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∥四百四病の事典∥


セレウス菌食中毒

■食物の腐敗細菌であるセレウス菌によって引き起こされる食中毒

 セレウス菌食中毒とは、食物の腐敗細菌として古くから知られているセレウス菌によって引き起こされる食中毒。似たものに、ウェルシュ菌食中毒、エルシニア食中毒があります。

 セレウス菌は土壌細菌の一つで、土壌、水、ほこりの中など自然環境に広く分布し、農作物などを濃厚に汚染しています。米や小麦を原料とする食品中で増殖すると、エンテロトキシンを始め、いくつかの異なる毒素を作ります。従って、このセレウス菌による食中毒は、毒素の違いにより下痢型と嘔吐(おうと)型の2つのタイプに分類されます。

 日本では、後者の嘔吐型がほとんどで、米飯、焼き飯によるものが圧倒的に多く、全体の70パーセント以上を占めています。また、食品中では芽胞を作って生存し、発芽して増殖する温度は10~45度、至適温度は28~35度で、熱に抵抗性があります。

 原因となる食品は、米飯、焼き飯のほか、ピラフ、オムライス、チキンライス、焼きそば、スパゲティ、弁当、にぎり飯、すし、カレー、プリン、スープ、野菜、野菜の煮物、豆腐のおから、厚焼き卵、ローストチキン、ハンバーグ、香辛料などが挙げられます。とりわけ、前日またはそれ以前に炊いた米飯を調理加工した食品、調理した焼き飯などを室温で長時間放置した残り物が、主な原因となります。

 下痢型は主に食肉製品やスープから感染し、潜伏期間は8~16時間で、主な症状は腹痛、下痢で、ウェルシュ菌食中毒に似ています。下痢毒素のエンテロトキシンは、56度5分の加熱で毒力がなくなります。

 嘔吐型は主に米飯、焼き飯、スパゲティから感染し、潜伏期間は1~5時間で、主な症状は激しい吐き気、繰り返す嘔吐、腹痛で、ブドウ球菌食中毒に似ています。嘔吐毒素は、熱に強く126度90分の加熱でも安定しているので、調理過程ではなかなか死滅しません。抵抗力の弱い高齢者がかかった場合は、死亡することもあります。

 なお、このセレウス菌食中毒が正式に厚生労働省の食中毒統計に収載されるようになったのは、1983年(昭和58年)からです。

■セレウス菌食中毒の検査と診断と治療

 セレウス菌は少量摂取しても決して食中毒にはかかることはなく、必ず、食品中でおびただしく増殖することが、食中毒の前提となっています。下痢型で感染型のセレウス菌食中毒、嘔吐型で毒素型のセレウス菌食中毒とも、症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診し適切な処置を受けます。自己判断で下痢止めの薬などを飲むと、回復を遅らせることもあります。

 医師は急性の中毒症状から感染を疑いますが、セレウス菌食中毒と確定するには、実際に糞便(ふんべん)や原因食品、または食品原材料から原因となっている菌を分離することが必要です。下痢型ではウェルシュ菌食中毒、嘔吐型ではブドウ球菌食中毒との鑑別がなされます。

 感染初期や軽症の場合は、整腸剤を投与したり、輸液によってブドウ糖液、リンゲル液などの電解質液、あるいは水を補充して症状の改善を待ちます。高齢者などで重症化した場合は、抗菌剤の投与による治療も行われます。

 セレウス菌食中毒の予防対策は他の食中毒と変わりませんが、米飯および焼き飯による食中毒予防のポイントを紹介します。

 一度に大量の炊飯をせず、焼き飯などの調理加工までの時間を短くし、十分に加熱すること。焼き飯などに使用する鶏卵は、新鮮なものを使用すること。調理加工した食品は、できる限り保存せず、早めに食べること。

 保存する場合は、炊飯後の米飯は素早く50度以上の高温、または10度以下に冷却すること。調理加工後の食品は、2時間以内に冷蔵庫に入れること。米飯を放冷する時は、小分けにするか、清潔な容器に移し、できるだけ早く温度を下げること。米飯、焼き飯などは、10~50度の温度帯で保存しないこと。さらに、常温では2時間以上放置しないこと。

 大量に作った焼き飯などを翌日再調理することは、避けること。

 

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