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∥四百四病の事典∥
アスペルガー症候群とは、言語の習得に遅れのない自閉症近似の発達障害の一つ。広汎性発達障害の中に含まれますが、そのほかの広汎性発達障害との違いは、アスペルガー症候群には言葉の遅れがないということです。
2歳までに単語を発話し、3歳までには二語文を習得するのは自閉症と異なりますが、コミュニケーションをとったり、対人関係を築くことができないため社会生活に困難を生じてしまうのは自閉症のそれと同等です。対人関係の障害のほか、特定の分野への強いこだわりを示したり、感覚的あるいは生理的異常を示したり、運動機能の軽度な障害も見られたりします。
具体的な治療的対応は高機能自閉症(知的障害がない、あるいはほとんどない自閉症)と同様で、予後もほぼ同様であるとして、高機能自閉症と同じものとして扱われることもあります。しかし、多くの公的な文書においては、アスペルガー症候群と高機能自閉症とは同じ高機能広汎性発達障害の中に含まれますが、区分して取り扱われています。自閉症の延長線上にあっても、知的な遅れのないものが高機能自閉症で、さらに言葉の発達に問題を持たないものがアスペルガー症候群です。
日本では従来、アスペルガー症候群への対応が進んでいませんでした。2005年4月1日施行の発達障害者支援法により、アスペルガー症候群と高機能自閉症に対する行政の認知は高まった一方、社会的認知は依然として低い状態です。
オーストリアの小児科医、ハンス・アスペルガーが1944年、小児期より自閉的精神病質(性格異常の一種)を示す4例の症例報告を発表しました。このドイツ語で書かれた論文の存在とアスペルガーの名前を世界的にしたのが、イギリスの自閉症研究者であり臨床医であったローナ・ウイング。1981年の彼女の論文で、アスペルガー症候群の用語が始めて用いられ、1990年代になって世界中で徐々に知られるようになりました。
アスペルガー症候群の原因は、明らかになっていません。自閉症と同様に、家族的・遺伝的要因の関与を示唆する研究がありますが、結論は一般化されていません。現在、最も注目されているのが脳の先天的な機能障害説で、実験データなどもそろってきています。脳幹障害説、小脳障害説、前頭前野障害説、一時感覚と関連した機能障害説、扁桃体(へんとうたい)システム障害説など、国内外でさまざまな意見があります。
女性に比べて男性に多く発症することは確実ながら、自閉症ほどの優位性はありません。アスペルガー症候群の子供では、言語の習得に遅れを示さず、特定の分野に極端な関心と知識を持つだけなので、自閉症と比べて障害に気付かれるのが遅くなります。逆に、ユニークであるが早熟な子供と認識している親も、まれではありません。
運動機能の軽度な障害も見られて、多くが不器用。運動と生活動作の両面で差し障りを示したりします。特徴的なゆらゆら歩きや小刻みな歩き方をし、腕を不自然に振りながら歩くこともあります。手をぶらぶら振る(常同行動)など、衝動的な指、手、腕の動きが認められることもあります。
他者の気持ちを推測するのが苦手なため、コミュニケーションがうまくとれず、同年齢集団の幼稚園や保育園で友達ができにくく、成績はよいが友達がいないといった子供が多いようです。親とすらうまくコミュニケーションをとれないことも少なくありません。
また、固定化または儀式化された行動や癖を持ち、手順にこだわったり、大人びた話し方をしたり、話をする時に目を反らしたり、言葉に抑揚がなく単調で一本調子のしゃべり方をしたり、といった特徴もあります。やまびこのように、言葉やその一部を繰り返す反響言語(エコラリア)と呼ばれる症状を示す場合もあります。
視覚や聴覚、味覚などの感覚的異常、あるいは生理的異常を示すこともあります。例えば、ちょっとした日差しや雑音を嫌い、サングラスや耳栓をつけなければ外出できないような子供もいます。強い匂いに敏感だったり、頭を触られたり、髪をいじられるのを嫌う子供もいます。味覚が偏っているため、偏食になりやすい子供もいます。
想像力、応用力といった感性が欠如している反面で、規則を守ることが得意で、文字や数字、記号などに強い関心を持ち、絵を描くことなどに独特な才能を持っていることも特徴です。特によく関心の対象となるのは、鉄道・自動車などの輸送手段、コンピューター、数学、天文学、地理、恐竜、法律など。きわめて強い、偏執的ともいえる水準での集中を伴うことがあり、対象に関する大量の情報を記憶することがあります。
小学校ではほとんどの場合、通常学級で過ごすことになります。成績は科目によって大きく差があり、得意不得意がはっきりしています。学年が進むと、考え方や行動が独特で周囲から特別視される傾向にあります。同年代になじめないことから、いじめが発生したり、社会的になじめないことによるパニック、不穏、不登校といった問題が現れることもあります。
思春期を迎えると、それなりに周囲に適応するようになります。ただ、適応に失敗すると現実逃避、幻覚症状、気分障害といった二次的症状を引き起こす可能性があります。
仕事に就いた場合は、得手不得手があり、あいまいなことの判断に迷うなど、大きな問題を持ちます。自分と周囲との差から長続きせず、現実逃避してしまうことがあるといわれています。ただ、興味のある仕事を見付けることができれば、一気に才能が開花するといったこともあります。
児童精神科医、小児神経専門医を始めとした医師は、問診で症状、病歴、家族の病歴、生活習慣などの質問により診断していきます。その後、てんかんやその他の脳の病気でないことを確認するために、脳波検査、CT、MRIなどの脳の画像検査を行います。さらに、認知機能などを確認するために知能検査、人格検査などを行います。
一般的に疾患は薬や手術を行うことで治療できますが、アスペルガー症候群は治す疾患とは違います。アスペルガー症候群の原因は、現在の医学でははっきりとわかっていません。脳に何らかの障害がある、環境や遺伝に要因があるなど諸説あるものの、明らかな原因は解明されていません。
そのため、アスペルガー症候群に対する病院側の対応も、診断や療育支援にとどまり、薬を使うのはあくまでも二次的にうつ、不安障害などの症状が出た場合に限られています。うつや不安障害にはSSRI、強迫性障害にはSSRIやSNRI、幻覚・妄想には抗精神薬、気分障害には気分安定剤などが使用されます。
医師によっては、自閉症のための援助プログラムであるTEACCHや、認知行動療法などを行うことがあります。これらは基本的に、家庭生活で親と一緒に日常的に行う生活の改善や、訓練になります。
代表的なものは、生活のスケジューリング、明確に意図のある指示出し、なるべく刺激を与えない静かな環境づくり、何かに興味を持った際は応援する、長所を見付けほめる、テレビや映画を音声なしでみせて内容を予想させる訓練をする、演劇をさせ場面ごとにどのような態度をとるべきかを教える訓練をする、不適切な行動を記録し代わりとなる代替行動を教える、などです。
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