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胃軸捻転症



胃が生理的な範囲を超えてねじれた状態

胃軸捻転(いじくねんてん)症とは、胃が異常な回転や捻転によって、生理的な範囲を超えて病的にねじれた状態。比較的まれな疾患で、新生児や乳児に多く発症します。

胃軸捻転症は、その特徴により分類されます。胃が回転や捻転する軸によって、長軸性胃軸捻転、短軸性胃軸捻転、混合型胃軸捻転に分類されます。長軸性胃軸捻転は、胃が食道につながる噴門と胃が十二指腸につながる幽門を結ぶ線を軸にして回転、捻転します。短軸性胃軸捻転は、胃の内側に小さく湾曲した部分である小湾と胃の大きく外側に膨らんで湾曲した部分である大湾を結ぶ線を軸にして回転、捻転します。混合型胃軸捻転は長軸性胃軸捻転と短軸性胃軸捻転が混じり合って回転、捻転します。

また、発生した要因によって、特発性胃軸捻転と続発性胃軸捻転に分類され、発症の経過によって、急性胃軸捻転、慢性胃軸捻転、間欠性(反復性)胃軸捻転に分類されます。

胃は靭帯(じんたい)、腸間膜(ちょうかんまく)、腹膜などによって固定されていますが、新生児や乳児ではこれらの組織による胃の固定が比較的弱いために容易に捻転を生じます。胃の位置が変わりやすい先天的な遊走脾(ひ)や横隔膜の疾患で胃軸捻転症になることもあります.

成人の場合、約3分の2の発症者が何らかの疾患に伴って起こる続発性胃軸捻転であるとされています。原因となる疾患としては、横隔膜の筋層が委縮したり薄くなったりして横隔膜の緊張が低下した状態になる横隔膜弛緩(しかん)症や、胃の一部が横隔膜より上の胸部に脱出している状態になる食道裂孔ヘルニアが多く認められます。

次いで、原因となる疾患がはっきりしない特発性胃軸捻転や、胃自体の疾患によるものが多いとされ、大腸のガスや胃下垂が影響したという報告もあります。その他、強い腹圧がかかった場合や、高齢者が過食した場合に発症したという報告があります。

症状は、急性あるいは慢性の経過をたどりますが、捻転の種類や閉塞(へいそく)の程度によって異なります。

急性の場合には、突然の嘔吐(おうと)、激しい腹痛、上腹部の膨満感を来します。特に、吐き物のない嘔吐、上腹部痛、鼻から胃に挿入して胃の内容物を吸引しようとする医療用の胃管挿入困難の3徴が、医師が診断をつける際に有用であるとされています。

急速に生じた捻転の程度が180度を超えた場合には、完全閉塞となって循環障害を起こし、血液が流れないために胃壁の壊死(えし)、穿孔(せんこう)を合併して、ショック状態となることがあります。そのため、急性胃軸捻転では慢性胃軸捻転に比べて死亡率が高くなります。

新生児や乳児では、急性胃軸捻転はまれで慢性胃軸捻転が多く、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹部の膨満などの症状がみられますが、無症状の場合もあります。また、食道裂孔ヘルニアに合併した場合には腹部の症状に乏しく、胸部痛、呼吸困難などの胸部の症状が主体になります。

新生児や乳児にみられる慢性胃軸捻転は、胃前庭部が発育し、立って歩くようになる1歳をすぎると自然によくなるのが一般的です。

痛みや嘔吐が激しい場合は、子供は小児科を、大人は内科もしくは外科をすぐに受診してください。

胃軸捻転症の検査と診断と治療

小児科、内科、外科の医師による診断では、問診、腹部単純X線(レントゲン)検査、腹部CT(コンピュータ断層撮影)検査、胃X線(レントゲン)造影検査などを行います。

問診では、痛みの状態や、嘔吐時の吐き物の量を確認します。腹部単純X線(レントゲン)検査では、捻転により空気の通過が障害されるため、著明に拡張した胃のガス像を認めます。

腹部CT(コンピュータ断層撮影)検査では、著明に拡張した胃のガス像を認めます。また、胃壁が壊死した場合には、門脈という血管の中にガス像が見られることがあります。

胃に造影剤(バリウムなど)を流すことで形などの評価ができる胃X線(レントゲン)造影検査では、捻転した胃の形をとらえられることがあります。また、捻転のために造影剤の通過障害を認めることもあります。

小児科、内科、外科の医師による治療では、急性の胃軸捻転症の場合は、手術治療が第一の選択肢となります。手術では胃の捻転を解除してから、胃を前方の腹壁に固定する治療方法などが行われます。近年では、腹腔(ふくくう)鏡による手術も行われるようになっています。この方法は、腹に数カ所の小さな穴を開け、そこから腹腔鏡というカメラや器具を挿入して行う手術です。より体への負担が少なく手術後の回復が早い方法であるとされています。

慢性の胃軸捻転症や、間欠的に捻転が起こる場合では、手術ではなく保存的治療をまず行って改善を図ります。具体的には、胃管を挿入してたまったガスを抜き減圧する、上部消化管内視鏡(胃カメラ)で捻転を元にに戻すなどを行います。

これら保存的治療で改善がみられない場合や、胃壁の壊死、穿孔が起きている場合などは、緊急手術を行うこととなります。胃壁が壊死している場合には、胃切除が必要な場合があります。高齢者の場合は、症状がはっきりしなかったり全身の状態が悪かったりするため、保存的治療が選択される場合もありますが、手術時期が遅れてしまうと致命的となる場合もあるため注意が必要です。

胃軸捻転症の死亡率は15~30%とされており、予後の悪い疾患の一つです。続発性の胃軸捻転症の場合には、原因となった病気の治療も併せて必要となります。

なお、新生児や乳児に起こる慢性の胃軸捻転症の場合であれば、一般的に1歳をすぎると自然に改善するとされており、幼児期になっても症状がよくならなかったり、捻転を繰り返したりする場合などは、手術が必要になることがあります。先天的な遊走脾や横隔膜の疾患に伴う胃軸捻転症では、それらに対する処置も必要になります。

慢性型の場合は、横隔膜や胃自体に異常がなければ、多くは体位の工夫、食事を少量ずつ回数を多く摂取する、浣腸(かんちょう)による排便・排ガスの促進などの保存療法によって軽快します。

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