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有馬症候群
有馬症候群とは、乳児期早期より重度の発達の遅れ、脳の奇形などを示す遺伝性疾患。脳・眼・肝・腎(じん)症候群とも呼ばれます。
1971年に、国立精神・神経医療研究センターの有馬正高医師により世界で初めて報告されました。
重度の運動発達の遅れと知的発達の遅れ、脳の奇形としての小脳虫部欠損、下部脳幹形成異常のほか、網膜の部分欠損に伴う先天性視覚障害、上まぶたが下がる眼瞼(がんけん)下垂、呼吸異常、進行性の重度の腎障害を示し、腎不全のため腎透析ないし腎移植を必要とします。
有馬症候群はCEP290遺伝子と呼ばれる遺伝子異常を原因として発症し、常染色体劣性の遺伝形式をとります。日本においては難病指定を受けている疾患の一つであり、2014年の疫学調査で7人の患者がいることが報告されています。
1種類の遺伝子に注目してみた時、人の細胞には2つ遺伝子が存在していますが、それぞれ1つずつ両親から遺伝子を引き継ぎます。有馬症候群の原因遺伝子であるCEP290遺伝子も、1つの細胞の中に2つ存在することになります。1つのCEP290遺伝子に異常があるだけでは、疾患を発症することはありません。
しかし、両親がそれぞれ1つずつ異常なCEP290遺伝子を有する場合は、子供に異常なCEP290遺伝子が同時に伝播(でんぱ)する可能性があります。その結果、子供が2つのCEP290遺伝子異常を抱えることとなって、疾患を発症することになり、両親は疾患の保因者となります。常染色体劣性遺伝では、疾患が子供に伝わる可能性は、理論上25%であり、疾患の保因者となる可能性は50%です。
CEP290遺伝子は、中心体や絨毛(じゅうもう)として知られる器官に関連して、重要な働きをしています。
中心体は、細胞増殖の過程において1つの細胞が2つに分裂する際に、重要な役割を担っています。絨毛は、細胞の表面に出ている突起物のような構造をしており、細胞の動きや化学物質による情報伝達に関与する構造物です。特に情報伝達は多くの臓器に存在することが知られており、脳や指、腎臓などの形成に深く関与しています。
CEP290遺伝子に異常が生じると、中心体や絨毛の働きが障害を受けることになり、各種臓器の形成が阻害されることになります。その結果として、有馬症候群で認めるような各種症状を引き起こすことになります。
同じく絨毛に関与する遺伝子には、AHI1、NPHP1、NPHP6(CEP290)、MEM67などが知られており、これらの遺伝子に異常が生じると有馬症候群と類似した症状を引き起こします。全体を含めて、ジュベール症候群関連疾患という名前で知られています。2014年の疫学調査で、日本においては約100人のジュベール症候群関連疾患の患者がいることが報告されています。
腎臓内科、内科、形成外科、脳神経外科などの医師による診断は、基本的には臨床症状を基盤として行い、各種の臓器障害の状況を評価するための検査を補助的に行うことがあります。
頭部CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査では、小脳虫部が形成されていないことが確認されますし、生命活動において必須の部位である脳幹にも形成異常が生じることが観察されます。
また、腎機能障害を評価するために、血液検査、尿検査を行います。腎臓CT検査やMRI検査、超音波検査で、腎臓に嚢胞(のうほう)が形成されていることを確認することもあります。腎臓の組織の一部を採取して顕微鏡で調べる腎生検において、腎臓の嚢胞を病理学的に認めることもあります。
さらに、有馬症候群は網膜の異常を伴う疾患であることから、網膜電位検査を行うこともあります。
腎臓内科、内科、形成外科、脳神経外科などの医師による治療では、現在のところ根本的な治療法は存在せず、症状に応じた対症療法が中心となります。
腎障害が強く、幼少期に薄い尿が多量に出て、脱水、発熱という症状がみられる場合には、適切な水分補給、電解質の補正などが必要となります。腎不全が進んできたら、腹膜透析、人工透析、腎移植などを行うことが検討されます。未治療の場合には、小児期までに亡くなることがあります。
また、年齢を重ねるにつれて、運動や知的な発達の遅れが明らかになってくるため、早期の段階からのリハビリテーションや療育を行います。
目の異常では視覚認識ができませんので、危険を回避する環境を作ることが必要になることがあります。無呼吸、過呼吸といった呼吸異常をみることもあるため、人工呼吸管理が必要となることもあります。
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