自らの体と心と病を知り/自らの健康を創る/健康創造塾// 人体 人体 人体 人体 人体

∥全身の出物が発する健康情報(1)∥

∥汗をチェックする∥

 

●人間の出す汗は二種類に分けられる

 私たち人間の肉体全体からの出物によって知る健康情報や、関連した健康法を述べていきたい。全身からの出物というと、まず汗が思い浮かぶところ。

 私たち人間は主として、食物と飲み水によって水分を補給しており、出てゆくほうの大部分は尿として出ると考えがちであろう。本当のところ、かなりの量の水分が息とともに、また皮膚などの表面から、気がつかないうちに蒸発して失われているのである。皮膚からの水分蒸発で誰もが気づくのは、暑い季節や運動した時に分泌される汗だ。

 一般的にいって、人間が汗を出すこと、発汗には、二つの大きな役目がある。一つは水分を出し、これが体表面で蒸発する時に体から奪う気化熱を利用して、体温を下げる自然作用である。

 実は、人間の体温は、非常に狭い範囲の変化しかしない。健康な時の体温が摂氏三十六・五度とすると、絶対温度では三百九・五度に当たり、これが一日にプラスマイナス〇・五度の変動をするだけだ。体温のサーモスタットは、非常に厳密にできているといってもよいだろう。

 つまり、体温がこの設定温度より少し上がると、汗腺から汗を出したり、全身の皮膚の血管が拡張して赤い顔になったりするし、設定温度より下がると震えによって熱を産生したり、毛が立つことで熱の放散を防ぐようになっている。

 もう一つの発汗の役目は、人間の体臭を形成するいろいろな要素の主なものとして、性的意義を持つことだろう。

 汗を出す汗腺には二つの種類があり、一つをエクリン腺といい、もう一つをアポクリン腺という。エクリン腺は体の表面の全体をおおっており、人間では二百万~四百万個くらいあるが、このうち本当に汗を出すのを能動汗腺といい、百五十万個くらい。

 一方、アポクリン腺というのは、毛と関係ある腺といわれるもので、毛の付け根の部分から出ている。この腺は、人間の場合には体温と関係なく働き、腋(わき)の下、乳首の周り、外陰部、肛門の周囲などに分布している。

 汗をかくのは人間だけではないことは、競走馬がレース終了後に、首のあたりにどっと汗をかいていることでもわかる。しかし、それも高等な哺乳(ほにゅう)動物のみで、犬や猫はほとんど汗をかかない。犬などは浅速(せんそく)呼吸といって、暑い時には口を開け、舌を出して、舌の表面からの水分の蒸発によって体温を下げている。「いかにも暑くて、苦しい」といった感じで人間は受け止めてしまうが、犬自身は特に苦しいわけではない。

 動物の汗腺としては、体表面にはアポクリン腺しかなく、馬の汗もアポクリン腺から出ている。猫なども含めた高等な哺乳動物では、エクリン腺は足の裏にのみある。猫に汗をかかない薬を与えると、木に登ることができない。動物の手のひらや足の裏の汗腺は、体温を下げることとは関係なく、物を握ったり、木に登ったりする時すべらないようにするためにあるのだ。ゴリラやヒヒなどは、体の表面にアポクリン腺とエクリン腺が混在している。

 では、人間の場合、アポクリン腺は何をしているのだろう。人間のアポクリン腺は、思春期にならないと分泌を始めない。このうち特に重要なのは、脇の下にある腺。これは油状の汗を出すが、その中にはアンドロステロンという男性ホルモンの一種が含まれている。女性の場合には、ほとんどアンドロステロンを含まないが、男性では十八歳から四十五歳くらいまでの間は、かなり大量のアンドロステロンを含んでいるのである。

 アンドロステロンは尿にも含まれる。動物の場合、これは性ホルモンの役割を果たしているが、人間の場合も体臭として性的意義を持つということである。

 確かに、人間のアポクリン腺の役割は動物ほどはっきりしていないにしろ、体臭が私たちの人間関係、社会生活に大きな役割を担っていることは間違いのないところである。

 また、においが性の刺激に関係することも事実ではないかと思われる。その証拠に、世界中の有名な香水の最も重要な原料は、動物の尿や便、肉の持つ性的なにおいの成分なのである

●発汗は老廃物の排泄機能も持つ

 再び、人間の体温を調節するための汗の話に移る。汗が蒸発する時に体から奪う気化熱によって、体重七十キロの人が百CCの汗を出すと、体温は摂氏一度下がる計算になる。

 そうすると、単純にいえば、外気温が四十度のところにいる同体重の人が、体温を三十七度にまで下げるには、三百CCの水を汗で失うことが必要になる。

 このような発汗による体温調節は体表面のエクリン腺が行うが、手足の裏からの発汗は外界の温度と関係ない。例えば、三十五度の部屋に入っていると、自然に胸部や額に汗が出てくるが、手のひらには全く汗が出ない。一方、適度な室温で暗算をさせると、数分で手のひらから汗が出るが、額からは汗が出ない。

 このように皮膚を熱すると起こる発汗は温熱性発汗、精神的努力によって起こる発汗は精神性発汗といわれている。文字通り手に汗を握る精神性発汗を利用しているものに、うそ発見器がある。

 以上に説明したように、人間の汗腺はその種類によっても、存在する場所によっても、役目が異なるのである。

 さて、汗腺は血液の成分をろ過、浄化しているのであるが、ふだんは血漿(けっしょう)成分のうち必要なものはもう一度吸収して、汗の中に出さないようにしている。

 しかし、汗が多く出るようになると、食塩の再吸収が追いつかなくなるので、それが漏れ出してくる。血漿中の塩分は〇・九パーセントくらいであるのに対して、汗では〇・六五~一パーセントくらいになる。

 こうなると当然、発汗は食塩の喪失をともなうことになる。発汗の結果、食塩を大量に失うことは人体にとって好ましくないから、喪失を補う必要が生じる。

 それはともかく、冷や汗は別として、汗をかくのはよいことである。余分な水分や老廃物を体外に排出させることで、腎臓は活性化し、疲労は回復、少しの風邪なら飛んでいく。

 この際、発汗の第三の大きな役目を見直してもらいたいものである。

 近頃の人間は、汗をかかなくなった。しばらく前の子供は背中や首筋に、たくさんのアセモを出していたものなのに、最近の子供はそうでもないらしい。エアコンや扇風機など冷房設備の普及によるものだろう。

 なるほどクーラーは快適で、真夏の候でも暑さ知らずで過ごす人もあることだろうが、それによる弊害のあることも知りたい。人間、尿が出なければ大騒ぎする。汗をかかないことも、人間の生理にとっては一大事である。

 夏の季節に、体を適当な暑さで鍛えるということは、人間生理にとって大切なことなのである。特にカドミウム、PCB、水銀、農薬、添加物などによる食品汚染が問題とされている昨今、これらの有害物質を全く取り入れないということは不可能に近いことである。そこで、摂取した有害物質を排除する方法を研究する必要がある。

 幸いなことに、人間は自動的に有害物質を体外に排泄する機能を完備している。それが汗腺である。自然の中を歩いて汗を出すことである。働いて汗を出すことである。真夏に自然に汗を出すことである。

 この汗が、有害物質を道連れにしてくれるのである。何とあする一方となる。

 最近、アトピー性皮膚炎を始め、昔はなかったような得体の知れない病気が続発していることが、このような文化の発達と無関係でないとしたら、文化とは人間にとって何なのか、という疑問を投げかけたくもなるのである。

●積極的な歩きで汗をかいて体力回復

 有害物質を排泄してくれる汗の効用を活用した健康法の一つとして、朝などに、歩くことをお勧めしたい。

 最近、アトピー性皮膚炎を始め、昔はなかったような得体の知れない病気が続発していることが、このような文化の発達と無関係でないとしたら、文化とは人間にとって何なのか、という疑問を投げかけたくもなるのである。

 歩くといっても、最近の人たちは何しろ運動不足だから、大きく手を振って汗をかくくらいに、せっせと歩かなければ駄目なものである。 人間の体というものは、使わなければそれだけ衰えていく。あまり大切にしすぎても、かえって体のためにならない。  

 いろいろな機関の最近の医学的研究によると、一般社会人が健康状態を維持するには、一日に三十分以上歩く必要があるという。一日の歩数の多い人ほど、心電図異常の発現が少ないとか、動脈硬化を助長する高脂血状態が改善されるという発表も見られる。

 加えて、体を支える足を使って歩くのは、脳の働きも活性化する。歩くことによって、血液の循環はよくなり、血圧も調節され、その上、脳の働きもよくなるのである。

 手の運動をつかさどる脳の分野があるように、足の運動をつかさどる働きも、位置と占める割合こそ違うが大脳にはある。この大脳にある足の運動を担当する領域と互いに連動し合って、歩くのに使われる筋肉は、特に歩行筋と呼ばれており、お尻の筋肉である大臀(だいでん)筋、大腿四頭(だいたいしとう)筋、下腿(かたい)の腓腹(ひふく)筋やヒラメ筋などである。  

 これらの歩行筋だけで全身の筋肉の半分以上を占めているのだから、気づいていないかもしれないが、歩くという単純な運動を続けるだけで、大脳ばかりか、体の多くの筋肉を鍛えることができるのである。

 同時に、腹筋と背筋を強くするのに、歩くことは効果的だ。また、歩くことの刺激によって、人体の横隔膜の下にある肝臓、胃、腸、脾(ひ)臓、膵臓、膀胱、それに女性ならば子宮などの臓器において、停滞している機能が適度にほどけて、働きが活発になる。

 すると、横隔膜の上位にある心臓も肺も、機能的に血液の循環をよくし、血液への酸素の供給が盛んになるため、当然、意識はすっきり、気分はさわやかになってくるのである。血液の流れが速くなるので、管にたまった汚れを掃除する。血管が膨張して、若返る。しかも、刺激が強すぎることもない。

 歩くことは、基本的に無害なトレーニングであり、運動なのである。この点、運動生理学者も、トレーニングによって体を鍛えられるだけでなく、精神的なストレスも軽減できると保証している。

 さらに、歩くことによって下半身の筋肉の運動がなされて、腸の蠕動運動も順調になる。便秘というものは、腸の蠕動運動が鈍るために起きる現象である。

 やはり、私たちの体は頭と同様、上手に使うことが、その健康維持に大切なのである。頭でも足でも使わないと、だんだん委縮する。機械化、自動化、省力化が進むにつれて、人間の体力は当然落ちていく。下半身に力のない人は、概して感情や圧力を起こしやすく、ヒステリー的である。

 なるべく下半身を鍛えるためにも、二本足で歩いて汗をかくという人間の自然な、根源的な行為を大切に心掛けたいものである。毎日の通勤、通学の際、一駅前で下車して歩く、買い物の時いつもより遠くの店へゆくなど、意識的に工夫をしたり、特別な運動プログラムを組むなどして、あなたも一日三十分以上、ないし一日一万歩を目指して努力してはいかがだろうか。

 人間が歩くことは、決して高度な技術や装備が必要なわけではない。難しさがあるとすれば、実行するやる気一つ、意志一つである。

 

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