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∥四百四病の事典∥


アスベスト症



●アスベスト症とは

 「アスベスト(Asbestos)」とは「石綿(いしわた、せきめん)」のことで、蛇紋(じゃもん)石などの繊維性鉱物を綿状にほぐしたものです。アスベストを製造している会社、炭鉱、建材メーカーなどで働いている労働者や家族が肺に間質性繊維化を起こし、呼吸困難となるのが、「アスベスト症(Asbestosis)」です。

 近年では、アスベストを扱う工場の周辺住民がただ近くに住んでいるだけで、健康被害を受けるリスクがあるということまで、認識されるようになりました。

 アスベスト症の症状は、息切れ、咳(せき)、長引くしわがれ声、肺から咳をして出る血痰(けったん)、胸または腹の痛み、胸水または腹水、血液中の酸素欠乏により皮膚が青くなるチアノーゼ、際立った体重減少などです。

 医師の側では、胸部X線検査、CT検査で肺の間質性繊維化と胸膜の斑点がみられ、呼吸機能検査で著明な機能低下が認められと、アスベスト症と診断を下します。専門の医師でも、一度吸い込んだアスベストを除去することはできません。アスベスト症の治療は、対症療法になります。 

●広く使用されてきたアスベスト

 天然で産出する繊維状の鉱物の一群を原材料としたアスベスト(石綿)の繊維一本は、だいたい人間の毛髪の5000分の1の細さで、数千本をより合わせて糸状にも、布状にも加工できる素材です。

 アスベストを性質によって分けると、6種類あります。巻き毛状の繊維を持つ蛇紋石系のクリソタイル(白石綿、温石綿)と、棒状の繊維を持つ角閃石系のアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトです。これら6種のうち、日本や世界で工業的に使用されてきたのは、主としてクリソタイル、アモサイト、クロシドライト。

 逆上れば、1800年代の終わりに、アスベストは北アメリカで営利上採掘され、使用され始めました。第二次世界大戦中に、需要が大幅に増加し、以来、多くの産業において使用され続けてきました。

 高抗張力、不燃の特長を有し、耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、親和性などにも非常に優れ、しかも安価であるため、「奇跡の鉱物」「夢の素材」と珍重されました。一つの物質で、これほどの特長を有しているものは他に見当たらず、アスベストを代替する場合には、それぞれの特長を持った複数の繊維や材料を組み合わせて使用することになります。

 戦後の日本では、1948年にアスベストの輸入が再開し、1974年には35万トン強と輸入量が最高になっています。1970年~1990年にかけては、年間30万トン前後の輸入がありました。1991年以降は、アスベストの輸入量は減少していきます。

 この間、建築資材、電気製品、自動車、船舶、家庭用品などで、3000とも5000を超えるともされる種類の製品に、アスベストが使用されていました。例えば、建設業では、断熱材、保温材、耐火材、防音材として建築資材に用い、同様にセメントとプラスチックを強くするために、アスベストを壁や天井に吹き付けて用いました。自動車産業では、ブレーキライニングやブレーキパッド、クラッチフェーシング、 クラッチライニングで、アスベストを使用しました。

 一方、アスベストの使用については、1972年のILO(国際労働機関)による発がん性の指摘など、早急な対策の必要性が、世界的にで論じられてきました。86年には、吹き付け作業や発がん性の高いクロシドライト(青石綿)の使用などを禁止した「石綿条約」がILOで採択されましたが、日本は条約を批准せずに「管理して使えば安全」という立場をとり、規制はしませんでした。

 80年代には、ヨーロッパ諸国が相次いで、クロシドライトの使用禁止の措置をとりました。アメリカでは、89年に環境保護局(EPA)がアスベストの新用途すべてへの使用を禁止しました。

 当時の日本も90年頃から、まず吹き付けによるアスベスト使用を法的に中止しました。アモサイト(茶石綿)とクロシドライトについては、有害性が高いことから、1995年に使用禁止にしました。

 一方で、よく使われているクリソタイル(白石綿)は量も多いし、それほど危険性はないと判断し、アスベストを含んだ建材やアスベスト板などを作っている会社には零細業者が多いということで、使用禁止を猶予し、2006年にずれ込みました。

 EU加盟国(25カ国)では2005年1月から、日本においても2006年9月から、クリソタイルを含めたアスベストの新たな使用については、全面禁止となりました。ただし、日本では一部の製品について、石綿無使用品の安全性が確認できるまで当分の間使用できますが、2008年を期限にすべてのアスベストの使用が禁止されます。アメリカでは、2003年8月現在で石綿紙、新規製品等への使用は禁止されていますが、建材、摩擦材等への使用は認められています。

 なお、世界におけるアスベストの生産量は、2000年以降増加しています。主産地のカナダでは減少しているものの、ロシア、中国、カザフスタンで増加している影響です。世界の現在の使用量のデータはありませんが、2004年の年間のアスベスト産出量は223万トンと発表されています。日本のアスベストの輸入量は減少し続け、財務省の統計によると年間輸入量は2004年に約8000トン、2005年に110トンとなり、2006年は輸入がありませんでした。  

●住まいの中にあるアスベストへの対応

 かつての建設業では、大別して「建材」と「吹き付け」の二種類の方法で、建物にアスベスト(石綿)を使用しました。断熱材、保温材、耐火材、防音材などの建材として用い、壁や天井を強くするために吹き付けて用いました。

 現在、学校などで問題となっているのは、セメントにアスベストなどを混ぜて、鉄骨や壁面に吹き付けた「吹き付けアスベスト」です。アスベストの繊維は非常に細かいので飛散しやすく、人間が吸入してしまう恐れがあるため、健康への害が懸念されています。

 アスベストのほか、吹き付けによく使われる材料として、ロックウールという岩綿(がんめん)があります。アスベストと同様の特性を持ちますが、繊維がより大きいため、人間の体内に入っても肺がんや中皮腫(ちゅうひしゅ)の原因にはならないと見なされています。このロックウールとアスベストの二つは見た目ではほとんど差がなく、外見で判別することは、専門家でも不可能です。

 しかし、アスベストを使用した吹き付けは、1990年頃からほとんど使われず、95年までは5パーセント以内の割合でアスベストが含まれていたものもあるといえど、完全に使われなくなった96年以降の吹き付けであれば、安全であると考えられます。

 一方、一般家庭やオフィスなどで問題となるのは、床や壁、天井、キッチンのタイルの裏側、屋根瓦などに、アスベスト入りの建材が2004年まで使われていたことです。

 ここで大切なのは、「アスベストを含んだ建材があること自体は、大きな問題ではない」、と認識することです。過剰反応して「気持ちが悪いから取ってしまおう」などと、考えないことです。

 建材を破損させて断面をむき出しにしたり、建物を壊したりしない限りは、アスベストは飛び散りません。従って、住居にアスベスト入り建材が使われていても、健康への害はほとんどないと考えられています。

 アスベスト入り建材の使用場所を知るには、家を立てた際の図面を見ることがまず第一です。見てもわからない時や図面がない場合は、施工した工務店に問い合わせましょう。自宅でアスベストが使われている場所を知っておけば、壁に穴を開けたり、むやみに傷を付けたりすることを避けられます。

 どうしても気になるなら、その部分だけを取り除くのではなく、壁紙などを張ったり、厚めに塗料を塗るのがいいと思われます。 

●アスベスト症により引き起こされる病気

 現在、飛散したアスベスト(石綿)をどの程度吸い込むと発病するかという明確なデータは、ありません。しかし、体への影響は、吸った濃度と量(期間)が深く関係します。 

 例えば、高濃度ではなくても、吹き付けのある倉庫で何十年も働いていたり、石綿工場周辺に長く住んでいたりした場合は、時間の長さが問題となり、あくまでも実験下の数字でいえば、危険度が高いことになります。

 アスベスト症により引き起こされる病気として、長い期間アスベストに曝露(ばくろ)されると、特殊な肺がんを発症することが知られています。アスベストは劣化しにくいため、長期間にわたって空気中や水中に存在し、人間の体内に入るとほとんど分解されず、肺などに蓄積して、がん化するのです。

 大量のアスベストを日常的に吸った際に起こる「石綿肺」、より少ない曝露でも起きる「石綿肺がん」、肺を取り囲む胸膜などに悪性の腫瘍(しゅよう)ができる「悪性中皮腫」が、主な病気です。息切れ、胸痛、咳などの初期症状があり、吸い込んでから約15~50年の潜伏期間をへて、発症します。また、アスベスト症の罹患者で喫煙した場合には、肺がんによって死亡するリスクが50倍以上になると云われています。

 2006年2月には、アスベスト(石綿)による健康被害者らに国が医療費などを払う「石綿被害者救済法」が、国会で成立しました。日本政府へ望まれる今後の課題は、省庁間の総合的な対策を基本に、家の改築・解体時の飛散防止、過去に吸入した人への健康対策、専門家の育成などの早急な対策を講じることだと考えられます。

 

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