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解離性遁走


突然、家庭や職場から離れて放浪し、その間の記憶がない障害

解離性遁走(とんそう)とは、家庭や職場など日常的な場所から突然、離れて放浪し、本人にその間の記憶がない解離性障害。人口1000人当たり2人程度が、解離性遁走を発症していると推定されています。

飲酒や身体疾患による意識障害、認知症、詐病などによる放浪では説明できないものが、解離性遁走に相当します。この解離性遁走と、経済的または社会的な利益の享受などを目的として病気であるかのように偽る詐病による遁走は、いずれも本人が明らかに逃げ出したいと思うような状況で発生する点では似ていますが、解離性遁走は本人の意思とは無関係に起こる障害であり、意識的に放浪する詐病とは異なります。

解離性遁走は、家庭や職場、学校などにおいて極度のストレスにさらされ、しかもそれを誰(だれ)にも打ち明けることができない状態で、周囲の人には予期できない形で突然、始まります。事故や戦争、自然災害などとも関連し、その経験が心的外傷(トラウマ)となって発症するケースも多くみられます。

心的外傷や極度のストレスから逃れるために、記憶や知覚などが失われ、遁走が引き起こされます。遁走状態での放浪の間は、普通は意識的に自覚している日常にかかわる情報や、自分自身についての記憶、例えば、自分が誰(だれ)なのか、何をしたのか、どこへ行ったのか、誰と話したのか、何を話したのかなどの記憶が失われます。情報自体は忘れていても、その人の行動には引き続き影響を与えていることもあります。

放浪は時に数百キロを越えることもあり、目的のない彷徨(ほうこう)の形をとることもありますが、大抵は目的があるようにみえます。普段の本人からしてみるとあり得ない様な行動をとっていたとしても、受け答えは正常にできます。偶然見掛けた人には、その行動は全く正常にみえ、精神的な疾患を持つ人のようにはみえません。

食事や洗面などの身辺管理は正常で、公共の交通手段を利用することもでき、社会的行動はまとまってみえます。静かで、活気がなく、世捨て人のような存在であり、しばしば単純な仕事について、慎み深く暮らしています。

遁走状態での放浪の期間は、数時間から数カ月、場合によっては数年間に及ぶこともあります。放浪期間が長い場合は、過去の一部または全部を思い出すことができず、放浪先で別の人物として新しい人生を始めることもあります。

ほとんどの解離性遁走では、短期間で家庭や職場など日常的な場所に戻ってきますが、放浪前の過去の出来事は思い出せても放浪中の出来事を全く覚えていない人がいるほか、放浪中の出来事を飛び飛びの記憶の痕跡(こんせき)としてしか覚えていない人、放浪前の一定期間の自己の生活史の記憶も喪失している人、放浪前のすべての自己の生活史の記憶をも喪失している人もいます。

短期間で戻って来た場合、放浪中に問題のある行動を起こしていなければ障害は軽く、短期間で自ら回復するとされます。

しかし、長期間放浪した場合や、抑うつ・不快感・羞恥(しゅうち)・葛藤(かっとう)・自殺願望や攻撃的衝動などの後遺症がある場合は、自分自身で解決することは非常に困難です。周りの人の協力や、精神科、神経科、心療内科などの医師による心理療法やカウンセリングが必要となってきます。

解離性遁走の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、症状を注意深く観察し、体を診察して解離性遁走に飲酒や身体疾患による意識障害、認知症、詐病などが原因がなっていないかどうかを調べます。身体的な原因を除外するために、脳波検査と毒素や薬物を調べる血液検査を行うこともあります。

また、解離性同一性障害や特定不能の解離性障害の可能性も考えながら、解離性遁走を診断します。解離性同一性障害は、解離性健忘や解離性遁走の症状を含んでいるからです。

その人の記憶喪失の体験の特徴をとらえて理解し、治療計画を立てるために、しばしば特殊な心理検査も行われます。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療は、まず発症者が安心できる環境にすること、発症者と信頼関係を築くことから始めます。欠落した記憶が自然には回復しない場合や、緊急に記憶を取り戻す必要がある場合は、記憶想起法がしばしば効果を発揮します。催眠、またはアモバルビタール、チオペンタールラボナールなどの短時間作用型バルビツール酸を静脈内に注射して気持ちを落ち着かせ、鎮静状態にした上で行う面接により、医師が過去のことについて質問します。

催眠や薬物を利用した面接は、記憶の欠落に伴う不安を軽減するとともに、苦痛に満ちた心的外傷(トラウマ)や葛藤を思い出さないようにするために本人が心の中に築いた防御を突破し、あるいはう回するのに役立ち、記憶を取り戻す助けとなります。

また、発症者を催眠状態に置くことにより、精神的抑制が消えて欠落した記憶が意識の中に現れることがあります。薬剤は覚醒(かくせい)のコントロールが難しく、しかも、呼吸抑制など危険な副作用が起こる可能性があります。それに対して、催眠は副作用の危険性は少ないものの、治療する側が催眠の技術を持っていなければなりません。

医師は、どのようなことを思い出すべきか示唆したり、極度の不安を引き起こしたりしないように注意しなければなりません。この方法で再生された記憶は正確でないこともあるため、別の人による裏付けも必要となります。

そのため、この方法で再生された記憶が正確でない場合もあることを前もって発症者に告げ、本人の同意を得てから、催眠または薬物を利用した面接を行います。

記憶の空白期間をできるだけ埋めることにより、発症者の自己同一性(アイデンティティ)や自己認識に連続性を取り戻すことができます。健忘がなくなった後も心理療法を継続することは、原因となった心的外傷や葛藤を発症者が理解し、解決方法を見いだしていく上で役立ちます。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。

解離性遁走の克服には、場合によっては非常に長い時間を要することもあります。しかし、正常な日常生活を送るためには、欠落した記憶を取り戻し、健忘の原因となった心のトラブルの解決することが必要となってきます。症状が重くなる前に早期の治療を行うことで、解離性遁走を何度も繰り返し、やがて長期間に渡って遁走する危険性を排除することができます。

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