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エボラ出血熱
エボラ出血熱とは、エボラウイルスにより引き起こされる感染症。エボラウイルスにより引き起こされる感染症患者が必ずしも出血症状を示すわけではないことから、国際的にエボラ出血熱に代わってエボラウイルス病とも呼ばれています。
ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱などとともに、ウイルス性出血熱の一疾患に分類されています。
エボラ出血熱は、マールブルグウイルスとともにフィロウイルス科に分類されるエボラウイルスに感染することで、発症します。そのエボラウイルスは、コウモリなどの動物に生息しています。コウモリ、チンパンジー、ゴリラなどの感染した動物に接触することで、エボラウイルスは人間へとうつり、エボラ出血熱を発症すると考えられています。
人から人への接触感染が起こることもあります。接触感染は、患者の血液や体液に、傷のある皮膚や体の粘膜が触れることで、感染が成立します。エボラウイルスに感染した患者の血液や、尿・唾液(だえき)・糞便(ふんべん)・吐物・精液などの体液には、ウイルスが排出されることが知られています。また、エボラウイルスが医療器具などに付着した場合、数時間から数日間は感染性を持ち続けることがわかっており、医療器具を介した感染も成立します。
なお、エボラウイルスが空気感染することはありません。また、エボラ出血熱は、せきやくしゃみを介して人から人に飛沫(ひまつ)感染するインフルエンザなどの疾患とは異なり、簡単に人から伝播(でんぱ)する疾患ではありません。
エボラウイルスに感染してから、ウイルスが体内で増殖して症状が出てくるまでには、2~21日程度、通常は7日程度の潜伏期間があります。この潜伏期間の後に突然の発熱を来すほか、悪寒(おかん)、頭痛、倦怠(けんたい)感、筋肉痛、嘔吐(おうと)、下痢などの症状も併発します。
さらに症状が進行すると、肝臓や腎臓(じんぞう)、血液の凝固機能にも影響が及ぶようになり、皮膚、口の中、目、消化管などから出血を起こすようになります。ただし、すべてのエボラウイルス感染例で出血がみられるわけではありません。
1976年6月末、アフリカ北東部に位置する南スーダン(旧スーダン)のヌザラという町の綿工場に勤める倉庫番の男性が出血熱様症状を示し、次いでほかの部署の男性2人も同様の症状で倒れました。これが初めてエボラ出血熱と認識された流行の幕開けでした。この3人の患者を源として家族内、病院内感染を通してエボラ出血熱の流行が拡大し、計284人がエボラ出血熱を発症して151人が死亡しました。
その流行とは別に、1976年8月末にアフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国(旧ザイール)北部のヤンブクで、教会学校に勤める助手の男性が出血熱の症状を示しました。その患者が収容されたヤンブク教会病院での治療・看護を通じて、大規模な流行が発生。計318人の同様の患者が発生し、280人が死亡しましたが、これもエボラウイルスによる出血熱であることが確認されました。これらが、初めて確認されたエボラ出血熱の流行です。
ちなみにエボラの名は、ヤンブクの最初の男性患者の出身村を流れるザイール川支流のエボラ川に由来しています。
その後、南スーダン、コンゴ民主共和国、象牙海岸で散発的なエボラ出血熱の流行が確認されていましたが、1995年にコンゴ民主共和国中央部のバンドゥンドゥン州キクウィトの総合病院を中心として、エボラ出血熱の大規模な流行が発生しました。その流行では、計315人が発症して244人が死亡しました。
さらに、2014年3月には、アフリカ西部に位置するギニアでエボラ出血熱の流行が確認され、患者・感染者が国境を越えて移動することにより、隣国のリベリア、シエラレオネの3カ国を中心に過去最悪の規模で流行し、2016年1月にリベリアで終息するまでに2万8000人以上が発症し、世界全体で1万1300人以上が死亡しました。
2018年8月には、コンゴ民主共和国北東部の北キブ州において、同国10回目の新たなエボラ出血熱の流行が発生し、2019年6月現在、感染者が疑い例を含めると2000人を超え、死者が1400人を超えています。また、隣国のウガンダでも、コンゴ民主共和国から飛び火したエボラ出血熱により2人の死者が出たことが確認されました。
内科、感染症科、感染症内科の医師による診断では、エボラ出血熱が疑われる患者の血液を採取して、エボラウイルスの抗原や、エボラウイルスに対して特異的な抗体が存在するかどうかなどを調べます。血液だけではなく、のどから採取する咽頭(いんとう)ぬぐい液や尿も検体として用います。血液、体液などからウイルスを分離する検査法も重要な検査法ですが、通常1週間以上を要します。
鑑別すべき疾患には、マラリア、デング熱、腸チフスなどがあります。エボラ出血熱の感染が発生している地域は、マラリア、デング熱などの流行地域でもあり、発熱、頭痛、筋肉痛などといったエボラ出血熱の初期症状がマラリア、腸チフスなどと似ていることから、鑑別が必要になります。
内科、感染症科、感染症内科の医師による治療では、エボラウイルスそのものに対して科学的に治療効果が証明されている薬剤はないため、研究段階にあるいくつかの薬剤を投与しつつ、表面的な症状をやわらげる対症療法を行います。
嘔吐、下痢などによって脱水や血圧の低下が起こった場合は、輸液を行います。電解質のバランスが狂った場合も、それぞれの成分を補正します。呼吸状態が悪くなった場合は呼吸管理、血圧が下がった場合は循環管理と、それぞれの症状をコントロールするための治療を行います。
日本では、エボラ出血熱は感染症法において1類感染症に分類され、これらの患者の治療専用に設計されている病室に隔離して、治療を行います。
また、診断した医師は、無症状病原体保有者、疑似症患者例も含めてエボラ出血熱の患者および感染症死亡者の死体を認めた際には、直ちに都道府県知事(実際的には保健所)に届け出ることが義務付けられています。
エボラウイルスに感染しないための予防策を講じることも、重要になります。流行地域に赴く際には、コウモリやチンパンジーなどの野生動物に接触しないのはもちろん、調理状況のわからない肉類の摂取も避ける必要があります。また、葬儀で死者に対して接触する風習を持つ地域もありますが、こうした行為を避けることも大切です。
感染拡大を予防するためにも、渡航歴や症状からエボラ出血熱が疑われる場合には、検疫所で申告したり地域の保健所に連絡することも大切です。
ワクチンについては治療薬と同様で、一定の効果が期待できるものも開発されていますが、確実性のあるワクチンとして利用可能なものはありません。
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