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異常分娩
異常分娩(ぶんべん)とは、正常の経過をたどらず、通常以上の人工介助を必要としたり、母体や胎児に障害を生ずるような出産の総称。
娩出力、娩出物、産道の3つを分娩の3要素といい、それらがいずれも正常で、釣り合いがとれている場合には、分娩は正常の経過をたどります。従って、3要素のうちのどれかに異常があればすべて異常分娩となるわけですが、それにも程度があって、多少の異常があっても釣り合いのとれた範囲内であり、結果的に母体や胎児の状態に何らの異常もなく安全に分娩が終了すれば異常分娩とは呼びません。
異常分娩には、流産、早産、微弱陣痛、過強陣痛、児頭骨盤不均衡、多胎分娩、前期破水、胎位や胎勢の異常、癒着胎盤、分娩時異常出血などがあります。
異常分娩の場合は、鉗子(かんし)分娩、吸引分娩、帝王切開などの産科手術や、新生児の仮死蘇生(そせい)、未熟児の保育を必要とすることが多くなります。
一方、分娩が正常の経過をたどる正常分娩は、自然に陣痛が始まり、妊娠満37週以降から満42週未満の正期に、順調に経膣(けいちつ)分娩が進行して、正常な頭位(前方後頭位)で新生児が生まれてくることを指します。また、正常分娩の定義には、母体や胎児に障害や合併症などが残らないということも含まれます。
なお、分娩中に通常の範囲内で会陰(えいん)切開を行ったり、子宮収縮薬(陣痛促進剤)を使用したりした場合でも、その後の経過に異常がみられなければ正常分娩に分類されます。
分娩の経過中に会陰切開以外の手術的な処置を加える必要があったり、子宮収縮薬の使用後も、初産婦で30時間未満、経産婦で15時間未満の所要時間内に分娩が進まなかったりした場合などには、異常分娩と見なされます。
分娩後、母体や胎児に何らかの障害や合併症が残った場合は異常分娩と見なしますが、順調な経膣分娩には該当しない帝王切開などの異常分娩の場合に、必ずしも何らかの障害が残るというわけではありません。このように、異常分娩は広い意味や状態を含んだ医学用語として用いられています。
異常分娩の原因は、分娩の3要素である娩出力、娩出物、産道の問題に大別できます。
娩出力は、分娩時に胎児を押し出そうとする力のことです。娩出力は、陣痛、子宮の収縮、意識的な腹圧により成り立ちます。異常分娩の原因となる娩出力の問題としては、子宮の収縮が不十分な微弱陣痛、陣痛が強くなりすぎて胎児に過度の負担がかかる過強陣痛などが挙げられます。
陣痛は多くの場合、最初は弱く、次の痛みまでの間隔が長く、それが徐々に強く、間隔が短くなってくるものです。長時間にわたり間隔が長かったり、痛みが弱かったりするままなのが微弱陣痛です。分娩進行の途中から微弱陣痛になってしまうこともあります。微弱陣痛が原因で分娩が長時間にわたる場合には、母体の全身疲労や子宮筋の疲労が生じることがあります。
また、子宮の収縮が非常に強く起こる過強陣痛が起こり、なおかつ産道の抵抗力が強い場合には、母体の痛みや不安などが引き起こされることがあります。
胎児への影響が大きい例としては、分娩が長引くことで状態が悪化し、胎児機能不全と呼ばれる危険な状態に陥るケースが挙げられます。胎児機能不全は、子宮の中の胎児が低酸素状態になることで起こります。異常分娩が胎児機能不全の原因になることもあれば、胎児機能不全が異常分娩の原因になることもあります。
異常分娩の原因となる娩出物の問題としては、胎児が正常な範囲を超えて大きい巨大児である、形態異常がある、低体重である、水頭症や無脳症などの病気がみられるといった場合が挙げられます。
通常、胎児は少しずつ姿勢を変えながら産道を通って出生しますが、上記のような問題がみられる場合には、姿勢をうまく変えることができず、分娩がスムーズに進まないことがあります。これを胎児の回旋異常といいます。
このほか、子宮の中の胎児の頭が上になっている骨盤位(逆子)や斜位、横位であるなど、子宮の中の胎児の頭が下にある頭位(前方後頭位)ではない場合も異常分娩に分類されます。正常な頭位ではない場合、予定帝王切開が選択されることも多くなります。
頭位で児頭が娩出された後に、肩が恥骨に引っ掛かる肩甲難産といった状態も異常分娩として分類されます。
また、胎児の娩出後に胎盤が出てこない癒着胎盤も娩出物の問題です。このような胎盤を無理に出そうとすると、子宮壁が裏返って内面が子宮口から外に出てくる子宮内反という重篤な状態になるので注意が必要といわれています。
胎児の通り道である産道は、子宮頸部(けいぶ)や膣などで構成されている軟産道と、骨盤など骨で構成されている骨産道により成り立ちます。異常分娩の原因となる産道の問題としては、軟産道が硬く、胎児がスムーズに通過できないほど抵抗力が強い場合や、骨盤が小さく胎児が骨盤内へと進んでいけない場合には、帝王切開が検討されることがあります。
このほか、産道が傷付く産道裂傷や、新生児の出生後に子宮筋が収縮しないことによる弛緩(しかん)出血が起こることもあります。双子、巨大児、羊水過多など子宮壁が引き延ばされすぎた時は、弛緩出血が起こりやすくなります。微弱陣痛や分娩が長引くなどで子宮筋が疲労して収縮不全となる場合にも起こりやすくなり、陣痛開始から2、3時間で産まれてしまう急産でも、弛緩出血が起こりやすいことが知られています。
出血量が増えると、輸血が必要となる場合が増えます。どうしても子宮からの出血が止まらない場合は、最終手段として開腹手術で子宮を摘出することで止血させることがあります。
異常分娩となる可能性があるかどうかを見極めるための産科、産婦人科の医師による検査には、妊婦に対する身体診察やX線(レントゲン)検査、超音波検査などがあります。
検査では、妊婦の体格や骨盤の大きさ、胎児の大きさと予想される体重、子宮内の胎位(胎児の向き)、双子や三つ子などの多胎分娩の可能性、羊水の量、胎児の健康状態と障害や合併症の有無、胎児心拍数陣痛図による胎児機能不全の有無、などの項目を確認します。
検査の結果、産科、産婦人科の医師が正常分娩は難しいとあらかじめ予測し、安全な出産に向けて準備を進められる異常分娩のケースも多くあります。例えば、胎児の体が大きく、母体の骨盤が小さい児頭骨盤不均衡と診断できる場合などが、予測可能な異常分娩に該当します。
また、妊娠中の検査では問題が認められない異常分娩も多くあります。このような場合は、母体や胎児の状態、分娩の進行状態に応じて、例えば緊急帝王切開など適切な治療と処置への移行を検討します。
妊娠中の検査で安全な分娩が難しいと判断できる場合、予定帝王切開となることがあります。また、経膣分娩がスムーズに進行せず、母体や胎児に影響がおよぶ可能性がある場合には、緊急帝王切開に移行することもあります。
帝王切開は、経膣分娩が不可能な時に、母体の腹部と子宮を切開して、胎児を取り出す手術です。手術の対象は多岐にわたりますが、主に胎児機能不全、児頭高位の分娩停止、骨盤位(逆子)、子宮内感染、帝王切開の既往歴がある場合などです。
帝王切開には、深部帝王切開と古典的帝王切開とがあります。現在、大半の症例に行われるのは深部帝王切開であり、子宮下部の下節部分に小切開を加えた後、その部位を拡大して胎児を取り出します。子宮下節は、妊娠していない時には子宮頸部の一部を形成し、子宮体部と違って筋線維が輪状に走っているため、ここを横に裂いても筋線維を傷付けないので出血は少なく、傷跡の回復も良好です。さらに、次回の妊娠時の分娩でも、子宮下節は収縮する部分ではないために力があまり加わらず、破裂が少ないという利点があります。
これに対して、古典的帝王切開は子宮体部を縦に切開する方法です。子宮体部は筋線維が網目状に走っているため、鋭く切開する必要があります。出血は多くなり、また子宮下節に比べて組織が厚いので、縫合にもより注意が必要です。さらに、筋線維を切断するため傷跡がうまく治らないこともあります。次回の妊娠時の分娩では、収縮する部分であることも加わって、破裂が起こりやすいという欠点があります。
古典的帝王切開は現在、胎児が横位であったり、子宮下節の前壁に大きな筋腫(きんしゅ)があったり、未熟児の帝王切開で子宮下節の形成が不十分であったりして、切開が不可能な場合などだけに行われます。
頭位の分娩で、子宮口が全開し破水もしていて、胎児の頭が子宮口付近へと降りてきているものの、微弱陣痛などによって分娩が滞っている場合や、胎児機能不全に陥り生命が危うい場合、陣痛が十分に強いのに分娩が止まってしまった場合、心臓病などの合併症のため母体が意識的に腹圧をかけることができない場合などに、頭部に吸引カップを装着して出産を手助けする吸引分娩、あるいは鉗子と呼ばれる大きなスプーンのような医療器具で両側頬部(きょうぶ)を把持し胎児を娩出させる鉗子分娩が選択されることがあります。
いずれも経験を積んだ医師が行わなければなりませんが、鉗子分娩は吸引分娩に比べ胎児に与える損傷は少なくなっています。ただし母体に対する損傷は鉗子分娩で多いことが、臨床試験で明らかになっています。
吸引分娩を行う時には、母体の子宮底部を圧迫する胎児圧出法を併せて行うこともあります。
分娩に時間がかかり、母体の疲労によって陣痛が弱くなっている場合などには、子宮収縮薬(陣痛促進剤)を点滴投与して、陣痛を強めることがあります。子宮収縮薬を使用する時には、子宮の収縮が強くなりすぎないよう少量の投与から始めます。また、点滴中は胎児が健康な状態を保っているかどうか、陣痛の間隔や強さは順調かどうか、常にモニタリングが行われます。
このほか、異常分娩に伴う激しい痛みや苦痛を軽減するため、脊髄(せきずい)を覆っている硬膜という膜の外側に硬膜外麻酔を注射針で注入したり、鎮痛薬を点滴投与することもあります。
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