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行軍腫(趾間神経痛)
行軍腫(こうぐんしゅ)とは、体のバランスを保つ中足骨(ちゅうそくこつ)の間の神経がはれて、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じる疾患。趾間(しかん)神経痛、モートン病、モルトン病、モートン神経腫(しゅ)とも呼ばれます。
古くから靴の文明が発達していた欧米人に多くみられた足指の神経痛の一種ですが、1876年にトーマス・モートンが足指の第3趾と第4趾の間の付け根にある神経の炎症であると、初めて報告しました。
日本では第2次世界大戦中に、隊を組んで長距離を行進する行軍で、多くの陸軍の歩兵がこの行軍腫に悩まされたといわれています。戦後は、おしゃれな靴が好まれるようになり、多くの女性が悩まされることとなりました。
足先への過度の荷重が発症の原因とされていて、ハイヒールや窮屈な靴の常用、中腰の姿勢での作業などで、足の指の付け根の関節でつま先立ちをする格好が長時間続く人に、起こりやすくなります。幅の狭い靴、底が薄くて硬い靴を履くことの多い人、硬い床の上でダンスをする人、硬い路面の上でランニングなどの反復性の運動をする人に、起こることもあります。
また、行軍腫は足底の横アーチの崩れとも関係していて、足が徐々に偏平になってくる中年以降の女性に多く発症します。
足の中足骨は深横中足靭帯(じんたい)によってつなぎ止められていて、その間を指神経(固有底側指神経)と呼ばれる感覚の神経が通っています。そして、足指の第3趾と第4趾の間の付け根には、指神経が交錯する神経腫と呼ばれる神経の固まりがあります。
この神経腫が深横中足靱帯と地面の間で圧迫されて、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じるほか、第2趾と第3趾の間の付け根にある滑液包と呼ばれるクッションが繰り返される刺激によって炎症を起こして、指神経を圧迫し、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じることもあります。
症状として、前足部に体重がかかったり、ハイヒールや窮屈な靴を履くと、足指や足指の付け根にしびれ、痛みや、異物感を感じます。歩くだけで激しい痛みを感じる場合があり、足指にかけての知覚障害が発生する場合もあります。時には、痛みが下腿(かたい)まで及ぶこともあります。一般的には、障害部位は第3趾と第4趾にまたがって起き、第2趾と第3趾、第4趾と第5趾にまたがることもあります。
通常は片側の足だけに生じるものの、時には両足に同時に障害が起こることもあります。圧迫部の近位に仮性神経腫といわれる有痛性の神経腫が形成される場合は、足底から第3趾または第4趾の付け根を圧迫すると痛みがあったり、前足部を手で両側から締め付けるようにすると痛みが誘発されます。
整形外科、神経内科の医師による診断では、 障害神経の足指間に感覚障害、中足骨頭間の足底に有痛性の仮性神経腫があり、仮性神経腫をたたくとその支配領域に痛みが放散するチネルサインがあれば、診断は確定できます。また、足指を背屈するか、つま先立ちをしてもらうと痛みが強くなります。
X線(レントゲン)検査、筋電図検査、MRI検査、超音波検査なども、必要に応じて行われます。
整形外科、神経内科の医師による治療では、まずハイヒールの使用や中腰での作業を禁止して局所の安静を図り、消炎鎮痛剤などの薬剤内服、足の横アーチを整える足底板の靴底への挿入、筋肉の伸びを制限することで痛みの緩和を図るキネシオテーピング 、靴の変更、温熱療法、運動療法、痛みを和らげるブロック注射などを用いた保存的療法を行います。
発症から治療までの期間が短ければ短いほど、保存療法で治る割合が高くなっています。鍼灸(しんきゅう)治療が有効な場合もあります。
3カ月ほど様子をみて保存療法で症状が回復しない場合や、日常生活に支障を来す場合は、手術が必要になることもあります。手術には、神経剥離(はくり)、神経腫摘出、深横中足靱帯の切離などがあります。しかし、神経腫を切除しても痛みが楽にならないこともあるので、仮性神経腫状態にしないことが肝心です。
そのためには、足指と足底筋を鍛えて足のアーチを維持する必要があり、足じゃんけん、ビー玉拾いエクササイズ、歩行運動などが勧められます。足じゃんけんは、指全体を曲げてグー、親指だけ立ててチョキ、全部広げてパーをするもので、風呂の中などでするのも一案です。
また、足に負担をかけないためにも適切な体重を維持するとともに、自分の足に合った靴を選ぶことも大切です。お勧めの靴は、つま先に1~1・5cmくらいの余裕があり、靴紐(ひも)かマジックベルトが付いていて、靴底は硬めで、ある程度の重さのあるタイプ。
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