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∥四百四病の事典∥
●熱中症
熱中症とは、体の中と外の「あつさ」によって引き起こされる、さまざまな体の不調です。
専門的には、「暑熱環境下にさらされる、あるいは運動などによって体の中でたくさんの熱を作るような条件下にあった者が発症し、体温を維持するための生理的な反応より生じた失調状態から、全身の臓器の機能不全に至るまでの、連続的な病態」されています。「熱中症」という漢字は、読んで字のとおり、「熱に中(あた)る」という意味を持っています。
この熱中症には、いくつかの種類があります。熱波により主として高齢者に起こるもの、高温環境で幼児に起こるもの、暑熱環境での労働で起こるもの、スポーツ活動中に起こるものなどです。
いずれのケースも、体内に熱がたまったために温熱中枢が障害され、体温調節機能が破綻して、体温が異常に上昇した結果、肝臓、腎臓、中枢神経などに障害を起こします。日射病、熱痙攣(けいれん)、熱疲労、熱射病、熱失神などさまざまな病態が、熱中症には含まれます。
労働中に起こるものについては、労働環境の改善などにより以前に比べ減少していましたが、近年の環境条件により増加傾向がうかがわれます。また、スポーツ中に発生するものおいては、一時増加傾向にあり、その後減少に転じましたが、下げ止まりのような状況になっており、依然、死亡事故がなくならない状況にあります。
熱中症というと、「暑い環境で起こるもの」という概念があるかと思われますが、労働やスポーツ活動中に起こる熱中症では、体内の筋肉からの大量の熱の発生と脱水などの影響により、寒いとされる環境でも発生しうるものです。実際、11月などの冬季でも、死亡事故が起きています。また、活動開始から比較的短時間の30分程度からでも、発症する例もみられます。
■熱中症の症状は■
症状は、大量発汗、強い口の乾き、倦怠(けんたい)感、興奮、高体温、発汗停止、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、脱力感、反射の低下、筋痙攣、強い頭痛、めまい、失神、精神錯乱、昏睡(こんすい)、意識不明などがみられます。最終的に呼吸停止、心停止に至ることもあります。
熱中症を暑熱障害、熱症として、重症度で分類すると、以下のようになります。
●1度 (軽症度)、熱痙攣(heat cramps): 四肢や腹筋の痛み、時には腹痛を伴った痙攣がみられます。多量の発汗で、塩分などの電解質が入っていない水のみを補給した場合に起こります。呼吸数の増加し、顔色が悪くなり、めまいなどもみられます。
●2度 (中等度)、熱疲労(heat exhaustion): めまい、疲労感、虚脱感、頭痛、失神、吐き気、嘔吐、血圧の低下、頻脈、顔面の蒼白、多量の発汗などで、ショック症状がみられます。脱水と塩分などの電解質が失われて、極度の脱力状態となります。
●3度 (重傷度)、熱射病(heat stroke): 2度の症状に加えて、意識障害、奇怪な言動や行動、過呼吸、ショック状態になります。温度調節機能の破錠による多臓器障害が起こり、脳、肺、肝臓、腎臓などに障害が生じます。
ただし、熱中症の分類は、医学的にも混迷している状況にあります。従来からの分類の混迷が、症状や緊急性の判断を難しくさせ、手当や診断に影響を及ぼしている、とも見なされるところです。
■熱中症の治療法は■
熱中症は、いくつかの症状が重なり合い、互いに関連し合って起こります。また、軽い症状から重い症状へと症状が進行することもありますが、きわめて短時間で急速に重症となることもあります。
しかも、熱中症は大変に身近なところで起きていますので、十分にその危険性を認識しておくことが必要です。
もし周りの人が熱中症にかかった場合には、すべての症状に対して次の三つが手当の基本となります。
●休息(rest)
安静にさせる。そのための安静を保てる環境へと運ぶことともなる。衣服を緩める、また、必要に応じて脱がせ、体を冷却しやすい状態とする。
●冷却(ice)
涼しい場所、例えばクーラーの入っているところ、風通しの良い日陰などで休ませる。症状に応じて、必要な冷却を行う。
●水分補給(water)
意識がはっきりしている場合に限り、水分補給を行う。意識障害がある、吐き気がある場合には、医療機関での輸液が必要となるので、直ちに救急車を呼ぶこと。
以上の三つをベースとして手当を行い、症状やその程度によって追加して望まれる手当も派生します。
医療機関での治療においては、氷水浴、アルコール冷却などを行い、ラクテック、生理食塩水、デキストラン製剤などの輸液を行います。
■熱中症の予後と予防■
熱中症にかかった人が、暑い環境での活動や運動を再開するには、相当の日数を置く必要があります。
どんなに症状が軽かったとしても、1週間程度。症状が重くなるにつれ、日数は増えていきます。詳しくは医師と相談の上、当人の調子を照らし合わせながら、再開を決めることになります。
その間は、暑い環境での活動や激しい運動は、厳禁となります。十分に回復するまでの休息の日数を置いた上、涼しいところでの軽めの運動から開始し、徐々に運動負荷を上げていくのがよいでしょう。また、一度かかった者は再度かかりやすいとも見なされていますので、十分に注意をしつつ、活動や運動を行うようにしなければなりません。
熱中症を予防するための注意事項について述べれば、酷夏の運動場、体育館、海水浴場、市街地などにいて、通風性がよくない場合には熱中症を起こしやすいので、スポーツドリンクなどで塩分を含む水分補給を積極的に行うことが必要です。休息を多く取り入れ、激しい運動は中止すべきです。
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