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一過性全健忘症
一過性全健忘症とは、一時的に記憶のみが障害される疾患。通常、24時間以内に正常に戻るために、一過性と呼ばれます。
記憶に障害が起こる発作が、ある日突然生じます。発作中は、新たな記憶の形成ができません。これを前向(ぜんこう)健忘と呼びます。また、発作前の数時間の記憶が消失します。これを逆向(ぎゃっこう)健忘と呼びます。 通常、数カ月から数年以上前の長期記憶には障害は起こりません。
発作中の記憶の形成障害と逆向健忘によって、自分がどこにいるのか、また何をしているのかがわからず、「私はどこにいるのですか」などの質問を繰り返します。状況を教えられても、その記憶を保持できないために、再び同じ質問を繰り返すという特徴があります。
ろれつが回らなくなったり、失語症がみられることはありませんし、手足にまひが起きたりすることもありません。発作中は記憶の障害以外の症状が生じないので、かなり複雑な行為も可能で、車の運転をしたり、物を作ったりといつもと変わりのない行動が観察されます。発作後、逆向健忘はかなり回復しますが、発作直前の数時間以内の記憶は永久に失われます。発作中の記憶もほぼ全部が欠落したままとなり、回復しません。
この一過性全健忘症は、動脈硬化の発症者で脳の側頭葉に血液を送る動脈が一時的に遮断されると起こり、特に高齢者で起こりやすくなります。また、側頭葉のてんかん発作によって起こることもあり、しばしば原因は不明です。若い成人では、片頭痛で脳への血流が一時的に減少して起こることがあります。
また、激しい運動中の脳しんとう、頭部外傷、脳腫瘍(しゅよう)、初期のアルツハイマー病、精神的なショック、感情の大きな動きなど、いろいろな原因でも起こります。医療機関での病気の検査中、冷たいシャワーを浴びた時、セックスの最中に起きたというケースもあります。
記憶の中枢は、脳の側頭葉内側部の海馬(かいば)と呼ばれている部位に存在することが知られています。発作中に脳血流を調べた結果、両側の側頭葉内側部で血流が低下しているとの報告があります。一過性全健忘症は脳血管障害の危険因子ではないことが判明しており、この血流の低下は脳機能障害の後に生じる二次的な現象であろうと推測されています。
原因はまだ詳しくはわかっていませんが、経過は良好です。早い人で数分、多くの場合は一晩眠れば、記憶は自然と回復します。
しかし、発作が治まった後でも、原因をはっきりさせるために、神経内科あるいは精神科の医師に相談することが勧められます。医師による診断は臨床症状から容易ですが、てんかん発作や頭蓋(ずがい)内の器質的な疾患を除外するために、脳波検査や頭部MRI検査が行われます。医師の診断で原因が判明したら、それに即した治療が行われるものの、一般的には特別な治療は行われません。
すぐによくなって後遺症も残らないし、再発する可能性も極めて低く、一生に一度しか起こらないといわれているからです。中高年に多く発症するものの、繰り返し再発する人は5、6パーセント以下と少なく、記憶障害がずっと続く人はほとんどいません。
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