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圧迫骨折
圧迫骨折とは、直接または間接的に加わる外力によって、骨が骨折を起こして壊れ、押しつぶされるように変形する疾患。
圧迫骨折の頻度は、背骨、すなわち脊椎(せきつい)で起こる頻度が高く、代表的なものは脊椎圧迫骨折です。
脊椎圧迫骨折は、脊椎を構成する椎体と呼ばれる四角い骨が外力に耐えかねて骨折を起こして壊れ、つぶれる疾患で、骨粗鬆(こつそしょう)症で骨のカルシウム分が少なくなり骨が弱くもろくなる高齢者によくみられます。
多くは胸椎の椎体から、第11胸椎、第12胸椎、第1腰椎、第2腰椎などの胸椎と腰椎の移行部にかけての椎体に起こります。ちなみに、人間の脊椎は、7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。
骨が正常である成人に脊椎圧迫骨折が起こることはまれで、高い所から転落したなどで、大きな外力が脊椎の軸方向に加わった場合にしか起こりません。こうした場合、脊椎の圧迫骨折だけでなく、骨盤骨折や下肢骨骨折などほかの部位の骨折や、臓器の損傷を伴うこともまれではありません。
骨粗鬆症がある高齢者では、比較的軽い外力が加わっただけで、あるいは、ほとんど外力が加わらなくても、自然に椎体の圧迫骨折が起こることがあります。
転倒する、しりもちをつく、腰をひねる、重い物を持つ、立ち上がるといった切っ掛けで圧迫骨折を起こしたケースでは、本人も気付くことが多く、痛みやしびれを感じたりします。著しい骨粗鬆症がある高齢者では、くしゃみや、せきをした程度でも圧迫骨折を起こすケースや、外力が加わらなくてもいつの間にか圧迫骨折を起こすケースもあり、痛みやしびれもあまり感じません。
高齢の女性の背中が丸くなる老人性円背(えんぱい)も、胸椎に自然に起こる多発性圧迫骨折が原因で起こります。1回の圧迫骨折などで背中が丸く曲がるのではなく、数回の圧迫骨折を繰り返し、背中の筋肉の衰えも加わって、次第に丸く曲がるケースがほとんどです。
そのほか、くる病や骨軟化症、腎性骨異栄養(じんせいこついえいよう)症などのような代謝性の骨の疾患によって、骨の強度が低下している場合にも、圧迫骨折が起こることがあります。通常、圧迫骨折が起こった部分の背中や腰に、痛みを覚えます。急性期には、寝返りや前かがみさえもできないほどの強い痛みを覚えます。これらの痛みは、体を動かした際、骨折部分に負担が掛かるために生じるものです。圧迫骨折を起こした脊椎のある部位の背中が、棘(きょく)突起が飛び出したようになり、そこを軽くたたくと痛みが増強することもあります。
そのほかにも、押しつぶされた椎体の影響で後方にある脊髄神経が圧迫されると、下肢の痛みやしびれを伴うことがあります。
本来、折れた骨はくっついて固まるので痛くなくなりますが、骨粗鬆症が進んでいると、折れた部分が固まらない場合があります。この場合は痛みが残ったりして、安静にしている時には痛みは和らいでも、動こうとすると強く痛み、特に起床時などには痛みが激しく歩行が困難になり、次第に起き上がることすらも難しくなります。
また、症状が一度消失しても、骨折後数カ月が経過してから、背中や腰の痛み、下肢のしびれ、動きにくさなどの症状が出てくることがあります。
老人性円背の場合は、自然に起こってくるものなので、ひどい痛みは伴いません。しかし、重度になると、腰が慢性的に強く傷んだり、神経の障害を生じて手足のしびれ、震えに悩まされることもあります。
整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、脊椎の椎体前方がつぶれて、くさび型になっているのを確認します。ただし、がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)が転移したために起こる圧迫骨折もありますので、正確な診断が必要です。
診断を確定するために、必要に応じて血液検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行います。
MRI検査による画像では、圧迫骨折した胸椎と腰椎の移行部などの椎体は出血により、ほかの椎体と違う濃度で描出されるため判別が可能となり、圧迫骨折の程度もわかります。また、脊髄神経に接している椎体後壁の骨折の有無で、脊髄神経への圧迫の有無がわかります。
また、加齢が原因で骨粗鬆症が疑われる際は、踵(かかと)の骨に超音波を当てて骨量を測定する超音波法、X線(レントゲン)検査、血液検査、尿検査などを合わせて、総合的に検査します。
整形外科の医師による治療では、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折で下肢の痛みやしびれなどの神経症状を伴わない場合、消炎鎮痛薬を投与した上で、軟性コルセット、硬性コルセットなどで固定して脊椎の安定性を確保し、痛みが軽くなるまでべッド上で安静にします。1~2週間、安静にしているだけで、痛みは次第に軽くなっていきます。
高齢者の場合、長期間べッドで安静にしていると、呼吸器や尿路系の感染を起こしたり、認知症が発生することがあります。そのほか、急速に下肢の筋力が低下し、起立したり歩行できるようになるまで、さらに長期間を要するようになることもあります。
問題の解決方法として、痛みが軽くなったら、軟性コルセット、硬性コルセットなどで固定したまま、一日も早く起きて、歩く練習を始め、運動療法、リハビリテーションによる保存療法を行います。
脊椎圧迫骨折が重症で、脊髄神経に接している椎体後壁が折れ、陥没した骨片が脊髄神経に刺さったり、圧迫したりして、下肢の痛みやしびれなどの神経症状を伴う場合には、手術を行うこともあります。
近年では、脊椎圧迫骨折の急性期や、時間が経っても骨折部分が十分に治らず強い痛みが続く場合などに、骨セメントを椎体内に注入することにより骨折部を安定させて、手早く痛みを取る経皮的椎体形成術(経皮的バルーン椎体形成術、バルーン・カイフォプラスティー)が行われるようになっています。
X線(レントゲン)で確認しながら、脊椎の骨折部で風船(バルーン)を膨らませ、つぶれた骨をできる限り復元した後、風船によって作られた空洞に、主にアクリル樹脂を用いた骨セメントを詰めます。
手術時間は比較的短く、痛みを緩和し脊椎を安定させて動けるようになるという長所があるため、1990年代にアメリカで開発されて以来、欧米では広く行われてきた手術方法で、日本でも2011年1月から保険診療として特定の施設で行うことが認められました。治療後の長期安静は不要ですが、周辺の骨や支持組織が弱いために強固な安定を得るのが難しい場合もあります。
脊椎圧迫骨折を防ぐために最も大切なことは、転倒したりしないことです。そのためには、日ごろからできるだけ散歩などの運動をすること、外に出てさまざまな刺激を受け、はつらつとした気分を保つことです。室内に閉じこもってばかりいると、年を取るにつれて、運動能力や反射神経が減退するばかりでなく、骨粗鬆症も進行します。
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