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∥四百四病の事典∥
■他人に疑いや不信を抱く人格障害
妄想性人格障害とは、思考、感情、行動などの統一性を失う統合失調症に近い特徴を伴う人格障害。他人に対して強い猜疑(さいぎ)心や不信を抱く、人格の著しい偏りにより、対人関係の機能が障害され、自分自身や他人、または両方を苦める傾向が目立ちます。
精神医学の領域において使われる人格障害(パーソナリティー障害)とは、生来持っている人格傾向が思春期、青年期に顕著に出てきて、その人格のために、社会生活を営むことが著しく困難な状態を指します。精神病や不安障害(神経症)とは異なりますが、正常ともいえない、行動や物事の認識の仕方が逸脱した状態です。
人格障害にはさまざまなパターンがあり、時代や国によって分類方法が変わってきます。この妄想性人格障害も、統合失調症質人格障害、統合失調症型人格障害、反(非)社会性人格障害 、境界性人格障害、演技性人格障害、強迫性人格障害、回避性(不安性)人格障害、依存性人格障害など数ある人格障害の中の一種です。
妄想性人格障害は、統合失調症質人格障害、統合失調症型人格障害とともに、統合失調症に近い人格障害に分類されています。これらの人格障害の特徴は、統合失調症のようなはっきりとした精神症状はありませんが、それとよく似た傾向を持っています。自閉的で、妄想を持ちやすく、奇妙で風変わりな傾向があります。
より具体的には、次の7つの兆候のうち、4つ以上の兆候が当てはまるものが、妄想性人格障害と見なされます。
1. 十分な根拠もないのにかかわらず、他人が自分を利用する、危害を加える、だますという疑いを持つ。
2. 友人などの誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われている。
3. 情報をもらすと自分に不利に使われるという恐れのために、他人に秘密を打ち明けようとしない。
4. 悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなす、または脅す意味が隠されていると思い込む。
5. 侮辱された、傷付けられた、または軽蔑(けいべつ)されたと感じると、恨みを抱き続け、相手を許さない。
6. 自分の評判などに敏感に反応し、攻撃されていると感じ取り、すぐに怒ったり、逆襲する。
7. 何の根拠もないのに、配偶者や恋人の貞節に対して疑いを持つ。
つまり、妄想性人格障害の人は、極端に疑い深く、嫉妬(しっと)心の強い性格で、他人の動機を悪意あるものと解釈する傾向、経験した物事を歪曲(わいきょく)して受け止める傾向、ちょっとした状況の変化に敏感な傾向があります。
他人とのトラブルで憤慨して自分が正しいと思うと、口論に及んだり、法的手段に訴えることもあります。対立が生じた時、その一部は自分のせいでもあることには思い至りません。ほんのささいな言動を取り上げて、裏切られたという反応を起こしたりもします。
相手の弱点や欠点を指摘ばかりするのにもかかわらず、自分のことをいわれると激怒するようなことがあったり、自分の能力、ないし潜在能力について現実離れした妄想を持っていることもあります。
また、人を信頼することができないので、親密な友人はほとんどいないことが多いようです。職場でも概して、距離をとった対人関係を持つことが多く、比較的孤立した状態にあります。中には、親密な対人関係を築いて周りをコントロールしようとするタイプの人もいるようです。
■妄想性人格障害者の心と治療
妄想性人格障害の治療には、長い時間がかかります。人格障害は一時的な心の病ではなく、問題が人格といえるほどに発症者の心の奥底まで浸透し、安定していますので、社会適応の妨げとなる特性が短期間で改善されることはあまり望めません。
人格障害の人は何よりも他人を信頼しないので、医師との治療関係に持っていくまでが大変ですし、治療関係自体を良好なまま維持していくのにもちょっとした工夫が必要です。
何らかの精神症状が出ている場合、妄想の内容が過激で生活にかなりの支障が出ている場合には、薬物を投与しながら治療していくほうが好ましいとされます。薬物療法や環境ストレスの低減により、不安や抑うつなどの症状はすぐに軽快します。ただし、薬には症状を緩和させるだけの限られた効果しかなく、人格障害から起こる不安や悲しみなどの感情は、薬で十分に軽減されることはまずありません。
薬物療法や環境ストレスの低減により、不安や抑うつなどの症状を軽減した後、心理・対話療法が行われ、その人独自の思い込みを少しずつ解いていくことが試みられます。
本人は自分の行動に問題があるとは思っていないため、状況に適応していない思考や行動が引き起こす有害な結果に、直面させる必要があります。それにはまず、本人の思考や行動パターンから生じる望ましくない結果を、心理療法士が繰り返し指摘する必要があります。時には、怒って声を張り上げるのを禁じて、普通の声で話させるなど、行動に制限を加えることも必要とされます。
家族の行動は、本人の問題行動や思考に良くも悪くも影響するため、家族の関与は治療に役立ち、多くの場合不可欠でもあります。グループ療法や家族療法、専用施設での共同生活、治療を兼ねた社交サークルや自助グループなどが、社会的に望ましくない行動を変えていく上で役立ちます。
心理・対話療法は通常、不適応行動や対人関係のパターンに何らかの変化がみられるまで、1年以上は続けなければなりません。医師と発症者の間に親密で、協力的な信頼関係ができると、本人はそこから自分の悩みの根源を理解し、不信、ごう慢、人に付け込むといった対人問題の原因となる態度や行動を、より明確に認識するのに役立ちます。一般的に、不適応行動の変化は1年以内に生じますが、対人関係の変化にはなお時間がかかります。
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