はじめに

 

 私は、五十歳にして志を立て、わずか二十年にして、人間の真理、その真実性を、宇宙から学び取ることに成功した。そして、九十三歳を迎えた今も、八時間の熟睡をとった後、毎朝四時には目を覚まし、宇宙に向かって叫び、誓い、断固として自己の生命を進めている。自ら考案、開発した「寝禅」も、目覚めの際に欠かさず行っている。

 このようにすれば、まず健康な体ができてくる。その結果、健全なる精神、宇宙精神と同じ真の人間精神の存在を発見する。

 健全な体は快適である。健全な体と精神のこの味を人に伝えたいというのが、私の毎朝の祈りである。

 昔は、坊さんが坐禅をしてこういう境地を得た。また、武道の達人とか、優れた芸術家が、修行の間にこの宇宙の真理に触れ、宇宙精神と人間精神とが一つのものであるということを体験して、力強い生き方を自然に会得したものである。けれども、そういう生き方は時間がかかる。また、努力、精進、心掛けと実践、実行は、ずいぶん骨が折れる。

 しかし、私の発見した、寝ている間に息や呼吸を整えて、宇宙と我とが一体になるような素晴らしい正眠、真呼吸、自然運動からなる寝禅をもってすれば、社会から作られ、普段、自分というものを占領して、つまらなく右往左往させている人間心というものが、なくなってしまう。その時、「ああ、心と精神とは違うものだなあ」、という事実が体覚されてくるだろう。

 つまり、寝禅を毎朝三、四十分から一時間くらい続けてやっているうちに、精神統一、実は肉体統一ができる。人間が確かになって、妄想がなくなるのである。

 この行法は、坐禅二十年の効を短縮し、肉体いっぱいに宇宙の「気」を充実させ、あるいは肉体から「気」を煥発(かんぱつ)、発揚する実効を上げようとしたものでもある。

 坐禅に代わる真理の行法の一番のポイントは、何も難しいことではない。夜の睡眠である。これは、昼間怠けていては決してうまくいくものではない。昼間は肉体生命をめいっぱいに働かせて、寝床に入ったら直ちに熟睡のできる習慣を持つこと。そして、夜はなるべく早く寝て、朝はなるべく早く起きること。これが基本である。

 次に、朝、目が覚めたなら、寝床の中で真呼吸と称する全身呼吸、自然呼吸を行う。続けて、意識を使わずに手足のおもむくままに自然運動を生じさせればよい。寝禅は、呼吸作用と自然運動という体全体の禅的訓練によって、肉体に躾けることで完結する。

 その際、自然運動を「行う」のではなく、肉体から自然に「生じさせる」ところが眼目であって、こうすれば体内にたまった疲労素のガスがエネルギーに転換され、新しい活力となってよみがえるものである。

 また、寝禅は体の自己診断でもあり、自己治療でもある。どこかに不調があればたちどころに発見でき、自然運動を工夫することで即座に治療してしまう。

 これは、理屈よりも実行してみれば、納得のいくことである。百聞は一見にしかず、実行によってのみ得られる利益である。

 平成二年 十月十日 河野十全

 

 

目次

 

はじめに

第一部 理論編

(一)禅とは何か

●禅の目的は人間完成にある

●六年間の難行の果てに

●禅行の発見による悟りへの到達

●宇宙と一如一体に還る禅

●臨済禅と曹洞禅の違い

●道元禅師の面目

●ひたすら肉体で行ずる只管打坐

●現代禅は白隠に始まる

●坐禅の要諦と功罪

(二)寝禅の考案

●禅の原理を教わる

●身近な現代禅の追究

●真理体得への道

●坐禅から寝禅へ

●自然の〃然〃による悟り

●現代禅での真理体得

(三)坐禅と寝禅の比較

●難解な行法と平易な方法

●坐禅は自力門、寝禅は他力門

●自力でするか、他力を第一とするか

●心禅に対する身禅

●スポーツとしての禅

 

第二部 実践編

(一)睡眠法

●寝禅の前提となる睡眠

●疲労を活力に換える秘密

●宇宙の生命力を吸収する時

●効果的な睡眠法

●昼の「気」と夜の「気」

●睡眠なくして人生なし

●就寝中に発動する空感覚

(二)真呼吸法

●朝の目覚めの呼吸禅の意義

●呼吸作用で健康をはかる

●呼吸の仕方で人生も変わる

●空気中にある宇宙の知恵と働き

●真呼吸は他力を受ける土台

●生かされているということ

●真呼吸で人間味を知る

(三)自然運動法

●五体を投げ出す絶対的健康法

●寝床の中で行う自然運動

●積極性自然運動の妙所

●禅の道は肉体の道

●日に何回もゼロになれ

●いつでもできる長寿体操

●らせん運動は無限の象徴

(四)寝禅の仕方

●生かされの姿勢

●無意識の真呼吸

●「気」のみなぎり

●自由自在のらせん運動

●あくびと放屁

●新しいエネルギーの蓄積

●悟りの味の体得

 

 

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