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∥四百四病の事典∥
虚血性視神経症とは、視神経へ栄養を送る血管の循環障害により、視機能の低下が生じる疾患。非動脈炎性と動脈炎性の2つのタイプがあります。
視神経へ栄養を送る血管の循環障害、すなわち虚血によって、視神経への血液供給が妨げられると、視神経細胞が死んだり機能しなくなって、慢性かつ進行性の視機能の障害が生じます。視神経は網膜に映った物の形や色、光などの情報を脳神経細胞に伝達するという役割を担っていますので、視神経細胞が損傷すると物を見る働きも損なわれてしまうわけです。
虚血性視神経症の視力障害は、数分から数時間で急速に進むこともあれば、2~7日かけて徐々に進行することもあります。多くは中心視力が低下しますが、視野狭窄(きょうさく)のみで視力は低下しないこともあります。視野の異常も中心が見えにくくなる中心暗点から、耳側もしくは鼻側半分が見えにくくなる半盲性障害までさまざま。視機能障害が片目に生じるか両目に生じるかは、原因によって異なります。
非動脈炎性虚血性視神経症は、50歳以上の人に起こることが多い疾患。眼底にある視神経乳頭の梗塞(こうそく)によって、乳頭の蒼白浮腫(そうはくふしゅ)が生じ、視力低下と視野障害が出ます。
この疾患にかかりやすくなる要因としては、高血圧、動脈硬化、糖尿病、心疾患、血液疾患があります。まれに、小乳頭などの乳頭異形成や、ひどい片頭痛を持つ若い人にもみられます。この非動脈炎性は、動脈炎性の10倍以上多くみられます。
動脈炎性虚血性視神経症のほうは、70歳以上の人に起こることが多い疾患。動脈が炎症を起こし、視神経への血液供給が妨げられて視神経症が起こるもので、特に多いのは頸(けい)動脈と、こめかみの後ろあたりを走っている側頭動脈の炎症です。側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)が原因の視神経症は、頭部の皮下を走っている浅側頭動脈に沿った痛みがあり、視力障害の程度がより重くなる傾向があります。
頭痛、視力障害、視野障害のほか、発熱、体重減少などの全身症状、筋肉痛と関節痛などがみられ、うつ病、不安感、聴力障害などがみられることもあります。
虚血性視神経症は、難治性の眼疾であり、中途視覚障害の重要な原因となっています。急激に発症した場合はもちろん、たまたま片目を閉じてみたら見えにくいことに気付いたなど、視力低下がゆっくりではあるものの慢性進行性であれば、早く眼科で精密検査を受ける必要があります。
医師による診察では、主に検眼鏡で目の後部を観察することで診断されます。この眼底検査のほか、視力検査、瞳孔(どうこう)の反応検査、視野検査、MRII検査、血液検査、髄液(ずいえき)検査などが必要に応じ行われます。
片眼性の虚血性視神経症の場合は、瞳孔の対光反応に左右差があることが特徴的で、瞳孔の反応検査は診断上重要です。動脈瘤(りゅう)など血管性病変が疑われる場合は、MRA検査や脳血管造影が必要になります。
同時に、虚血性視神経症のリスク要因となるその他の疾患にかかっていないかどうかについて、慎重に問診が行われます。側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)が疑われる場合は、診断を確定するために、側頭動脈の生検、すなわち組織のサンプルを採取して、顕微鏡で観察する検査が行われることもあります。
虚血性視神経症の治療では、基本的には原因となる疾患の治療が原則となり、脳外科や耳鼻科などと連携した治療が必要です。
非動脈炎性虚血性視神経症の治療では、高血圧、糖尿病、コレステロール値など、視神経への血液供給に影響を与える要因をコントロールしていきます。多少の自然回復傾向を示すケースもありますが、多くのケースでは視力低下と視野障害を残します。
側頭動脈炎が原因の動脈炎性虚血性視神経症の場合は、正常な反対側の目に視力障害が起こるのを防ぐため、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤、血管拡張剤、ビタミン剤などの内服や点滴が行われます。早期にステロイド剤を用いることによって、ある程度失明は予防できるものの、減量したり中止すると再発しやすくなります。
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