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‖前向き思考の勧め‖

 

●頭脳を明晰に保つためには、常に感動する若々しい気持ちや、他人を理解しようという素直な態度を、持ち続けていかなければならない。

 とりわけ高齢者にとっては、読書のほかにも、ボケないために、文章を書いたり、興味が引かれることの勉強をすることが必要である。いろいろな趣味を持ってそれを楽しみ、絶えず頭を働かすということも大切である。

 この点で、短歌や俳句などは、頭を刺激し、安らぎも得られ、エンジョイできるということで、老後の趣味としてはいいだろう。

 最近では、音楽を聞くのもよいといわれ始めている。五官を通じて大脳に刺激を与え、活性化を促す音楽健康法が近年広まっており、クラシック音楽が老人の神経の安定に役立つという音楽療法の臨床実験が注目を集めている。脳機能を活性化させて、ボケを防ぐ効果もあるそうだ。

 しかしながら、感情が鈍くなっていては、いい音楽を聞いても、美しい絵を見ても、名作を読んでも、感動が湧くはずもない。こういう人は腹の立つこともない代わりに、頭を鍛えることもないから、ボケるのを待つのみだ。

 頭脳を明晰に保つためには、常に感動する若々しい気持ちや、他人を理解しようという素直な態度を、持ち続けていかなければならない。そのためには、テレビや報道写真をよく見ることも効果的だろう。

●老後でも生涯現役人として、打ち込める仕事を持つことである。健康で、元気な限りは、何かできるはずだ。

 最もよいのは、若い頃だけでなく、老後でも生涯現役人として、打ち込める仕事を持つことである。健康で、元気な限りは、何かできるはずだ。

 老人になっても、楽しみながら毎日の仕事をしていると、人間性も向上するし、自分の生命そのものにも張りが出て、常に若々しく新しい道を求めてゆくことができる。若者のように、新しい芽を吹かせることもできるのである。

 現役で会社を経営したり、勤めている人は、バリバリやればいい。新しく商売を始めるシルバー企業家を目指すのもいい。かつての豊かな経験や一芸を生かせる人は、技術コンサルタント、経営コンサルタント、趣味教室の講師、古都や名所の観光ガイドなどを務めてはどうだろうか。

●生涯現役の仕事はもちろん、趣味や健康増進に関しても、常に新しいことに挑戦する気概を持ちたいものだ。

 「年を取って、もう力も出ない、何に対しても興味が湧かない」という人は、とにかく何か変わったことをやってみることだ。

 子供たちというものは、新しい字を覚えたり、新しい遊びを考え出したり、日々新鮮な学習意欲に満ちているものである。人間は義務感のみを感じて何かをやるような場合には、それを楽しむことができない。しかし、積極的に熱意を持ってやった場合は、その疲労感は普通の場合の五分の一、十分の一にもなる。

 年を取るごとに、この熱意が減退してゆくとしたら寂しいことである。老人になっても、子供の頃の気持ちを忘れてはいけない。生涯現役の仕事はもちろん、趣味や健康増進に関しても、常に新しいことに挑戦する気概を持ちたいものだ。

 新しいことへの挑戦が、生きる上に楽しく、さらなる意欲を生み出すために役立つはずである。それによって、生きようという心や気力を盛んならしめるだけでも、大したものではないか。

 今から、ゴルフやゲートボール、テニス、山歩きなどのスポーツで、体を鍛え直すのもいいだろう。語学を勉強して、年に一回は世界を見て歩くのもけっこうだ。墨絵、粘土細工、男の料理などの稽古(けいこ)事、釣り、囲碁、将棋、古典や植物の研究、何でもよい。

 学習することも立派な労働である。カルチャーセンターや教養講座は、今や社会に定着した感があるから、ここで学習意欲を燃やすのもいいだろう。

●物事を知るということは、楽しい。勉強は、面白いものである。今日覚えたことは、今日の楽しさとなる。明日もまた、何かを覚えよう。

 知識は、商品のように金で買うことはできない。だからこそ、学びの日々、自己啓発の日々の中に人間の価値、喜び、楽しさ、幸福というものが、実現されてくるのである。物事を知るということは、楽しい。勉強は、面白いものである。

 今日覚えたことは、今日の楽しさとなる。明日もまた、何かを覚えよう。明後日もまた、新しい知識を得、能力を進めて楽しく生きよう。

 あるいは、自然に触れて、自然の芸術を大いに味わうこともよい。盆栽いじりや、美術品、骨董(こっとう)品を味わって暮らすのもよいであろう。ボランティア活動で、体に蓄積された体験、経験をもって、世の中にお返しをするのもよい。

 積極的に社会の中へ出て、寝たきり老人の話し相手のボランティア活動など、何かの社会活動に参加する意欲と行動が、自らの病気さえ吹き飛ばすものではないか。老人専門病院では、男女交際によって驚くほどの若返り効果があることが発見されたと聞く。

 老化しないためには、こうした場をどんどん利用して、積極的に生きることである。つまり、何かに挑戦するとか、新しい人と接するとか、前向きに考えることが大切になるのである。

 しかも、自分のやっていることが、人のためになっているという実感があるほど若々しくなる。だから、持てる生命力を、人のためにフルに使えるようなものをつかむことが、高齢化社会をボケることなく生き抜く秘訣ではないだろうか。

 老人は進んで社会生活に参加せよ。頭を働かせろ。

●ボケていない、しっかりした老人は、それぞれ自分なりの人生訓を持ち、自分特有の生き方をしている。

 高齢になってからのボケについては、興味深い調査がある。ボケ老人とボケていない、しっかりした老人とを、それぞれ百二十人ずつ計二百四十人を対象にして、性格、趣味、宗教、学歴、職歴、収入、生い立ち、家庭生活などについて比較したものだ。

 その調査によると、性格では積極的、社交的な人は、消極的、非社交的な人よりボケにくく、協調性のある人は孤立的な人より、また大胆な人は小心な人よりボケにくい、と判明したのである。

 趣味では、囲碁、将棋、マージャン、生け花、園芸、短歌や俳句作り、ゲートボール、スポーツ観戦など、興味の範囲が広い人ほどボケにくく、職歴では高齢になるまで仕事をしている人ほどボケにくい、という結果も出ている。

 学歴と収入の面で比較すると、高学歴で収入の多い人ほどボケにくい傾向がある。さらに、新聞や本、テレビに興味を持っている人のほうがボケにくいのだが、特に、しっかりした老人の場合は、テレビ番組に対する興味もニュース、ドキュメンタリー、ドラマ、野球、ゴルフ、テニスなどと多様で、変化に富んでいる。反面、ボケ老人は見る番組も限られ、時代劇、相撲などの好きな人が多いようだ。

 とにかく、ボケていない、しっかりした老人は、それぞれ自分なりの人生訓を持ち、自分特有の生き方をしている。そして、八十歳になっても、八十五歳になっても、「死ぬ前にぜひこれをやってみたい」という、はっきりした意欲や生きがいを持っている人が多いことが、調査結果からわかっているのである。

●人生八十年、九十年、百年、百二十年の総決算は、体力は衰えても、気力は盛んでなければならない

 誰もが高齢になったといって、ボケてはいけないのはもちろん、それが老後であってもならないし、余生などといって社会から身を引くべきではない。進んで老いと対決しながら、宇宙天地大自然の「気」という他力の存在を自覚し、その真理の下に生き方を切り替える努力が大切だ。

 今では、社会も老人対策に前向きであり、主観、客観ともに見直されたことは頼もしい。六十代などは、手放しで老人の仲間には入らない。老人の定義は、傍らでどう見ようとも、本人の自覚の内容にあって、はなはだしい個人差があるので、年齢だけでは老人と決められない。

 終生の体験を生かし、万分の一を世にお返ししてこそ、有意義な楽しい晩年となる。黙って周囲を生かす。随所に主となるのは、威張ることではなく、中心となって周りをすべて生かす神の座のことである。

 人生の目的とその内容、成果が晩年にかかる。ただ長生きすればよいのではない。人生八十年、九十年、百年、百二十年の総決算は、体力は衰えても、気力は盛んでなければならない。「長生きすれば恥多し」ではなくて、老境の楽しさを知り、生まれてきた甲斐(かい)を必ず残したいもの。

 

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