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∥四百四病の事典∥
ウェゲナー肉芽腫(にくげしゅ)症とは、鼻と肺の肉芽腫、壊死(えし)性半月体糸球体腎(じん)炎が認められる全身の血管炎。膠原(こうげん)病の中でも、まれな病気です。
1939年にドイツの病理学者であるウェゲナー博士によって、世界で初めて報告されました。原因はいまだ不明ですが、免疫の異常の関与が考えられており、抗好中球細胞質抗体という自己抗体が、風邪などの上気道感染の後に炎症によって産生されたサイトカインとともに好中球を活性化し、各種の悪害因子を放出して、血管炎や肉芽腫を起こすと見なされています。
日本では、国の特定疾患(難病)に指定されていて、全国に600~800人ほどの発症者がいると考えられています。男女比は1:1で明らかな性差は認められていません。
鼻腔(びくう)や肺、腎臓に、炎症によって細胞が異常増殖して塊になった肉芽腫ができ、さらに全身に血管炎を生じるため、さまざまな症状を引き起こします。全身症状として、発熱、倦怠(けんたい)感、食欲不振、体重の減少があります。
全身症状に続いて、または同時に、鼻、目、耳、咽喉(いんこう)頭などの上気道、肺、腎臓の炎症による症状が起こります。上気道のうち鼻腔に肉芽腫ができると、鼻詰まりや血の混じった鼻汁が出ます。慢性鼻炎や副鼻腔炎が起こりやすくなります。その他の上気道に炎症が起こると、難聴、耳漏、耳痛、視力低下、眼充血、眼痛、眼球突出、咽喉頭痛、嗄声(させい)などがみられます。
肺に肉芽腫ができると、せきやたんが出て、血たんが出ることもあります。X線で検査すると、肺に肉芽腫による影や空洞が映ります。腎臓に肉芽腫を伴った炎症が生じると、蛋白(たんぱく)尿や血尿が出て、腎臓の機能が落ちてきます。その他の血管炎を思わせる症状として、紫斑(しはん)、多発性関節痛、多発神経炎などが起こります。
ウェゲナー肉芽腫症では、すべての症状が起こるわけではなく、一人一人の発症者によって出てくる症状、障害される臓器が違うことに、理解を要します。最初は、鼻や耳の疾患、あるいは胸の疾患を思わせる症状が出て、後で腎臓を含め全身の血管炎による多臓器の症状を呈する場合があり、注意が必要です。専門医の指示に従い、早期発見、早期治療を行うことが勧められます。
医師による診断では、血液検査で炎症反応を調べたり、血清中の抗好中球細胞質抗体が陽性かどうかを調べます。さらに、肉芽腫ができやすい鼻腔、肺、腎臓の生検を行って組織を調べて、診断を確定します。肺の肉芽腫を調べるには、MRIやCT検査も行われます。
治療には、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)と免疫抑制剤が用いられます。普通、副腎皮質ホルモンと免疫抑制剤を併用して1カ月から2カ月大量に投与し、以降は疾患の活動性と血液中の抗好中球細胞質抗体の値の推移を見ながら、徐々に減量していきます。症状が落ち着いた状態になったら、使用している免疫抑制療法を維持し、疾患が再発しないように6カ月~5年ほどの長期間に渡って、慎重に経過を観察することが必要です。
また、このウェゲナー肉芽腫症は上気道、肺に二次感染を起こしやすいので、必要によりサルファ剤と抗菌薬を配合したST合剤の内服、鼻腔、咽頭ネブライザーなどにより、細菌感染症に対する対策を十分に行うことも大切です。
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