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∥四百四病の事典∥


特発性視神経炎

■視神経の髄鞘が脱落し、視神経機能に障害が起こる眼疾

 特発性視神経炎とは、片目または両目に急性の視カ低下がみられ、視神経の脱髄が起こる眼疾。特発性とは原因が不明という意味で、ほかの原因が除外されますが、多発性硬化症の初発もしくは部分症としてみられることがあります。

 20歳代から50歳代に多く、男性より女性のほうに好発します。視力低下が生じる数日前から、あるいはほぼ同時に眼球を動かすと痛みを感じたり、眼球の後ろに種々の程度の痛みを感じたりします。見ようとするところが見えない中心暗点型の症状が多く、全体に霧がかかったように見えたり、視野の周辺の一部からだんだん見えにくくなることもあります。

 この特発性視神経炎は、視神経の眼球壁内に起こる視神経乳頭炎と、これより後方に起こる球後視神経炎の2種類に分けられます。視神経乳頭炎は、眼底の視神経の先端部分に当たる乳頭や、これに近い部分の視神経に赤いはれを示します。 球後視神経炎は、眼球の後方に炎症があってはれが見えず、乳頭が正常に見えます。

 視神経乳頭炎は、比較的改善率がよいものです。球後視神経炎は、視神経以外の脊髄(せきずい)や、大脳の白質という神経線維の集まりにも病変が及び、しばしば軽快と悪化を繰り返す多発性硬化症の一部になることもあります。多発性硬化症では、目の障害だけでなく、手足のまひなどの運動失調、感覚障害、認知症などが出現することがあります。

 特発性視神経炎の真の原因は不明ながら、神経の炎症によって、視神経の回りを取り囲む髄鞘(ずいしょう)が脱落し、視神経機能に障害が起こると推定されています。一部は何らかのウイルス感染が契機となって、髄鞘の構成蛋白(たんぱく)や脂質に対する自己免疫反応が関与すると考えられています。

■特発性視神経炎の検査と診断と治療

 医師による診断では、瞳孔(どうこう)の反応検査と、検眼鏡による眼底検査、及び視野検査を行って診断を確定した後、視神経の病変を直接見ることができる眼窩(がんか)部や頭部のMRI検査が行われます。

 片眼性の特発性視神経炎の場合は、瞳孔の対光反応に左右差があることが特徴的で、瞳孔の反応検査は診断上重要です。急性期の視神経炎では、眼底検査で視神経乳頭のはれが認められることが多いのですが、炎症が眼球より後方の視神経に限られている場合には、眼底は全く正常の所見を示しますが、慢性期の視神経炎では視神経委縮を示します。

 また、周辺視野検査により、周辺部の視野欠損が発見されることがあります。

 特発性視神経炎には自然回復傾向の強いものもあって、特に治療しなくても数カ月のうちに改善されるものもあります。病状によっては、副じん皮質ステロイド剤の点滴治療と、その後の内服により治癒が早まり、再発が防止できることがあります。副腎皮質ステロイド剤以外では、神経保護のビタミンB12製剤の内服を行います。

 多発性硬化症による視神経炎、高度の視力障害を起こす難治性再発性の視神経炎の場合には、副じん皮質ステロイド剤の反応も悪く、長期間の投与により副作用も懸念されることがありますので、インターフェロンβ(ベータ)―1b治療が悪化の抑制、再発防止に有効です。

 治療により視力がいったん回復しても、原因によっては再発を繰り返し、徐々に視力が悪化することもありますし、片目だけに現れた症状が両目に現れることもありますので、定期的な経過観察は必要です。予後の比較的よい視神経炎では、10年後にも視力が1.0以上を維持します。

 

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