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肘トンネル症候群

肘の皮膚表面近くを通る尺骨神経が狭いトンネル内で圧迫されて起こる障害

肘(ひじ)トンネル症候群とは、肘の内側の皮膚表面近くを通る尺骨(しゃくこつ)神経が圧迫されて起こる障害。肘部管(ちゅうぶかん)症候群とも呼ばれます。

腕に走る大きな神経の1つである尺骨神経は、肘の内側にある内側上顆(ないそくじょうか)という骨の出っ張りの後ろを通り、その先にある骨と靭帯(じんたい)などで形成された肘部管という狭いトンネルをくぐって、手に伸びていきます。トンネル内は狭くゆとりがないため、慢性的な圧迫や引き延ばしが加わると、容易に尺骨神経まひが発生します。

肘トンネル症候群の原因は、現在では変形性肘関節症による肘関節の変形がその多くを占めています。変形性肘関節症は肘をよく使う人に発症しやすいことから、肘トンネル症候群は30歳以上の男性に多くみられます。一般に、利き手側に起こり、両手に同時に発症することはめったにありません。

尺骨神経は肘の皮膚表面近くを通っていて、何度も肘をついたり、長時間に渡って肘を曲げたままでいたりして、簡単に障害されます。野球のピッチャーは、スライダーを投げる際に腕を過剰にひねるため、肘トンネル症候群になりやすい傾向があります。

そのほか、肘関節部の骨折、肘部管を構成する骨が隆起した骨棘(こつきょく)、靭帯の肥厚、肘部管内外にできたガングリオン(結節腫〔しゅ〕)、外傷などから起こる場合もあります。 小児期の骨折によって生じた外反肘(がいはんちゅう)という、肘を伸展させると過剰に外側に反る変形によって、神経が引き延ばされて起こる場合もあります。

尺骨神経の働きは、手首の屈曲、小指と薬指の屈曲、親指を人差し指の根元にピッタリつける内転、親指以外の4本の指を外に開く外転、4本の指を互いにくっつける内転です。 知覚神経は、小指、薬指の小指側半分、手のひらの小指側半分を支配します。

尺骨神経が圧迫されたり引き伸ばされると、ほとんどの場合、最初は小指と薬指の小指側半分のしびれや痛み、感覚障害が起こってきます。また、尺骨神経は手のひら側と甲側の両方を支配しているので、指全体がしびれるのが特徴です。寝て起きた際にしびれていることが、しばしばあります。肘周辺のだるさ、前腕内側の痛みやしびれが出現することもあります。

尺骨神経の障害が進むと、親指の付け根の母指球筋以外の手内筋が委縮して、やせてきます。特に、手の骨と骨との間の筋肉がやせるので、指を開いたり閉じたりする力が弱くなったり、親指の内転困難によって親指と人指し指で物をつまむ力が弱くなったり、はしが使いづらくなったりなど、細かい動きがうまくできない巧緻(こうち)運動障害が生じます。顔を洗うために手で水をすくったりする動作も、難しくなってきます。

そのほか、手の筋肉が固まって指が曲がったままになる鉤爪(かぎづめ)変形(鷲手〔わして〕変形)と呼ばれる独特の現象が起こることもあります。

小指や薬指にしびれや痛みがあり、肘の内側にある内側上顆の後ろをたたくとしびれや痛みが走ったら、整形外科を受診して下さい。一般に、症状が軽いほど、早い回復が見込めます。手指の筋肉にやせ細りがあれば、急を要します。

肘トンネル症候群の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、損傷した神経の位置の特定するために、神経伝導試験を行います。親指の付け根の母指球筋以外の手内筋の筋委縮や鉤爪変形、両手の親指と人差し指で紙をつまみ、医師が紙を引く時に親指の第1関節が曲がるフローマンサインがあれば、診断がつきます。

感覚の障害がある時は、皮膚の感覚障害が尺骨神経の支配に一致していて、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢(まっしょう)神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。

確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI検査、超音波検査など必要に応じて行われます。X線検査では、変形性肘関節症や骨折の経験などがわかりますし、肘を曲げた姿勢でX線検査を行うと、肘部管の狭窄(きょうさく)などもわかります。

 首の病気による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害などとの鑑別が必要で、問診で首の痛みや肩凝りがあるかなどを聞くこともあります。

整形外科の医師による治療は通常、筋肉の硬直を防ぐために理学療法で治療します。超音波治療、電気治療、ストレッチング、アイスマッサージ、アイシングを主に行い、夜間に肘が過度に曲がるのを避けるために添え木で固定したり、肘の負担を避ける肘用のパッドを着用したりします。

肘の圧迫や長時間の肘の屈曲など、明らかな誘因がある場合には、生活習慣の改善と局所の安静で軽快することが多い傾向にあります。ビタミン剤の内服も有効と考えられます。

筋委縮を起こしている場合や、肘関節部の骨折やガングリオンなどよって肘関節に変形を起こしている場合では、手術が必要になります。手術方法には、ガングリオンの切除、腱弓(けんきゅう、オズボーンバンド)の切開、内側上顆の切除、神経の前方移行術などがあります。

腱弓の切開は、尺骨神経を圧迫している膜状の組織を切る手術です。ほかの手術に比べて簡単ですが、再発する場合があります。手術後は、1週間ほど肘を固定します。

内側上顆の切除は、肘を曲げた時に内側上額で尺骨神経が引っ張られ、圧迫されないように、内側上顆を切除します。再発も少なく、肘トンネル症候群の手術としては、日本では最もよく行われています。手術後は、1週間程度の肘の固定が必要です。

神経の前方移行術は、尺骨神経を内側上顆の後ろから前側に移す手術です。手術方法には、前側の皮膚の下に神経を移す皮下前方移行術と、指を握る筋肉の下に移す筋層下前方移行術があります。皮下前方移行術では3週間程度、筋層下前方移行術では1カ月程度、それぞれ肘を固定します。

手術後は、神経の回復を促すために、ビタミンB12剤を服用したり、低周波療法などを行うこともあります。回復の早さは、神経の障害の程度によって異なります。

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