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胃酸欠如症
胃酸欠如症とは、食べ物を消化するために胃で分泌される胃液の中に、胃酸とも呼ばれる塩酸がほとんどないか、全くない状態。無酸症とも呼ばれます。
胃液は、強酸性で、pHは通常1〜1・5程度。胃酸とも呼ばれる塩酸、および酸性条件下で活性化する蛋白(たんぱく)分解酵素のペプシンが含まれており、これによって蛋白質を分解して、小腸での吸収を助けています。同じく酵素のリパーゼは、主に脂肪を分解しています。
胃液はまた、感染症の原因になる細菌やウイルスを殺菌したり、一部の有害物質を分解したりすることで、生体防御システムとしての役割も担っています。例えば、コレラ菌は胃酸によってほとんどが死滅してしまうため、大量の菌を摂取しない限り感染は起こりませんが、胃酸の分泌がほとんどない胃酸欠如症の人、あるいは胃酸の分泌量が少ない胃酸減少症(低酸症、減酸症)の人などでは少量のコレラ菌でも発症します。
胃液中に本来含まれるはずの胃酸がほとんど含まれない無酸であっても、何も症状がない時には疾患というわけではなく、何らかの症状が無酸のために現れる場合に初めて胃酸欠如症とされます。
厳密な意味での胃酸欠如症は、詳細な胃液検査をしても胃酸とも呼ばれる塩酸が認められない状態をいいます。ガストリン、またはヒスタミンを注射して、チューブから胃液を採取する胃液検査で塩酸の分泌状態を見る方法が行われていますが、これによると完全な無酸は少ないことがわかりました。
それゆえ、胃液の塩酸濃度の低い胃酸減少症と胃酸欠如症を一括して、低無酸症と呼ぶこともあります。これは、低酸の程度の強いものは無酸とほとんど同じような症状を示すからです。胃酸欠如症を示す疾患の代表的なものは、慢性胃炎の中の委縮性胃炎。これは多くの日本人にみられますが、高齢になるに従い胃粘膜に委縮性変化が生じ、胃酸を分泌する壁細胞という細胞の数が減ってくるために、まず胃酸減少症の状態となり、これが高度になると胃酸欠如症になると考えられています。
そのほかに、ビタミンB12の欠乏によって生じる悪性貧血や、進行した胃がんなどで、胃粘膜に委縮性変化が生じた場合に、胃酸欠如症がみられます。手術によって胃を切除した時にも、胃酸欠如症が当然起こります。
また、膵臓(すいぞう)に腫瘍(しゅよう)があって水様性下痢、低カリウム血症、胃酸分泌障害を示すWDHA症候群などでは、胃粘膜には特に形態学的な変化が生じないにもかかわらず、機能障害のため胃酸欠如症をみることがあります。この場合は機能障害の原因を除去すれば、胃酸欠如症は一過性に終わります。
胃酸欠如症の症状としてjは、胃液に塩酸がほとんどないか、全くないために胃における消化不良が起こり、食欲の低下、食後の胃もたれや膨満感、下痢などがみられます。しかし、それらの症状がみられることは案外少なく、膵液がよく分泌されていれば、たとえ胃において消化がよく行われなくても、腸で十分消化が行われるからです。
胃酸欠如症の症状は、常に一定しているものではなく、起きたり起きなかったりして、変化するのが一般的です。特に暴飲暴食などによって悪化し、過労や気候の変化も影響します。
胃酸欠如症を放置しておいても、特に重大な合併症は起こりません。しかし、食欲がなくて、栄養の低下が起こった時には注意が必要です。悪性貧血に合併した胃酸欠如症は、直ちに治療を受けることが大切です。
内科、胃腸科、消化器科の医師による診断では、ガストリン、またはヒスタミンを注射し、チューブから胃液を採取する胃液検査で、胃酸分泌能を測ります。また、血中ペプシノーゲン値、特にペプシノーゲンのⅠ/Ⅱ比は、胃粘膜の委縮度と相関しているので、これを測ることによって胃酸分泌能を推測できます。
慢性胃炎や胃がんの診断には、X線検査や内視鏡が必要となります。WDHA症候群の診断には、VIP(血管作用性腸ペプチド)を始めとする血中ホルモンの測定やホルモン産生腫瘍の検索が必要です。
内科、胃腸科、消化器科の医師による治療では、検査によって他の疾患が除外され、単に胃酸欠如症で胃酸とも呼ばれる塩酸がほとんどないか、全くないために、食べ物の消化作用に支障が起きている場合は、塩酸リモナーデなどの消化剤を服用します。
慢性胃炎による胃の粘膜の委縮も、胃腺(いせん)の委縮も、元に戻すことはできません。安静を心掛ける、ストレスを避ける、消化のよい食事を取る、コーヒーや香辛料などの刺激物の摂取を避けるなど、日常生活の中で注意をしていきます。
悪性貧血の治療は、基本的に鉄欠乏性貧血と同じで、不足しているビタミンB12か葉酸を補給すれば治ります。
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