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遺伝性出血性末梢血管拡張症



全身の各種臓器に生じた異常血管からの出血をみる遺伝性疾患疾患

遺伝性出血性末梢(まっしょう)血管拡張症とは、全身の各種臓器に異常血管が生じる結果、異常血管からの出血をみる疾患。遺伝性出血性毛細血管拡張症、オスラー病、ランデュ・オスラー・ウェバー病とも呼ばれ、難病指定を受けている遺伝性疾患です。

フランスの内科医H・ランデュ、アメリカの内科医W・オスラー、イギリスの内科医F・ウェバーの3人が 、1901年に初めて報告しました。

遺伝性出血性末梢血管拡張症で認める出血は鼻血程度のこともありますが、肺や脳、消化管、肝臓などの臓器に生じる重篤な出血であることもあります。遺伝性出血性末梢血管拡張症の症状は軽微なものから重篤なものまで幅広く、特に鼻血は一般の健康な人にもよく見られる症状であるため、遺伝性出血性末梢血管拡張症の頻度を正確に決定することは必ずしも容易ではありません。日本における発症頻度は5000人から1万人に1人と推定されており、国内に1万人から1万5000人ほどの発症者がいるのではないかと報告されています。

また、現状では、遺伝性出血性末梢血管拡張症の発症に男女差は認められておらず、発症者の男女比はだいたい半々くらいであるといわれています。

遺伝性出血性末梢血管拡張症には代表的な3つの遺伝子異常が関与していることが知られており、具体的にはACVRL1(ALK1)、ENG(Endoglin)、SMAD4と呼ばれる遺伝子です。遺伝性出血性末梢血管拡張症はいくつかのタイプに分類されますが、異常血管が生じやすい部位や発症様式はこれら遺伝子異常の出方の違いにより説明される部分もあります。

これらの遺伝子は、正常な血管を構築するのに重要な遺伝子であると考えられています。そのため、ACVRL1(ALK1)、ENG(Endoglin)、SMAD4といった遺伝子に異常が生じると、正常な血管の構築がなされなくなり、異常血管が各種臓器に生じることになります。なお、ここで挙げた3つの遺伝子異常以外の関与も疑われています。

正常な血管は、動脈、毛細血管、静脈の順につながっています。動脈には高い圧力がかかりますが、毛細血管を血液が流れる間に血圧は徐々に低下し、静脈の圧力は動脈に比べて非常に低くなります。しかし、遺伝性出血性末梢血管拡張症では毛細血管の構築が不十分なこともあり、動脈の高い圧力がダイレクトに静脈に伝わるようになります。その結果、皮膚の静脈が拡張したり、肺や脳、消化管、肝臓などに存在する静脈から出血を来したりするようになります。

遺伝性出血性末梢血管拡張症は、常染色体優性遺伝と呼ばれる遺伝形式を取ります。両親いずれかが疾患を発症していると、その子供が病気を発症する確率は理論上50%で、常染色体優性遺伝をする疾患では最も高頻度であるといわれています。

遺伝性出血性末梢血管拡張症で最も多い症状は鼻出血であり、80~90%の発症者で認めるといわれています。軽い外傷でも出血し、多くの遺伝性出血性末梢血管拡張症は思春期の鼻出血として始まります。遺伝性の疾患というと、生まれた時から発症していることをメージする人もいるかもしれませんが、乳幼児や小児の時期に遺伝性出血性末梢血管拡張症を発症する人は非常に少ないといわれています。

静脈に高い圧力がかかるとそのぶん血管が拡張するため、拡張した血管が顔面、耳たぶ、口唇、手指背などの皮膚や舌、口腔(こうくう)粘膜、鼻腔粘膜などに認めることもあります。肺や脳、脊髄(せきずい)、消化管、肝臓などにも、異常血管を認めることがあります。

異常血管は容易に出血を来すことがあり、各種臓器からの出血が生じます。出血量が多い場合には、鉄欠乏性貧血が進行します。肺の出血では喀血(かっけつ)や呼吸不全、脳の出血では頭痛やけいれん、まひなどの症状が出現します。

遺伝性出血性末梢血管拡張症では毛細血管がうまく構築されておらず、静脈と動脈が直接つながる動静脈瘻(ろう)と呼ばれる血管奇形を伴います。動静脈瘻が存在すると、心臓に対しての負担が大きくなり、心不全を生じることもあります。特に肝臓に大きな動静脈瘻がある場合は、心不全を生じるリスクが高まります。

また、肺に動静脈瘻があると、体内に入り込んだ細菌が肺でろ過されることなく全身の各種臓器に広がってしまうリスクが高まります。その結果、脳膿瘍(のうよう)といった重篤な感染症を引き起こすこともあります。 

遺伝性出血性末梢血管拡張症の検査と診断と治療

内科、耳鼻咽喉(いんこう)科、呼吸器内科、呼吸器外科、脳神経外科、脳血管内治療科などの医師による診断では、全身の各種臓器で形成されている異常血管を確認します。

肺や肝臓であれば、CT(コンピュータ断層撮影)検査や超音波(エコー)検査を行います。また、脳や脊髄に存在する異常血管を確認するためには、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行います。そのほか、消化管に形成された異常血管は、内視鏡を用いて確認することになります。

これら異常血管の確認に加えて、鼻血を繰り返す、皮膚や口腔内に拡張血管を見る、家族に同様の疾患を持つ人がいるなどの項目を基にしながら、最終的な診断を行います。

内科、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、呼吸器外科、脳神経外科、脳血管内治療科などの医師による治療では、各種臓器に生じている異常血管に対しての処置を行います。

鼻出血に対しては、出血が生じるたびに血管収縮薬、止血薬を含ませたガーゼによる圧迫止血や軟こう治療などを行うことがあります。これらで不十分な場合においては、凝固療法、レーザー治療、粘膜置換法、鼻腔閉鎖術などを行います。

各臓器における異常血管に対しては、肺の場合は大きさに応じて血管塞栓(そくせん)術が第一に選択されます。肺の動静脈瘻では、脳膿瘍などの感染症を合併するリスクが伴うため、歯科治療など細菌が体内に入り込みやすい穿刺(せんし)、切開を受ける際には、予防的な抗生物質の内服が推奨されます。

脳の異常血管については、外科的治療、血管内治療、放射線を組み合わせた治療方法が検討されます。脳の異常血管に伴いてんかんを発症することもあるため、抗てんかん剤が使用されることもあります。

消化管の異常血管に対しては、内視鏡的にレーザーなどを用いた治療を行います。異常血管からの出血が強く鉄欠乏性貧血を生じるような場合は、鉄剤の投与や輸血も検討されます。

血管塞栓術やレーザー治療などにより、遺伝性出血性末梢血管拡張症の多くの血管病変が治療可能になってきています。重症な血管破裂、脳膿瘍、敗血症などの合併症が併発しなければ、予後は比較的良好であり、普通の人と同じ生活が送ることができます。

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