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∥四百四病の事典∥
原田病とは、眼球を覆っている、ぶどう膜の一部あるいは、すべてが炎症を起こす疾患。ぶどう膜とは、虹彩(こうさい)、毛様体、脈絡膜の総称です。
ぶどう膜は、眼球の外膜と内膜に挟まれた中間の層です。この層の膜は外から見えませんが、ぶどうの色をしていて、形も果物のぶどうによく似ており、虹彩、毛様体、脈絡膜の三つの部分で構成されています。
虹彩は、瞳孔(どうこう)の周囲にある色の付いた環状の部分で、いわゆる茶目に相当する部分です。カメラレンズの絞りのように開いたり閉じたりして、眼内に入る光の量を調整します。
虹彩に続く毛様体は、いくつかの筋肉が集まった部分で、目のピント合わせをします。毛様体が収縮すると、水晶体が厚くなって近くの物に焦点を合わせることができ、毛様体が緩むと、水晶体が薄くなって遠くにある物に焦点を合わせることができます。同時に、毛様体で作られる房水は、目の内圧を一定に保つのに重要な働きをしています。
脈絡膜は、毛様体の縁から眼球後部の視神経のところまで広がっている部分。最も血管に富んで色素の多い組織で、網膜を裏打ちして目に栄養を与え、暗室効果を作って目を保護する役割を果たしています。
このぶどう膜の一部、あるいは全体が炎症を起こすのが本症ですが、炎症がぶどう膜の一部に限定されている場合は、その場所によって前部ぶどう膜炎、中間部ぶどう膜炎、後部ぶどう膜炎と呼ばれます。ぶどう膜全体に及ぶ炎症は、びまん性ぶどう膜炎、もしくは全ぶどう膜炎と呼ばれています。
また、ぶどう膜炎は、炎症を起こしている部位によって虹彩炎、脈絡膜炎、網膜脈絡膜炎と呼ばれることもあります。網膜脈絡膜炎は、脈絡膜とその上の網膜の両方に及ぶ炎症です。普通、片側の目だけに炎症が出ますが、両目に出ることもあります。
ぶどう膜に対する過剰な自己免疫反応や、細菌、ウイルス、真菌(かび)などによる感染が原因となることがありますが、原因を特定できないこともしばしばで、特発性ぶどう膜炎と呼ばれます。
原田病は頻度の高いぶどう膜炎として、ベーチェット病、サルコイドーシスとともに三大ぶどう膜炎に挙げられています。三大ぶどう膜炎はいずれも、目ばかりでなく、それぞれの疾患に特徴的な全身症状が認められます。原田病とサルコイドーシスは自己免疫系の異常が原因で発症し、ベーチェット病は原因不明で、ウイルス説、アレルギー説、自己免疫説などが考えられています。
原田病では、色素細胞に対する自己免疫反応が起こることが原因と考えられ、目のぶどう膜だけでなく、色素細胞がある脳、皮膚、毛髪、内耳などの組織も侵されるため、ぶどう膜・髄膜炎症候群とも呼ばれています。
なぜ色素細胞に対する自己免疫反応が起こるのかは、不明。遺伝的素因が関係しているといわれており、白血球の血液型に当たる組織適合抗原(HLA)の中の特定の型(DR4やDR53)が深く関わっているといわれています。
発熱、のどの痛みなどの風邪のような症状、耳鳴り、難聴、めまい、頭痛などが、目の症状に先立って現れることもあります。時に、頭皮にピリピリするなどの違和感が出てきます。目の症状は、まぶしい、目の奥のほうが痛い、物が見えにくいなどが、通常、両目に現れます。 網膜と脈絡膜の間に水がたまり、滲出(しんしゅつ)性網膜剥離(はくり)を伴います。
原田病は、日本人を含め、アジア系の人種に多くみられます。
治療が遅れると炎症が慢性化しやすいので、早めに眼科を受診します。
医師が眼底検査を行うと、網膜剥離を伴う特徴的な炎症像がみられます。この滲出性網膜剥離は炎症に伴って起こるもので、通常の網膜に裂孔ができて起こる網膜剥離と違って、手術の必要はありません。炎症を鎮めることによって治ります。
造影剤を注射して蛍光眼底造影検査を行うと、網膜剥離に相当するところで造影剤が漏出するなどの特有の所見が得られます。髄液検査や聴力検査なども必要です。
原田病の治療は、目に永久的な障害が出るのを防ぐため、早期に開始する必要があります。治療の中心は、炎症を鎮めるための副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の大量点滴投与です。
ホルモンの一種でるステロイド剤を大量に投与すると、血栓の形成、高血圧、血糖上昇などの重い副作用が出る危険性もあるので、入院が必要です。超大量のステロイド剤を短期間に集中して投与する、いわゆるパルス療法が行われることもあります。
前部ぶどう膜炎を併発することも多く、局所的な治療として、消炎のためのステロイド剤の点眼や、虹彩と水晶体の癒着防止のための散瞳(さんどう)剤の点眼も行われます。
多くの場合、発症後2カ月くらいで回復期に入り、網膜剥離の消失に伴って視力も戻ってきます。回復後、眼底は色素脱失により、いわゆる夕焼け状眼底と呼ばれる特徴的な状態になります。色素細胞の損傷によって、皮膚や頭髪、まゆ毛などの一部が白くなることもあります。
目の炎症は一度治ってから再発することもあり、注意が必要です。特に、過労やストレスが再発の誘引になることがありますので、日ごろから規則正しい生活を心掛け、心身ともに十分な休養を取ることが大切です。
万一、原田病と診断された時は、症状の経過や治療内容をよく書き留めておき、転居などで通院する医療機関が変わった場合でも、スムースに治療を引き継げるようにしておくことが望ましいといえます。
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