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後縦靱帯骨化症
後縦靱帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)とは、脊椎(せきつい)を構成する椎体と呼ばれる四角いの骨の後面を上下に連結し、脊椎を縦走する後縦靭帯が骨化する疾患。
背骨、すなわち脊椎の骨と骨の間は、靭帯で補強されています。椎体の後面に位置し、脊髄の通り道である脊柱管の前面に位置する後縦靭帯は、骨に適度な動きと安定性をもたらしています。
この後縦靭帯が分厚くなって骨のように硬くなると、脊髄の通り道である脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫されて、知覚障害や運動障害が症状として現れます。
胸椎にも後縦靱帯骨化症は出現しますが、頸椎(けいつい)に多く出現します。後縦靱帯が骨化する脊椎の部位によって、頸椎後縦靭帯骨化症、胸椎後縦靭帯骨化症、腰椎後縦靭帯骨化症に分類することもあります。
50歳以上の男性で好発し、男性は女性の2倍発症しています。また、糖尿病や肥満症の人の発生頻度が高いことがわかっています。
後縦靱帯が骨化する原因は不明。単一の原因で生じるのではなく、複数の要因が関与して発症すると推測されています。遺伝的素因、性ホルモンの異常、カルシウムやビタミンDの代謝異常、糖尿病、肥満傾向、老化現象、全身的な骨化傾向、骨化部位における局所ストレス、骨化部位の椎体間にある円板状の軟骨組織である椎間板脱出などいろいろな要因が考えられていますが、原因の特定には至っていません。特に家族内発症が多いことから、遺伝子の関連が有力視されています。
後縦靱帯の骨化があればすぐに症状が出現するわけではありませんが、頸椎に後縦靱帯骨化が起こった場合に最初に出てくる症状としては、首筋や肩甲骨周辺、指先の痛みやしびれがあります。
症状が進行すると、次第に痛みやしびれの範囲が広がり、脚のしびれや感覚障害、足が思うように動かないなどの運動障害、はしを使うなどの両手の細かい作業が困難となる手指の運動障害などが出現します。重症になると、排尿や排便の障害や、一人での日常生活が困難になることもあります。
胸椎に後縦靱帯骨化が起こると、下半身に症状が出ます。初発症状として、下肢の脱力やしびれなどが多いようです。腰椎に後縦靱帯骨化が起こると、歩行時の下肢の痛みやしびれ、脱力などが出現します。
症状の進行は年単位の長い経過をたどり、軽い痛みやしびれで長年経過する場合もある一方で、年単位の経過で手足の動作がかなりの程度傷害される場合もあります。また、軽い外傷、例えば転倒などを切っ掛けに、急に手足が動かしづらくなったり、今までの症状が強くなったりすることもあります。
整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、頸椎に多い後縦靭帯骨化症を見付けます。X線検査で見付けることが困難な場合は、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などで精査します。CT検査は骨化の範囲や大きさを判断するのに有用で、MRI検査は脊髄の圧迫程度を判断するのに有用です。
整形外科の医師による治療では、症状が軽い場合、骨化によって圧迫されている脊髄や神経根を保護することを主目的にして、頸椎の外固定装具を装着します。痛みに対しては、筋弛緩(しかん)剤や消炎鎮痛剤などを用います。しびれや手指の運動障害に対しては、ビタミンB剤を用います。
脊髄症状のため日常生活に支障があり、画像検査で脊髄にある程度の圧迫が見付かった場合は、手術を行います。手術法には、首の前を切開する前方法と、後ろ側を切開する後方法があります。
頸椎の後縦靱帯骨化では、脊髄や神経根の圧迫を取るため骨化部位を摘出して、その部位を自分の骨で固定する前方法と、骨化部位はそのままにして脊柱管を広げる後方法があり、一般的には後方法が選択されます。
胸椎の後縦靱帯骨化では、背骨が丸くなっているため、後方法で脊柱管を広げるだけではなく、ボルトなどを用いて固定を加える手術が行われることが多くなっています。腰椎の後縦靱帯骨化では、一般的に後方法が選択されます。
後縦靭帯骨化症を完全に予防することはできませんが、症状の悪化を防ぐためには、日常生活で首を後ろに反らせすぎないこと、仕事や遊び、泥酔などで転倒、転落することで脊髄症状を出現させたり悪化させたりしないことが必要です。
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