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胃内異物



誤飲した異物が胃内に到達し停滞している病態

胃内異物とは、誤飲した異物が食道を通過して胃内に到達し、停滞している病態。もしくは、誤飲を誘因とせずに、胃石や食物塊などの異物が胃内に停留している病態を指します。

口から飲み込んだ食べ物は、食道を通って胃の中へ運ばれます。胃の中では消化酵素によって蛋白(たんぱく)質が消化され、細かくなった食べ物はさらに十二指腸へと運ばれていきます。

胃と十二指腸の間には幽門と呼ばれる狭い入り口がありますが、胃の中に流れた食べ物は、胃の蠕動 (ぜんどう)運動によって、胃の末端の幽門を通って十二指腸へ運ばれます。しかし、直径2センチを超える大きさのものは、幽門を通過することができません。

食べ物は口で細かく咀嚼(そしゃく)され、さらに胃の中で消化されるため、2センチを超える大きさで幽門を通過することはほぼありませんが、食べ物以外の異物を誤飲、すなわち誤って飲み込んでしまうと、幽門を通過できずに胃内に停滞することがあります。このようなものを胃内異物といい、さまざまな症状を引き起こします。

特に1歳前後の乳幼児が、大人が目を離したすきに手に届いた硬貨、おもちゃ、プラスチック製品、針、たばこなどを飲み込んでしまうことが多々あります。また、認知症を患った高齢者にも胃内異物は多く発生しています。具体的には、薬をシートごと飲み込んでしまうことが起こり、問題となっています。

多くの場合、異物によって幽門が完全に閉塞(へいそく)することはないため、症状がないこともあります。しかし、幽門が閉塞したり、大きい胃石、細くて長い箸(はし)、鉛筆などの大きな異物が入ってしまったりした場合には、胃部膨満感、吐き気、嘔吐(おうと)、上腹部痛、腹部違和感などが生じます。

薬のシートのような先端が鋭利なものを飲み込んだ場合には、胃粘膜が傷付けられ、空腹時痛やタール便などの胃潰瘍(かいよう)などに似た症状が現れます。

乳幼児で特に問題になるのが、ボタン型アルカリ電池の誤飲です。胃の中に入ると胃酸によって腐食し、アルカリ性物質を放出します。これによって胃粘膜に大きな潰瘍を形成することがあります。

また、非常に鋭利な異物が胃内に入ると、場合によっては胃壁を突き破ることがあります。この状態は消化管穿孔(せんこう)と同様であり、腹膜炎や敗血症を合併し、早期に治療を開始しなければ死に至ることもあります。

さらに、胃内異物が幽門を通過し、小腸や大腸の生理的狭窄(きょうさく)部に穴を開けて通り抜け、腹膜炎を来すことがあります。この際は、腹膜炎症状として、腹痛、腹部圧痛、吐き気、下痢、腹膜刺激症状などがみられます。

小さい子供の誤飲が疑われる場合、胃内にまで到達する前に喉(のど)元に当たる咽頭(いんとう)食道部に異物がある場合もあり、吐き出すように促してみます。異物が食べ物の通り道である食道や胃に入らず、呼吸の通り道である気管に入った場合は、呼吸を確保するために一刻を争いますが、食道や胃に入った場合には、さほどの緊急性はないので、まず呼吸を十分に行っているか速やかに確認し、内科、消化器科、小児科などを受診します。

胃内異物の検査と診断と治療

内科、消化器科、小児科などの医師による診断では、問診により、誤飲した物の種類、大きさ、誤飲した時間など詳細な状況を把握するようにします。乳幼児や高齢者では、異物を飲み込んだ自覚がないこともあり、無症状の場合には把握が難しいことがあります。

次に、誤飲した物の位置の確認のために、最も簡便に行えて金属などのX線透過性の低いものを描出することができる腹部単純X線検査を行います。

ほとんどの場合は腹部単純X線検査で異物の有無は確認できますが、レントゲンに映らない小さなプラスチック片などが疑われる場合には、腹部CT検査を行うことがあります。腹痛や腹膜刺激症状など腹部の強い炎症所見を認めて誤飲物による消化管穿孔が疑われる場合にも、腹部CT検査による炎症の波及などの評価が有用です。

胃内異物が強く疑われる場合には、即座に上部消化管内視鏡検査(胃カメラ) を行うこともあります。胃内を直接観察できる検査であり、胃内異物の確認だけでなく、胃粘膜への障害を確認することもできます。

 無症状や軽症の胃内異物に対して血液検査を行うことはほとんどありませんが、出血や穿孔が生じるような重症例では、炎症や貧血の程度を調べるために補助的に血液検査を行います。

内科、消化器科、小児科などの医師による治療では、胃内に停滞した異物を取り除く処置を行います。多くの場合は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を用いて異物を摘出します。異物の先端が鋭利なものは摘出時に食道を傷付けることがあるため、食道に保護用のチューブを通して摘出を行います。異物の形状が小さく、とがっていないなど安全な物であれば、経過観察を行い、糞便(ふんべん)とともに体外に排出されるのを待つこともあります。

上部消化管内視鏡で摘出困難な場合には、腹腔(ふくこう)鏡下手術または開腹手術によって摘出しますが、上部消化管内視鏡でも摘出できない大きさの物はそもそも飲み込むことが困難なため、非常に珍しいケースです。

また、ボタン型アルカリ電池は誤飲後速やかに摘出しないと胃粘膜に潰瘍が形成され、乳幼児の場合には穿孔を起こすことがあるため、緊急で処置を行います。消化管穿孔を起こした時には、緊急で異物の除去と穿孔部をふさぐ手術を行いますが、非常に重篤な状態であるため全身管理が必要です。

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