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アミノ酸代謝異常症
アミノ酸代謝異常症とは、遺伝性の異常により、蛋白(たんぱく)質の構成成分であるアミノ酸の一部を代謝できず、アミノ酸の代謝産物が蓄積して症状が現れる疾患。
代表的なものに、フェニルケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症があります。いずれも先天性代謝異常症の一種です。
フェニルケトン尿症は、アミノ酸の一つのフェニルアラニンを代謝する際に必要な酵素に異常があるために、フェニルケトン体という物質を発生し尿中に排出される疾患。
人間が成長、発育していくには、蛋白質、糖質、脂肪、ビタミン、ミネラルなどの栄養分が必要であり、これらの栄養分は胃、腸で分解され、小腸より吸収されて、肝臓などの内臓や脳、筋肉に運ばれます。内臓ではさらに、それぞれの臓器を構成するのに必要な成分に分解、合成されます。
このように栄養分を分解、合成する代謝には酵素の働きが必要ですが、その酵素が生まれ付きできないために、関係する成分の蓄積が起こって、いろいろな症状が現れるのが、先天性代謝異常症です。
先天性代謝異常症の種類はたくさんありますが、フェニルケトン尿症は比較的頻度が高く、早期発見により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっています。新生児の約8万人に1人の割合で、フェニルケトン尿症を発症するとされています。
口から摂取した蛋白質は胃でアミノ酸に分解され、腸より吸収されます。そのアミノ酸の一つであるフェニルアラニンは、体内で合成することができず、肉類を始めとして魚貝類、卵、チーズ、脱脂粉乳、大豆などの食品中に多く含まれるものを摂取して補わなければならない必須(ひっす)アミノ酸の一つでもあり、フェニルアラニン水酸化酵素の働きによって、大部分が別のアミノ酸であるチロシンに変換されます。
このフェニルアラニン水酸化酵素が生まれ付き欠けていると、フェニルアラニンが体内に過剰に蓄積し、多量のフェニルケトン体が尿中に排出されるようになります。これがフェニルケトン尿症です。
新生児にすぐ症状が出ることはほとんどありませんが、時には活気がなかったり、授乳不良がみられることがあります。一般的には、授乳を開始することにより新生児の体内にフェニルアラニンが蓄積し、生後3〜4カ月ころから症状が現れます。
フェニルアラニンの過剰蓄積によって、脳に障害が起こり、精神遅滞、知能障害、脳波異常、けいれんがみられます。血液中のフェニルアラニン濃度は、正常なら1mg/dL(ミリグラムパーデシリットル)前後なのに、20mg/dL以上になっています。
また、体臭や尿がネズミ臭くなります。汗や尿に、フェニルアラニンの代謝産物のフェニル酢酸が含まれるためです。メラニン欠乏による色白や赤毛、吐き気や嘔吐(おうと)、湿疹(しっしん)様の発疹も現れます。
ただし、新生児の集団スクリーニングで早期発見、早期治療が可能となった現在では、このような症状をみることはほとんどなくなりました。
ホモシスチン尿症は、アミノ酸の一つのメチオニンを代謝する際に必要な酵素に異常があるために、ホモシスチンという物質を発生し尿中に排出される疾患。
たくさんの種類がある先天性代謝異常症の中で、ホモシスチン尿症は比較的頻度が高く、早期発見により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっています。新生児の約90万人から100万人に1人の割合で、ホモシスチン尿症を発症するとされています。
口から摂取した蛋白質は胃でアミノ酸に分解され、腸より吸収されます。そのアミノ酸の一つであるメチオニンは、体内で合成することができず、食品中に含まれるものを摂取して補わなければならない必須アミノ酸の一つでもあり、シスタチオニン合成酵素の働きによって、ホモシステインというアミノ酸に変換され、その後、システインとシスチンに作り替えられます。
このシスタチオニン合成酵素が生まれ付き欠けていると、血液中のホモシステインやメチオニンの量が増え、ホモシスチンという物質が尿中に排出されるようになります。これがホモシスチン尿症で、ある種の薬の使用で後天的にも起こりますが、先天性のものは常染色体劣性遺伝します。
出生時は無症状の場合がほとんどで、出生後に治療しないまま放置すると年齢とともに、目、骨格、中枢神経、血管系に障害が起こります。
目では、2歳ごろから水晶体のずれが起こったり、視力がひどく低下します。
骨格では、骨粗鬆(こつそしょうしょう)症も含めた骨格異常がみられます。そのため、手足や手指が長くなり、背骨の曲がった細くて背の高い体形になります。
中枢神経系では、1~2歳の間に発育、発達の遅れが目立つようになり、歩き始めが遅れたり、よたよた歩きになったりします。約半数にに、けいれんや知能障害がみられます。
血管系では、血液が凝固しやすくなるために、血管中で血液が固まった血栓(けっせん)が詰まる脳梗塞(こうそく)や肺塞栓(そくせん)が起こり、死因になることが多いとされています。
メープルシロップ尿症は、一部のアミノ酸を分解できないために、新生児期から神経系の異常を生じる疾患。楓(かえで)糖尿症とも呼ばれます。
たくさんの種類がある先天性代謝異常症の中で、メープルシロップ尿症は比較的頻度が高く、早期発見により正常な発育を期待できるため、新生児の集団スクリーニングの実施対象疾患となっています。新生児の約40万人から50万人に1人の割合で、メープルシロップ尿症を発症するとされています。
口から摂取した蛋白質は胃でアミノ酸に分解され、腸より吸収されます。そのアミノ酸のうち、分岐鎖アミノ酸と呼ばれるロイシン、イソロイシン、バリンの3種類の必須アミノ酸を分解するα(アルファ)−ケト酸脱水素酵素の活性が、先天的な遺伝子の異常によって低下するために、メープルシロップ尿症は起こります。
3種類のアミノ酸を分解、合成する代謝ができず、これらのアミノ酸とα−ケト酸からなる代謝産物が蓄積し、血液中の量が増えます。
このため神経系に変化が起こり、けいれんや精神遅滞なども起こります。こうした代謝産物によって、尿や汗などにメープルシロップ(楓シロップ)とよく似た特有の甘いにおいがします。
メープルシロップにはさまざまな病型があり、最も重症な古典型から、症状の軽い間欠型、中間型、ビタミン反応型(サイアミン反応型)などがあります。
最も重症な古典型では、生後1週目で授乳不良、活気不良、嘔吐、けいれん、多呼吸、意識障害、昏睡(こんすい)、低血糖などの神経系の異常を起こし、治療をしなければ数日から数週間以内に死亡します。
これより軽症の型の場合、初期には正常のようにみえますが、乳幼児期以降に感染症や手術などで身体的なストレス状態になると、嘔吐、よろめき歩行、錯乱、昏睡、尿のメープルシロップに似たにおい、徐々に発達が遅れるなどの症状が現れます。
アミノ酸代謝異常症のうちのフェニルケトン尿症は、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。具体的なスクリーニングの流れは、まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。センターでスクリーニング検査を行い、血液中のフェニルアラニン濃度を測ることによりフェニルケトン尿症を発見しています。
結果に異常のある場合、小児科の医師による精密検査を受け、フェニルケトン尿症と診断されると、フェニルアラニンの過剰な蓄積を改善するために、できるだけ早期にフェニルアラニン制限食を開始します。
小児科の医師による治療では、フェニルアラニンを含まないか、含む量を減らした特殊ミルクを用います。フェニルアラニンは食事中の蛋白質に含まれているので、食事は基本的に低蛋白食になります。
フェニルアラニンは必須アミノ酸であるため、発育に必要な最小限のフェニルアラニンを母乳や普通ミルク、もしくは低蛋白食によって与えることにし、不足する栄養素を特殊ミルクで補います。
乳児期は、血液中のフェニルアラニン濃度を2〜4mg/dLになるようにコントロールします。 成長するに従い、フェニルアラニンの摂取制限の緩和も可能ですが、脳の発達が終わった後も、ある程度のフェニルアラニン制限食は生涯続けることが望ましいとされます。味のよい低フェニルアラニン食品も開発されており、バラエティに富んだ料理を作ることができるようになってきました。
血液中のフェニルアラニン濃度の管理に注意しなければならないものの、早期発見、早期治療によって精神遅滞などは防ぐことができ、健常者と同様な生活を送ることができます。
ビオプテリン代謝異常症とも呼ばれる、一部の軽症なフェニルケトン尿症では、食事療法以外にも、酵素の働きを助ける補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)の投与で、血液中のフェニルアラニン値が低下します。その投与を併用することで、食事制限の緩和が可能であり、食事療法を中止し、その単独投与での治療も可能となっています。
しかし、テトラヒドロビオプテリンの投与の長期安全性は不明ですので、使用に際しては保護者への十分な説明と同意が求められています。
アミノ酸代謝異常症のうちのホモシスチン尿症も、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。センターでスクリーニング検査を行い、血液中のメチオニン濃度を測ることによりホモシスチン尿症を発見しています。
結果に異常のある場合、小児科の医師による診断で、精密検査を行います。血液中のメチオニン濃度は新生児の肝臓病や、高メチオニン血症など他の先天性代謝異常症でも上昇することが知られているので、ホモシスチン尿症と診断するためには、尿中に大量のホモシスチンが排出されていることを確かめます。最終的に診断を確定するには、肝臓か皮膚の細胞で酵素の働きを測定する検査を行います。
ホモシスチン尿症と確定されると、小児科の医師による治療では、ホモシスチンはアミノ酸の一つであるメチオニンから作られるため、メチオニン制限食による食事療法を行い、有害なホモシスチン濃度を低下させます。また、生成物であるシスチンが合成されないので、食事に添加します。
乳児期の治療には、メチオニンを除去し、シスチンを強化した特殊ミルクを用います。メチオニンは必須アミノ酸なので、発育に必要な最小限のメチオニンを母乳や普通ミルク、低蛋白の食事によって与え、不足する栄養素を特殊ミルクで補います。血液中のメチオニン濃度は、1 mg/dL以下を目標にします。
ホモシスチン尿症はコントロールが悪いと血栓症を起こし、最悪の場合は死亡する危険性があります。そのため、厳格な食事療法を生涯続ける必要があります。
シスタチオニン合成酵素の補酵素であるビタミンB6投与で、ホモシスチン濃度が低下するタイプでは、ビタミンB6を併用することで食事療法を緩和することが可能です。
最近、ベタインという物質を服用することでホモシスチン濃度が低下するということがわかってきましたが、まだ日本では薬としては認可されていません。
アミノ酸代謝異常症のうちのメープルシロップ尿症も、新生児の集団スクリーニングという集団検診の対象疾患になっています。まず産科医療機関で生後4~7日目の新生児のかかとからごく少量の血液をろ紙に採り、スクリーニングセンターに郵送します。センターでスクリーニング検査を行い、血液中のロイシンの量が4ミリグラムを超えていたら、精度の高いアミノ酸分析計を用いて、血液や尿中の分枝鎖アミノ酸の増加を調べます。
結果に異常のある場合、小児科の医師による精密検査を受け、メープルシロップ尿症と診断されると、ロイシン、イソロイシン、バリンの3種類の分枝鎖アミノ酸を制限した特別なミルクと、蛋白制限食による食事療法を行います。
重症の場合には、血液透析や交換輸血を行って体内に蓄積した分枝鎖アミノ酸とα−ケト酸を排除すれば、神経系の異常なども改善されてきます。軽症の場合には、ビタミンB1(チアミン)の注射が効果的な場合もあります。薬物により疾患を抑えることができた後も、特別なミルクと蛋白制限食を常に摂取しなければなりません。
乳児期では、蛋白質を除去した上で、3種類の制限対象以外のアミノ酸の混合物を加えた各種の治療用除去ミルクを与え、血液中のロイシンの量を2~4ミリグラムに保つように調節します。制限対象のアミノ酸はいずれも必須アミノ酸であるため、全く摂取しないわけにはいきません。残された酵素機能の程度に応じて、母乳や通常の粉ミルクを併用することになります。
離乳期では、自然の食品から3種類のアミノ酸だけを取り除くことはできないため、各食品中の3種類の制限対象のアミノ酸含有量を測定した資料を参考にして、摂取量を計算しながら献立を作ることになります。このような献立で、蛋白質やエネルギーの必要摂取量を確保することが難しい場合は、幼児期以降も治療用除去ミルクで補う必要があります。
一部のビタミン反応型に限られますが、特定のビタミンを服用することで食事制限の緩和が可能となる場合があります。ビタミン投与前後の症状や、検査値によって有効性を評価します。
新生児期に発見、診断して治療することにより、嘔吐や意識障害などの急性症状の出現を防ぎ、良好な発達につなげていくことができます。 感染症などで状態が悪化するので、慎重な育児は必要です。
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