折症は陰茎に過度の力が加わり、著しく変形したり、はれ上がった状態
陰茎折症は、勃起した陰茎に過度の力が加わったために、あるいは事故などによる外傷のために、陰茎海綿体を包む白膜が断裂して、陰茎が折れ曲がる状態。陰茎折傷とも呼ばれます。
陰茎白膜のみにとどまらず、陰茎海綿体に裂傷が生じたり、尿道海綿体や尿道に損傷が生じることもあります。
年間の発生率は10万人に0・3人との報告もあり、まれです。20〜40歳の性的活動性の高い年齢層に多く発生し、その原因として、自分の手で曲げる行為、性行為、自慰、寝返り、転倒などが挙げられます。
陰茎白膜が断裂する部位は、陰茎中央部が最も多く、陰茎根部、亀頭近接部にもみられます。勃起した陰茎が無理やり曲げられた場合などでは、ほとんどのケースで、伸展して薄くなった陰茎白膜が穀物の茎の折れる音、あるいはガラス棒の折れる音と形容されるようなブチッという異常音を立てて、断裂します。
その瞬間から、激しい痛みが起こります。陰茎は勃起状態から普通の状態に戻るとともに、激痛は持続的な鈍痛あるいは刺痛に変わり、浅陰茎背静脈などの血管の破裂による内出血のために、徐々に皮下血腫(けっしゅ)ができてきます。そして、破裂した部位とは反対側に、陰茎が折れ曲がります。陰茎は著しくはれ上がり、陰茎の皮膚は暗紫色をみせます。
皮下血腫の圧迫により排尿困難を起こしたり、尿道に損傷が生じた場合には、外尿道口からの出血、血尿、尿閉を伴うこともあります。
陰茎根部に接する陰嚢の鞘膜(しょうまく)も破裂すると、鼠径(そけい)部、会陰(えいん)部、恥骨(ちこつ)部に斑状(はんじょう)の皮下血腫ができることもあります。
誘因として尿道炎、尿道周囲炎、尿道狭窄(きょうさく)、陰茎白膜の硬化性変化、陰茎海綿体の変性が挙げられ、陰茎にわずかに異常な外力が加わっただけで陰茎折症が起こりやすく、尿道の損傷などの合併症が起こる危険性が増すともいわれています。
陰茎折症の症状が出たら、早期に泌尿器科、ないし外科の医師を受診する必要があります。放置すると、勃起力の減退、勃起時の陰茎の湾曲、有痛性勃起、勃起障害、排尿障害などが起こり得ます。軽度の場合のはれ上がりがない状態でも、受診は必要になります。
陰茎形成性硬結症の検査と診断と治療
泌尿器科の医師による陰茎形成性硬結症(ペロニー病)の診断では、特徴的なしこり(硬結)の症状の視診、触診で確定できます。以前に打撲などによる外傷や炎症があったかどうかが、参考になります。超音波検査やMRI検査を行うと、しこりの厚さや大きさを観察でき、しばしば石灰化が確認できます。陰茎知覚異常がある場合には、振動覚測定を行います。
この陰茎形成性硬結症ががんになることはありませんが、しこりや痛みが同じように現れる陰茎がんとの見極めは難しく、正確に診断するためにしこりの一部を切除して組織検査を行うこともあります。
陰茎形成性硬結症に特に有効な根本的な治療法はありませんが、勃起障害の原因となったり、痛みが起こる場合には、超音波治療(体外衝撃波治療)、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射ないし内服、コラーゲン分解酵素の局所注射、ビタミンEの内服、ヘパリン類似物質や非ステロイド系消炎鎮痛薬の軟こうの塗布などが試みられますが、あまり有効ではないようです。痛みが起こる場合には、放射線照射が有効とされています。
性交渉に障害が出るような場合、本人が希望すれば手術を行うこともあります。手術には、しこりがある反対側の白膜を切り詰めて湾曲を矯正する縫縮法(プリケーション法)と、白膜のしこり自体を切除し、欠損部に皮膚や静脈を移植する移植法の2つがあります。
通常、軽い場合は縫縮法、症状が進んでいれば移植法が行われます。縫縮法は湾曲の改善のみを目的とした方法で、移植法に比べて簡単ですが、しこりや痛みの改善はできないことと陰茎の短縮が問題となります。移植法も、手術後の瘢痕(はんこん)組織が硬化して手術前より悪化したり、切除しても再発することがあるのが問題となります。
いずれも2時間ぐらいの手術で、3日間程度の入院が必要です。糖尿病のある人の場合は、血糖コントロールが必要のため入院期間が少し長くなります。縫縮法を局所麻酔で行う場合は、日帰り手術も可能です。
症状が進んで陰茎海綿体にまで影響するなど重い勃起障害がある場合は、陰茎の中に支柱材を埋め込むプロステーシス手術も検討されます。デュプイトラン拘縮が一緒に現れている場合は、 基本的に薬物療法や注射は治療効果がなく、手術による治療になります。
陰茎折症の検査と診断と治療
泌尿器科、ないし外科の医師による陰茎折症(陰茎折傷)の診断は、発症時のブッチという断裂音の問診と、陰茎白膜の断裂部位と反対側への陰茎の屈曲、陰茎の暗紫色のはれ上がりなど独特な形態変化から、臨床的に下します。
皮下血腫が広範であれば、陰茎白膜などの断裂部位の確定は触診のみで困難なことも多く、MRI検査が行われることもあります。尿道の損傷の発生率が高いため、陰茎尿道X線撮影(逆行性尿道造影)が行われることもあります。
泌尿器科、ないし外科の医師による治療は、尿道の損傷がない場合や軽い尿道断裂と見なした場合、保存的に治療することもあります。局部の安静、陰茎および陰嚢の挙上などにより血腫の吸収を促進し、圧迫包帯、湿布、止血剤、消炎鎮痛剤などを使用して治療します。
しかし、保存的治療だけでは、陰茎の変形、勃起障害などの後遺症が生じる割合が高いため、陰茎白膜の断裂が高度で出血が著しい場合や尿道損傷のある場合は、手術が行われるのが一般的です。まず血腫がある場合にはこれを取り除いて、最小限の皮膚切開で陰茎白膜の断裂部分を縫い合わせます。早期に適切な手術を行えば、後遺症はまず生じません。
早期に適切に対応しないと、後遺症が残る可能性が高くなります。また、尿道断裂に至るなど重度なものは予後はよくなく、陰茎形成術、尿道形成術などを要します。
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