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乾酪性上顎洞炎
乾酪性上顎洞炎(かんらくせいじょうがくどうえん)とは、カビの仲間である真菌が副鼻腔(ふくびくう)の一つである上顎洞に入り込むことが原因で、乾酪、すなわちチーズのような形状をした膿(うみ)がたまる疾患。真菌性副鼻腔炎の一種で、真菌性上顎洞炎と重複する部分が多い疾患です。
鼻の穴である鼻腔の周囲には、骨で囲まれた空洞部分である副鼻腔が左右それぞれ4つずつ、合計8つあり、自然孔という小さな穴で鼻腔とつながっています。4つの副鼻腔は、鼻の両横に位置する上顎洞のほか、鼻の上の額にある前頭(ぜんとう)洞、目と目の間にある篩骨(しこつ)洞、その奥にある蝶形骨(ちょうけいこつ)洞です。
4つの副鼻腔は、強い力が顔面にかかった時に衝撃を和らげたり、声をきれいに響かせたりする働きがあるとされますが、その役割ははっきりとはわかっていません。鼻腔や副鼻腔の中は、粘膜で覆われており、粘膜の表面には線毛と呼ばれる細い毛が生えています。線毛は、外から入ってきたホコリや細菌、ウイルスなどの異物を粘液と一緒に副鼻腔の外へ送り出す働きを持っています。
真菌は、カビ、酵母(イースト)、キノコなどからなる微生物の総称で、菌類に含まれており、健康な人の体内に常にいるものや、空気中のあらゆる所に浮いている胞子が体内に入ってくるものなど、さまざまな種類があります。
健康である限り真菌に感染することはありませんが、体の抵抗力が落ちている人や高齢者、抗生物質を飲んでいる人、あるいは免疫の疾患などで副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を飲んでいる人、免疫抑制剤を飲んでいる人など、免疫力が低下している人、糖尿病や悪性腫瘍(しゅよう)などの基礎疾患がある人が、真菌の胞子に接触すると日和見感染し、真菌性副鼻腔炎や、その一つである乾酪性上顎洞炎を起こすことがあります。
上顎洞に入り込んだ真菌が増殖し、多くの場合は塊を形成するので、強い炎症が起こります。真菌の中でも、呼吸器を侵すアスペルギルスが最も多い原因となっています。それ以外には、肺や鼻や脳を侵すムコール、口や肺などを侵すカンジダなどが原因になっています。
症状としては、左右どちらか片側の鼻腔から、非常に粘り気が強くて黄色く、悪臭が漂うチーズ様の鼻水が出るようになります。粘り気が強いため、鼻をかんでもなかなか取り去ることができず、鼻詰まりの原因にもなり、鼻からの呼吸がしにくくなることもあります。
これらの症状のほかにも、頬(ほお)が重たく感じたり、頬の部分に熱感を感じるようになったり、押さえると痛みを感じるようにもなったりします。
また、片頭痛がする、いつも何となく頭が重たく感じる、目の痛みが生じるといったこともあります。時には、炎症を起こしているほうの歯で物をかむと、痛みを感じることもあります。
大半は上顎洞に限られた炎症にとどまることが多いものの、糖尿病が非常に悪化したり、免疫機能が低下したりして全身状態が悪くなると、目や脳の中に炎症が進み、上顎洞の骨を破壊して周囲に広がることがあります。この場合には、高熱、激しい頭痛、頬部腫脹、眼球突出、視力障害などを起こします。
糖尿病や悪性腫瘍などの基礎疾患があり、虫歯がないのに左右どちらかの鼻腔から悪臭を伴ったチーズ様の鼻水が出てきて、反対側は全く症状がない場合は、要注意です。早めに耳鼻咽喉(いんこう)科、耳鼻科を受診することが勧められます。
耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、真菌性副鼻腔炎の場合と同様に、X線(レントゲン)検査とCT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。 X線(レントゲン)検査の画像には、左右どちらか片側の上顎洞にびまん性陰影が認められます。CT(コンピュータ断層撮影)検査の画像には、左右どちらか片側の上顎洞に骨壁の肥厚、石灰化陰影、内側壁の破壊などが認められることもあります。
鑑別を必要とする疾患には、悪性腫瘍、急性副鼻腔炎、歯性上顎洞炎があります。
耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、上顎洞内を複数回洗浄します。洗浄のために上顎洞内に針を刺したり、細い管を挿入するので、痛みを伴います。真菌に対する抗真菌剤の投与は、一般に行われません。
洗浄で改善しなければ、手術を行います。内視鏡下に行う鼻内副鼻腔手術で、上顎洞と鼻をつなぐ自然孔を広げた上で、上顎洞の真菌の塊を完全に摘出し、粘膜を洗浄します。手術後は、広げた自然孔から上顎洞洗浄を定期的に行います。ほとんどの場合は、手術後2~3カ月で上顎洞の粘膜は正常になります。
まれに悪化し、上顎洞の骨が破壊された場合は、真菌に対する抗真菌剤を全身投与し、鼻の外側から切開して感染した病変を完全に取り除く必要が生じます。目や脳の中に炎症が進んだ場合は、病変を完全に取り除くことが困難であることが多く、手術は不可能となります。
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