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∥四百四病の事典∥
角膜ヘルペスとは、目の角膜表面に樹枝状の潰瘍(かいよう)ができる疾患。再発を繰り返しながら、表層から深層に炎症が進んでいきます。
角膜とは、黒目の表面を覆う透明な無血管組織で、4つの異なった層からなっています。外界の光が目の中に入る入り口となるとともに、目の屈折力の約7割を担うレンズとしての役割も果たしています。三叉(さんさ)神経が多岐に分布し、知覚が非常に鋭敏であるという特徴があり、厚さ約1ミリながら目の中の組織を守るために膠原線維(こうげんせんい)というとても丈夫な線維組織で作られています。
この角膜は、常に外界と接して空気にさらされているために乾燥したり、ほこりが付いたりします。 そこで、まばたきというまぶたの動きによって、常にその表面を涙で湿らして、ほこりを取り除き、細菌やかび、ウイルスなどの侵入を防いでいます。しかし、目にゴミが入ったり、目を強くこすったり、涙の出る量が少なくて角膜が乾燥したりすると、角膜の表面に傷が付いて、傷口から細菌などが侵入し、感染を起こします。
角膜ヘルペスの原因は、単純ヘルペスウイルスの感染です。ちなみに、単純ヘルペスウイルスは、皮膚の単純疱疹(ほうしん)や、口唇ヘルペス(熱の花)の原因ともなるウイルスです。角膜ヘルペスを発症する時に、単純ヘルペスウイルスが外から感染するのではありません。大部分の人は成人になるまでに、知らない間に感染していますが、あまり発症には至りません。
ほとんどの場合、単純ヘルペスウイルスは感染後、目の奥にあって角膜の知覚をつかさどっている三叉神経節に潜伏感染しています。このいわば眠った状態の単純ヘルペスウイルスがストレスや体調不良、発熱、気温の低下などが引き金となって目覚め、角膜の表面に出てくることによって、角膜ヘルペスが発症します。発症は、30歳代や40歳代で多くみられます。
角膜ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスが角膜の表面の上皮で増える上皮型と、単純ヘルペスウイルスが角膜の内部に侵入し、角膜に混濁を生じる実質型に大きく分けられます。
上皮型の症状としては、常に涙が流れ出ている状態となり、まぶしさ、異物感があります。まぶたの裏側から白目の表面を覆っている結膜も、充血してきます。時に痛みを覚えますが、視力の低下は軽度です。眼科医の診断に際して、角膜の上皮を染色すると樹枝状の特徴ある形を見ることができ、これが広がれば地図状の形になることもあります。
実質型では、充血がひどく、角膜が円板状に濁ってしまうため視界がぼやけ、視力がかなり低下します。角膜の深部の感染した細胞を自分自身のリンパ球が攻撃して起こるのが実質型であり、さらに単純ヘルペスウイルスが深部に入ると、ぶどう膜炎を併発し、角膜に穴が空くこともあります。
ほとんどの場合、片目で発生します。また、一度治しても、三叉神経節には単純ヘルペスウイルスが残っており、これがしばらくしてまた角膜に出てくるため、再発を繰り返すという厄介な特徴を持っています。何度も再発すると角膜全体が混濁して、治療しても視力障害を残す危険性があります。目の感染症の中では、一番失明率が高い疾患ですが、近年、角膜ヘルペスに対して非常に効果を発揮する特効薬であるアシクロビル(ゾビラックス)、バラシクロビル(バルトレックス)が開発され、失明率は低下しました。
他の人に伝染することはあまりないものの、単純ヘルペスウイルスに対して抗体を持っていない乳幼児に対しては、注意が必要です。成人の発症者が自分の目を触った手で、乳幼児に感染させる可能性があります。
角膜ヘルペスは、もともと体に単純ヘルペスウイルスを保有している人がかかり、再発しやすいものです。皮膚に発生するヘルペス感染症と同じく、角膜ヘルペスに対しても、再発するごとに根気強く繰り返し治療していく必要があるといえます。ほうっておくと失明する可能性のある疾患なので、油断は大敵です。少しでも目に違和感があれば、特に一度経験した人は、早めに眼科医を受診します。
眼科医は、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡で角膜を観察して診断します。上皮型では樹枝状や地図状の潰瘍、実質型では円板状の混濁が診断に役立ちますが、特徴的な所見を示さない場合も多々あります。その場合は、角膜の悪い部位をこすり取ったり、涙を採取したりして、その中にに単純ヘルペスウイルスがいないかどうかを調べます。
一般には、単純ヘルペスウイルスを分離するのはごく一部の専門の施設でないと行えないため、ウイルスの持っている蛋白(たんぱく)に反応する抗体を用いた蛍光抗体法や、ウイルスのDNAを検出するPCRという方法が使用されています。
また、角膜ヘルペスでは角膜の知覚が低下することが特徴であるため、角膜の表面をナイロン糸などの先で触れて、触れたことがわかるかどうかを検査します。
治療では、単純ヘルペスウイルスに対する特効薬であるアシクロビル(ゾビラックス)、あるいはバラシクロビル(バルトレックス)の眼軟こうの点入、IDUという薬の点眼を繰り返し行い、二次感染防止のために抗生物質の投与を行います。アシクロビル(ゾビラックス)、あるいはバラシクロビル(バルトレックス)を内服薬として使用することもあります。
実質型では、体の免疫反応を抑えないと混濁がよくならないので、副腎(ふくじん)皮質ステロイド系の点眼薬を併用します。角膜全体が混濁して視力障害が著しい時には、角膜移植を行います。
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