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一過性黒内障
一過性黒内障とは、片目の視力障害が急速に起こって、数分から数十分で回復するもの。眼虚血症候群の一種に数えられます。
突然、片側の目の上半分や下半分が暗くなる、幕が上がるまたは下がるように視野が暗くなる、視力が急に低下し、物が見えなくなる、時に目の奥の痛みを覚えるというような症状が出現して、2~3分の間続き、普通、数分以内、長くても20分ほどで元の見え方に戻ります。一時的な症状で回復することがほとんどなので、一過性黒内障と呼ばれています。
この一過性黒内障の多くは、頸動脈狭窄(きょうさく)による一過性脳虚血発作の一つの症状であり、脳梗塞(こうそく)の発作を起こす以前の前触れ症状、警告症状と考えられています。
頸動脈は頸部頸動脈と頭蓋(ずがい)内頸動脈に分かれますが、心臓から脳へと向かう血液の流れ道である頸部頸動脈が動脈硬化を起こし、血液が流れる道が狭まる頸動脈狭窄になると、狭い個所で流れの悪くなった血液が小さな血の塊である血栓を作り、この一部がはがれて、頭蓋内頸動脈が最初に枝分かれする目の網膜へと向かう眼動脈のほうに流れて血管を詰まらせる結果、血液の流れが一時的に途絶えて、視力障害が急速に起こると考えられています。
一方、はがれた血栓が頭蓋内頸動脈のほうへ流れて、脳の血管の一部を詰まらせた場合には、突然、言葉が出にくい、手足のしびれやまひ、手足が動きにくいなどの一過性脳虚血発作の症状が出ます。短時間のうちに、血栓が溶けるか、副血行路が形成されるために、発作は一過性ですみます。しかし、血栓が完全に脳の血管を詰まらせた場合は脳梗塞になります。
食生活の欧米化による糖尿病、高脂血症といった生活習慣病や、動脈硬化による頸動脈疾患の増加によって、一過性黒内障も増加しています。
一時的な症状で回復するからといって安心していないで、すぐに神経内科、ないし脳神経外科で精密検査を受けておいたほうがよいでしょう。片目の視力障害が起こるという症状のため、最初に眼科を受診する発症者が多いとされていますが、近年は眼科の医師も一過性黒内障に対する認識が深まり、原因となっている頸動脈狭窄などの治療を専門とする神経内科、脳神経外科に紹介することが多くなっています。
神経内科、ないし脳神経外科の医師による診断では、首に超音波を当てて診断する頸部血管ドップラー検査、CTやMRIによる血管の検査で、容易に頸動脈狭窄と確定されます。近年では、狭くなった個所の診断やその程度のほか、動脈硬化の性質、血流の早さなどの質的診断も行え、よい治療方法が選択できるようになりました。
治療上必要な場合は、頸動脈を直接レントゲンで撮影する血管撮影が行われます。また、血液が到達する脳の状態を調べるため、脳のMRIや核医学による脳血流検査なども行われます。さらに、心臓などほかの血管に、同じような疾患がないか調べることも重要です。
神経内科、ないし脳神経外科の医師による一過性黒内症の治療は、原因となっている頸動脈狭窄などの疾患の治療が中心になります。禁煙、運動療法、食事療法などに加え、高脂血症、糖尿病、高血圧に対する薬による内科的治療が基本となります。これに加えて、脳梗塞など脳卒中を予防するために血液の流れをよくする抗血小板療法の薬が追加されます。
頸動脈の狭さが強くなった場合には、その程度により手術か血管内治療が追加されます。頸動脈狭窄のみが発見されて、脳の症状がなく頸動脈の狭さが60パーセント以上の場合は、脳神経外科医により手術で頸動脈の病変を摘出することが脳卒中を予防するためによいとされています。一方、脳の症状がある場合の手術の基準は70パーセントの狭さに上昇し、手術により脳卒中が拡大することを防止します。この脳神経外科医による手術法は、長年に渡って世界中で行われ、多くの結果が蓄積された結果、現在の基準が確立されました。
血管内治療は新しい治療法で、太ももの付け根から血管の中にカテーテルと呼ばれる管を入れ、これを頸動脈の狭窄した場所に誘導します。ここでバルーンと呼ばれる風船を膨らましたり、網目状に血管の中で拡張し頸動脈の内側を適切な太さに保つステントと呼ばれる機器を挿入します。この治療法は歴史が浅いため、病変を直接取り除く手術のリスクが高いと思われる場合や高齢者の場合などに行われています。
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