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慢性骨髄増殖性疾患
骨髄の働きが病的に盛んになり、赤血球、白血球、血小板が増加する慢性疾患
慢性骨髄増殖性疾患とは、骨髄の働きが病的に盛んになって、赤血球、白血球、あるいは血小板が増加する疾患の総称。
全身を巡る血液中には、酸素を運ぶ役割をする赤血球や、感染防御をする白血球、出血を止める働きをする血小板という血液細胞が含まれています。これらの赤血球、白血球、血小板は、骨の中心にあるゼラチン様の骨髄で造られ、血液中で一定の数に保たれています。感染や出血などの体の変化に対応して、赤血球などの数値は変化することもありますが、体が正常に戻ると数値も正常化します。
しかし、骨髄の働きが病的に盛んになって、赤血球、白血球、あるいは血小板が増加することがあり、慢性骨髄増殖性疾患を生じます。
骨髄の細胞が増殖するという意味で、急性白血病を骨髄増殖性疾患の急性型に入れたり、骨髄の異形成の増殖という点で骨髄異形成症候群も骨髄増殖性疾患に含める場合もあります。一般的には、慢性の経過をたどるものを総称して慢性骨髄増殖性疾患と呼んでいます。
この慢性骨髄増殖性疾患には、慢性骨髄性白血病、真性多血症、本態性血小板血症、特発性骨髄線維症などが属しています。日本における慢性骨髄増殖性疾患の発症頻度は明らかではないものの、100万人当たり数人で、アメリカと同程度と考えられます。
慢性骨髄性白血病は、血液のがんともいわれる白血病が緩やかに進行する疾患で、未熟な細胞である造血細胞(白血病細胞)が骨髄の中で異常に増殖するため、正常な血液細胞の増殖が抑えられてしまい、血液において白血球や時に血小板が増加します。主として成人に発症し、いつ発症したのかはっきりしないことが多く、また、ゆっくりと進行します。貧血、体のだるさ、脾臓(ひぞう)あるいは肝臓部のしこりを生じます。
真性多血症では、赤血球の増加が著しくなることにより、顔が赤ら顔となります。白血球に含まれるヒスタミンという物質などの放出によって、全身にかゆみが生ずる場合もあります。多くの場合、自覚することはないものの、脾臓がはれています。
本態性血小板血症は、血小板が著しく増加することが特徴で、増加する血小板の働きが高進する場合と低下する場合があり、それぞれ血栓症や出血症状が現れることがあります。血管が詰まることによっていろいろな症状が発生し、痛みや冷感を伴ったり、紫斑(しはん)と呼ばれる青あざなどが生じます。
特発性骨髄線維症では、骨髄の線維化によって造血が正常に行われず、脾臓や肝臓などの骨髄以外のところでの髄外造血によって血液が造られるようになります。疾患の進行によって貧血が生じたり、脾臓がはれることにより腹部が張ったりする症状が出ることがあります。
これらの慢性骨髄増殖性疾患では、全く症状のない場合もあります。赤血球、白血球、血小板の算定は、採血さえすればどこででもできる簡単な検査なので、健康診断や病院を受診した際の血液検査の結果、異常値によって慢性骨髄増殖性疾患が疑われることもあります。
慢性骨髄増殖性疾患の検査と診断と治療
内科の医師による診断では、慢性骨髄性白血病が疑われた場合、血液検査、骨髄検査を行います。正常なら骨髄の中だけにある未熟な白血球が、骨髄だけでなく血液の中でも多数認められ、血小板も増加しています。また、骨髄では未熟な赤血球が極端に減少し、対照的に白血球が充満しています。染色体を検査すると、フィラデルフィア染色体という特殊な染色体が大部分の症例で見付かり、診断の決め手となります。
真性多血症が疑われた場合、放射性同位元素や色素などにより循環赤血球量を測定したり、動脈の酸素濃度を調べたり、超音波検査などによって、脾臓がはれているかどうかを調べます。
本態性血小板血症が疑われた場合、特異的な検査法がないため、慢性骨髄性白血病などのほかの慢性骨髄増殖性疾患を除外し、がんや鉄欠乏性貧血や各種の感染症などによる二次性の血小板増加症との鑑別を行います。
特発性骨髄線維症が疑われた場合、骨髄穿刺(せんし)によって骨髄液を採ろうとしても線維が増えているために十分に採ることができないため、骨髄の組織の一部を採取して調べる生検により骨髄の線維化を証明することで確定します。骨髄の線維化は、白血病や悪性リンパ腫、あるいはがんの骨髄転移によっても起こり、膠原(こうげん)病や結核などが原因になる場合もあるので、これらの疾患を除外する必要があります。
特発性骨髄線維症の初期段階では、若い細胞が血液に出てきたり、普通はみられない変形したものがみられたりするため、慢性骨髄性白血病と血液検査のデータが類似し、判別が難しいことがあります。慢性骨髄性白血病と判別するためには、骨髄生検の結果のほかに、フィラデルフィア染色体およびBCR/ABL遺伝子を認めないこと、一般的に好中球アルカリフォスファターゼ活性が低下しないことが重要になります。
慢性骨髄増殖性疾患を治すことは困難ですが、検査値を正常に近付けるような治療により、合併症もなく外来通院で長い間、普通の日常生活を送ることが可能です。
内科の医師による慢性骨髄性白血病の治療では、急性白血病のように強力な化学療法は行わず、外来で経口投与する抗がん剤によって、血液中の白血球数を抑えて、コントロールします。化学療法の進歩によって、ほぼ100パーセントの症例で寛解(かんかい)させることができますが、最後は急性白血病に変わっていくことが少なくありません。
慢性骨髄性白血病には近年、画期的な分子標的薬剤のグリベックが開発されました。グリベックはフィラデルフィア染色体上にある、この疾患の原因となるBCR/ABL遺伝子が産生するチロシンキナーゼの働きを特異的に阻害する薬剤。経口で投与でき、副作用が比較的軽度なので、外来で治療可能です。しかし、ドナーのある場合は、骨髄移植が依然として治癒を狙う第1選択の治療戦略です。
真性多血症の治療では、赤血球数の増加により血管が詰まって血栓症が生じたり、心不全になる可能性があるため、初診時の検査値によっては、点滴で水分を補給しながら200~400mlくらいの採血を繰り返す瀉血(しゃけつ)を行うことがあります。ヘマトクリット(血液中の赤血球成分の割合)を45パーセントくらいに保つことによって、血栓症や出血による症状を防ぐことができますので、多くの場合は、瀉血をする場合でも、同時に経口剤を併用したり、注射をして赤血球の産生を抑え、赤血球数をコントロールします。
これらの治療は検査値を見ながら行いますので、必ずしも長期間続けるわけではなく、断続的に繰り返すことがよくあります。
本態性血小板血症の治療では、血小板数を減らすために経口剤や点滴注射を行います。また、機械により自動的に採血した血液を遠心し、血小板のみをとり除いて再び体に戻すような成分採血による血小板除去を行うこともあります。血小板の機能を抑えるために、血小板凝集抑制作用のある薬剤を併用することもあります。これらの治療を断続的に繰り返したり継続しながら、血小板数をコントロールします。
特発性骨髄線維症の治療では、根本的な治療法はまだ確立されていないため、専ら対症的に治療を行うことになります。症状に応じて、経口抗がん薬の投与や輸血療法などが選択され、条件が整えば、治癒を目的として行われる唯一の方法である造血幹細胞移植も考慮されます。
白血球や血小板の増加が著しく、脾臓のはれが目立つ場合に、メルファラン(アルケラン)、ハイドロキシウレア(ハイドレア)などの経口抗がん薬が使用されます。脾臓のはれのための圧迫感や痛みがある場合には、手術による脾臓の摘出や脾臓への放射線治療なども考慮されます。貧血や血小板減少が進行した場合には、輸血療法が行われます。
通常では50歳以下の年齢であること、白血球の型が一致したドナーがいることなどの条件が整えば、造血幹細胞移植が選択肢の一つとなります。しかし、移植に伴う合併症の危険についても十分に考慮する必要があり、その適応は慎重に検討されなければなりません。発症者には比較的高齢者が多いため、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性造血幹細胞移植も試みられています。
経過はさまざまなものの、約15〜20パーセントの発症者では、急激に悪化して急性白血病などに移行します。この場合は治療が極めて難しく、予後不良です。
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