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∥四百四病の事典∥
糖尿病とは、主に血液中のブドウ糖の量を調節するインシュリン(インスリン)が不足するために、血糖値が異常に高くなることで起きる疾患。
2006年に厚生労働省が実施した調査によると、糖尿病患者やその予備軍と推定される人数は1870万人。調査は20歳以上の成人の血液検査において、血液中のブドウ糖濃度である血糖値の傾向を測る「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の数値で判定したもので、6.1パーセント以上の「糖尿病が強く疑われる人」は約820万人、5.6パーセント以上6.1パーセント未満の「可能性が否定できない人」約1050万人と合わせると、計1870万人。
02年の調査の1620万人に比べると250万人、1997年の調査の1370万人に比べると500万人増えました。特に40歳以上の人では、その10人に1人以上が糖尿病であると見なされ、糖尿病は国民病化しています。
糖尿病でない人では、食後、食物に由来するブドウ糖やアミノ酸が体に吸収されると、膵(すい)臓からホルモンのインシュリンが分泌されます。このインシュリンの働きにより、食物から吸収されて血液に入ったブドウ糖が筋肉組織などへ取り込まれ、血糖が一定値以上に上昇しないようになっています。このインシュリンによる血糖低下作用が弱くなると、糖尿病になります。
糖尿病の人では、インシュリン作用の低下のため、食事として摂取したブドウ糖が筋肉などの細胞に入っていきにくくなるため、細胞内でエネルギー不足を来すとともに、ブドウ糖はそのまま血液中にとどまって血糖値が高くなり、尿の中に糖があふれ出るようになります。
また、ブドウ糖などの糖質だけでなく、蛋白(たんぱく)質や脂質の利用まで障害されるために、高血糖や、血液中の脂肪が異常に増加する高脂血症となり、それらにより血管や神経が障害されて、いろいろな合併症が出現します。
糖尿病は、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)という2つのタイプに大別されます。
1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島の中にあるβ(ベータ)細胞が破壊され、インシュリン分泌がほぼゼロになってしまうことで発症するタイプ。原因としは、ウイルス感染、自己免疫性、特発性(原因不明)などがあります。
インシュリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであり、そのホルモンが体内で作られないわけですから、外からインシュリンを補充しなければ、血糖値はどんどん上昇してしまいます。従って、1型糖尿病の人は、生存のために毎日のインシュリン注射が絶対に必要になります。発症は小児や若い人に多くみられますが、中高年にも認められることがあります。
2型糖尿病は、インシュリン分泌が低下しやすく糖尿病になりやすい体質を持っている人に、過食、運動不足、肥満、ストレス、加齢のほか、発熱、過労、手術、薬の服用、ほかの疾患の影響、妊娠など、インシュリンの作用を妨害するような引き金が加わって発症するタイプ。
日本人の糖尿病の約9割がこのタイプに当てはまり、生活習慣病の一つとされています。この2型糖尿病では、親や兄弟にも糖尿病にかかっている人がいることが多く、遺伝的要素が強く関係していると見なされています。
過食など発症の引き金となる複数の因子の中では、とりわけ肥満が深く関係しています。調査によると、2型糖尿病患者の約3分の2は、現在肥満であるか、過去に肥満を経験しています。実際、肥満者ではインシュリンの血糖低下作用が弱まっていることも、明らかにされています。
脂肪を蓄積する細胞である脂肪細胞からは、インシュリンの作用を妨害する遊離脂肪酸やTNFと呼ばれる物質などが分泌されていますので、肥満して脂肪細胞が増えると、せっかく分泌されたインシュリンがうまく働くことができなくなり、血糖値が上昇するようになるのです。 中年以降の発症例の多くは、2型糖尿病です。
糖尿病の症状は気付きにくく、血糖値が多少高いくらいでは、全く自覚症状のない人がほとんど。徐々に悪化し、血糖値がかなり高くなってくると初めて、のどが渇く、トイレが近くなる、尿の匂いが気になる、できものができやすい、傷が治りにくい、足がつる、また細胞のエネルギー不足によって体がだるい、疲れやすい、食べてもやせるといった症状が現れてきます。血糖値が極めて高い状態では、昏睡(こんすい)に陥ることもあります。
自覚症状がないからと糖尿病を放置していると、高血糖が全身のさまざまな臓器に障害をもたらします。特に、眼の網膜、腎(じん)臓、神経は障害を受けやすく、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害は糖尿病の三大合併症(余病)と呼ばれています。
網膜症が起こっても最初は自覚症状はありませんが、血糖値の悪化に伴い、視力障害が現れ、失明に至ることがあります。
腎症も最初は少量の蛋白(たんぱく)尿が出るだけですが、徐々に体内に水分や毒素がたまるようになり、むくみ、尿毒症が現れ、最終的には人工透析によって血液をきれいにしたり、水分量等を調節したりしないと生きていけなくなります。
神経障害が起きると、手足のしびれ、痛み、感覚鈍麻(どんま)、発汗異常、勃起(ぼっき)障害、便秘、下痢などが起こります。
一般的に、糖尿病になってから5~6年で神経障害が、7~10年で網膜症が、15年程度で腎症が出現します。
同時に、高血糖によって動脈硬化が進むため、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞が起こる率が高まります。足の血管の閉塞(へいそく)や壊疽(えそ)により、足を切断しなければならないケースも起こります。
糖尿病の本当の怖さは、この合併症なのです。しかし、 放置せずに、しっかり治療して、状態を良好にコントロールすれば、糖尿病でない人と同じ健康な生活が送れます。
■糖尿病の検査と診断と治療
医師による糖尿病の診断は、主に血液検査で血糖値を調べることで、血糖値が正常である「正常型」なのか、糖尿病である「糖尿病型」なのか、その中間の「境界型(耐糖能異常)」であるのか、型の区分を判定します。はっきりしない場合には、75gの糖分を含む飲料を飲んで、型の区分を判定することもあります。これは、75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)と呼ばれる検査です。
型の区分には、以下の(1)~(5)の判定基準が用いられます。
(1)早朝空腹時血糖値126mg/dl以上
(2)75gOGTTの2時間値が200mg/dl以上
(3)随時血糖値200mg/dl以上(随時とは、食後の任意の時間のことをいいます。食前でもかまいません。)
(4)早朝空腹時血糖値110mg/dl未満
(5)75gOGTTの2時間値が140mg/dl未満
(1)~(3)のいずれかの血糖値が確認された場合には、「糖尿病型」と判定します。(4)および(5)の血糖値が確認された場合には、「正常型」と判定します。「糖尿病型」と「正常型」のいずれにも属さない場合には、「境界型」と判定します。
別の日に行った検査で「糖尿病型」が再確認された場合には、糖尿病と診断します。ただし、次の(1)~(4)のいずれかがある場合は、1回の検査で「糖尿病型」であれば、糖尿病と診断していいことになっています。
(1)糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在
(2)HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.5パーセント以上(HbA1cとは、過去1~2カ月間の平均血糖値を示す指標。赤血球に存在し、酸素を運搬する役割を持つヘモグロビンの中で、ブドウ糖が結合しているものの割合を意味します。正常値は4.3~5.8パーセントで血糖値が高いほど、HbA1cは高くなります。)
(3)確実な糖尿病性網膜症の存在
(4)過去に「糖尿病型」を示した資料がある場合
糖尿病治療の第一の目標は、血糖値を正常に保つようにコントロールして合併症を予防することで、食前血糖80-120 mg/dl、食後血糖100-160mg/dl、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)5.8パーセント以下程度と考えられます。
血糖値を正常に近付ければ近付けるほど、合併症が出る心配が少なくなります。また、特に2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、高血圧症や脂質異常、肥満を合併しやすいので、これらの治療も必要です。
糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。食事療法、運動療法が治療の基本ですが、これらだけで血糖値が下がらない場合に薬物療法を併用します。
食事療法
性別、年齢、肥満度、活動量、血糖値、合併症の有無などを考慮し、1日のエネルギー摂取量を決めます。決められたエネルギー摂取量内で炭水化物、蛋白質、脂質のバランスを取り、適量のビタミン、ミネラルも摂取して、いずれの栄養素も過不足ない状態にします。
とりわけ、肥満はインシュリンの作用を妨害するため糖尿病にとっては大敵ですので、栄養素をバランスよく取りながら標準体重を維持するために、食事療法が必要となります。また、弱まったインシュリンの働きに合わせた食事の量にすることも必要です。そうすれば、食物は体内でほぼ完全に利用され、余分なブドウ糖が血液中にあふれ出ることはありません。
運動療法
運動療法も、ブドウ糖をよく利用する筋肉を増やし、インシュリンの作用を妨害する脂肪を減らし、また肥満を是正するなどの利点があり、糖尿病の治療には重要なものです。
中程度の全身運動、すなわち50歳代であれば脈拍が1分間に110程度になるような運動を、毎日30分以上行うと効果があります。1回15~30分間、1日2回で、計1日7000歩程度の歩行運動が、中程度の全身運動に相当します。
血糖コントロールが極端に悪い場合、網膜症の状態が悪い場合、腎不全のある場合、心臓や肺などの機能に障害のある場合などは、運動療法を制限したほうがいいため、個々の人に適した運動療法をすることが必要です。
薬物療法
1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の人は、体内でインシュリンがほとんど分泌されないので、インシュリンを注射で投与する必要があります。
また、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、食事療法および運動療法で血糖値が十分に正常化しない場合、飲み薬やインシュリンの注射が必要になります。
飲み薬には、経口血糖降下薬、SU薬(スルホニル尿素薬)、 速効性インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗改善薬があります。
インシュリンには、速効型インシュリン、超速効型インシュリン、中間型インシュリン、持効型インシュリン、さらに、速効型インシュリンや超速効型インシュリンと中間型インシュリンがいろいろな比率で混ざっている混合型インシュリンがあります。
一般的に、食後に分泌されるインシュリンを補充するためには、速効型インシュリンや超速効型インシュリンを毎食前に使用します。また、人の膵臓からは食事と関係なく一定のスピードでインシュリンが分泌されているのですが、このインシュリンを補充するためには、中間型インシュリンや持効型インシュリンを使用します。
発症者の生活上の注意
血糖値をできるだけ正常値に近付けることで、高血糖によって起こる恐ろしい、さまざまなな合併症を防ぐことができますので、早期に糖尿病を発見し、治療することが大切となります。
しかし、治療によって一時的に血糖値が下がったとしても、血糖値が上がりやすいという遺伝的な体質や、一度破壊されたβ細胞の機能は正常に戻るわけではありませんので、治療を中断するとすぐに血糖値は高くなってしまいます。
そのためにも、定期的に受診して、一生治療を続けながら生活をしていくことが大切です。糖尿病のコントロール状態を知るため、発症者本人が体重測定、尿糖測定、場合によっては血糖測定をする必要もあります。
定期的な受診でも、血糖、検尿、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)などの検査をします。このうちHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)では、採血前の1カ月間の平均的な血糖の状態がわかります。このほか、高脂血症やいろいろな合併症に関する検査も、定期的に受ける必要があります。
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